特殊体質?
「――うわぁ、かっわい〜! ……あっ、言っときますけど可愛いって言ってる自分可愛いアピールじゃないですからね?」
「……いや、何の話ですか……ですが、本当に可愛いですね」
「へっ、私がですか?」
「……いや、もちろん降宮さんはとても可愛いですけど今言ったのは――」
「……そ、そうですか……」
それから、一時間ほど経て。
そう、キラキラと目を輝かせ声を上げる降宮さん。だけど、何故か弁解するように僕へと……いや、何の話ですか。別にアピールなんて思ってませんよ。そもそもアピールなんてせずともみんな知ってますよ、貴女がとても可愛いことなんて。……ところで、何とも馬鹿なやり取りをしていたせいか、他のお客さんや飼育員さんからの視線が、こう……うん、ほんと恥ずかしい。
ちなみに、可愛いと言っていたのは、今僕らの間近にいる大きなイルカに対してで。どうやら、イルカに餌をあげたり触ったりという体験が出来るコーナーがあるみたいで。
「ところで、先輩は触らないんですか? とてもツルツルしてて心地が良いですよ?」
「……いえ、僕は……その、僕がうっかり指一本でも触れようものなら忽ち病気になってしまいますから」
「いやどんな特殊体質ですか。……まあ、無理にとは言いませんが……それでは、せめて餌をあげたらどうですか? きっと喜びますよ、イルカちゃん」
「……いえ、ですがそれでは餌に病気がついてしまうので、結果的に……」
「……あの、その理屈だと私はなんでピンピンしてるんでしょう。しょっちゅう貴方の料理を食べてるんですけど、私」
その後、イルカちゃんを優しく撫でる降宮さんとそんなやり取りを交わす。……まあ、そう言われればそうなんだけども。でも、万が一幸運にも病気にはならなかったとしても、それでも触れないに越したことはない。人間であれイルカであれ、僕に触れられて不快にならない生き物なんてきっとこの世に存在しないだろうし。
その後も、しばしイルカちゃんと楽しく触れ合い……いや、僕は物理的には触れてないけど、ともあれイルカちゃんと楽しい時を過ごし再び館内を巡る僕ら。ちなみに、せめて餌だけでもあげるようにと降宮さんが強く主張するので、しっかりアルコール消毒をした上で軍手を着用。そして、申し訳なくも長めのトングを飼育員さんからお借りしてどうにか餌を……うん、すっごい痛かったね、みんなの視線が。
「ところで先輩。そろそろ昼食にしませんか? 三階の隅の方に、ゆったりとお話し出来そうな素敵なカフェがあったんですよ」
「……ああ、あれですね。確かに素敵でしたね。とても落ち着けそうな優しい色彩でしたし」
「そう、そうなんですよ! さっすが先輩! それではさっそく行きましょう!」
すると、隣からそう問い掛ける降宮さん。時刻を確認すると、現在13時47分……うん、確かにそろそろそんな時間で。ともあれ、花のような笑顔の降宮さんに手を引かれ目的の場所へと――
「――っ!! 降宮さん、こちらへ!!」




