スマホ戦記
初めまして。黒艶日暮と申します。
友達に影響されて「小説家になろう」を始めました。
小説を書くに当たりどのようなものか感覚を掴みたかったため短編から書いてみました。
この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。マジで関係ありません。また、スマートフォンの不正使用を学生に推奨する意図はありません。あくまで娯楽としてお楽しみください。
スマートフォンはいついかなるときでも問題を引き起こす。例えばSNS。ただし学生に限って言えばスマホの使用自体が問題、校則とのか闘いになりうる。そしてここ、鶴雅学園では今日も生徒と教師の間でスマホを巡った熾烈な闘いが繰り広げられていた__。
時計を見ると一番短い針はすでに6の数字を指していた。「早く終われよクソが」と内心毒づく。友達に懇願され、つい文化祭実行委員になってしまったのだ。
男子校の文化祭なんて非リア且つ奥手にとっては苦痛以外の何者でもない。彼女持ちは彼女を招待して非リアに自慢するし積極的なやつはナンパいしてあわよくば彼女ができる可能性だって無くはない。
だがどちらの条件も満たしていない俺としては文化祭など華々しいイベントなどではない。授業なくてラッキ〜、でもリア充爆ぜろ!くらいのノリでしかない。
どうしてこんなことを引き受けてしまったのだ。一刻も早く学校から出ないとスマホゲームのイベントが終わってしまう。そんなことを考えながら角材を運ぶ。
そんな俺の悩みなどつゆ知らず、俺を地獄へ引きずり堕とした張本人たる佐竹は「瞬間接着剤貸してー」などと天真爛漫な態度で話しかけてくる。
そんなこんなしているうちに終わる頃には6時50分を回っていた。
佐竹は電車の方向が反対なので、駅のホームで
「じゃあな、藤野」
「じゃあ、また」
といった適当な挨拶を交わして別れる。
電車に乗り込むと急いで残り少ない座席をとり、おもむろにスマホを開いた。
うちの学校では校内及び登下校時のスマホの使用が禁止されていて、見つかったら没収だ。スマホが没収されたら元も子もないため、一応近くに先生が居ないかだけ確認する。多分居ないだろうと安心してゲームを起動した、その時だった。電車のドアが閉まることを知らせる音が鳴るとともに、俺の乗っている車両に鬼教師として有名な古澤が駆け込んできた。
かなりヤバい。もうすでに6時50分を回っている。そしてイベントの終了時間は7時である。このままでは報酬すら受け取ることもままならないだろう。そう思い、安全圏に避難しようと車両間を繋ぐドアを見た。
だが、そのドアの前には某青髪ツインテ人工音声歌手のシャツを着て、ものすごい形相でスマホ画面を叩く所謂「オタク」と呼ばれる人種が立っていた。
一目見た瞬間分かったが、ヤツは俺の仲間だ。よって俺は同胞たる彼のゲームを邪魔することはできない。
そこで反対側のドアを見ると、気合の入ったパンチパーマに右腕には龍の刺青、耳や鼻、さらには眉にまで派手なピアスを付けている、そんな絵に描いたようなアウトローの青年がドアにもたれかかっていた。
アカン。近づいてはアカンヤツですわあれは。
前門のオタク、後門のアウトロー。逃げ道が完全に封じられてしまった。次の駅で車両を変えようもんなら報酬の取得は絶望的だろう。ってそんなことを考えているうちに3分程経過してしまった。
こうなったら奥の手を使うしかないだろう。秘技、カバンをウォール‼︎カバンの中でスマホを操作することによって教師にスマホ本体が見つかる可能性を下げるものの、周囲からは「何やってんだコイツ」と逆に目立ってしまうためいざという時しか使えない諸刃の剣である。
ヤバい、脳内解説しててあまりの恥ずかしさに自己嫌悪に陥る。何が「カバンウォール‼︎」だよ。
ともかくこれで安心こそできないもののスマホ自体は触れる。
だが気のせいだろうか。視界の端で特徴的な癖っ毛がピョコピョコしているのは。否、間違いない。あいつは俺の友達B、青木だ。クラスカースト最上位であり顔も広い。クラス屈指の俺が一軍から、からかわれずにいるのはあいつと仲良くしているというのもあるかもしれない。しかしヤツには致命的な弱点がある。
それはあいつが悪魔的にイタズラが好きだということだ。つまり今近づかれたら非常に困る。あ、こっち向いた。少し抜けた笑顔でこっちに近づいてくる。
仕方ない、要件でけ伝えて空気を読んでもらうか。と考えてLINEで要点を絞ったメッセージを送信する。
『古澤』
『イベント終了間近』と。
青木はすぐに既読をつけるとおもむろにスマホをカバンの中にしまった。
何を考えているのか訝しんでいると、青木は怪しげな笑みを浮かべてわざとらしい大きな声で話し出した。
「何やってんのー藤野。あ、プロ●カね。好きだねー音ゲー。まあ禁止されてる電車の中でやるくらいだもんね。」
そうか、ヤツは俺と友達を辞めたいようだな。いいだろう。この危機を乗り越えた暁には地獄を見せてやる。だがそうこうしているうちに報酬の一部は回収できた。ここからは残りの報酬を回収するとしよう。
というかあいつまだ俺に気づかないのか。鈍いヤツだ。だが万が一古澤に気づかれた時の対処法を考えよう。
さて、今手元には何があるか。まず瞬間接着剤、いつだったか友達にもらったミャ●ミャクの編みぐるみ、ホッチキス、そしてカッター。他にも赤シートやライトノベルなどもあるが、使えそうなのはこのくらいだろう。
これらのものを確認し高速で頭を回転させつつスマホの画面を叩いた。
そうこうしていると急に運命の時は訪れた。古澤の首がまるでホラーゲームのようにグルンと勢いよく回ってこっちを向いた。そして目が合う。
元から俺の存在に気がついていたかのような振り向き方だった。古澤がこっちに歩いてくる。青木がこっちを見ながらニヤニヤしている。マジでコイツ殴っていいかな。
電車に乗ってすぐに気がついた。ウチの学校の生徒がスマホでゲームをしていると。普段なら迷わず、容赦なく没収するのだが今回はすぐに取るべきか少し葛藤した。
だが、一旦自分のやるべきことを優先することにした。そう、ポケ●ケのパック砂時計(ガチャを引くためのアイテム)を回収して10連パック開封をしたい。幸いにもポケ●ケはスマホを縦にした状態でプレイするゲームなので電車内でゲームをしていることを生徒に悟られることはない。別に教員が電車内でゲームをしてはいけないなんてルールはないが、何となく生徒には知られたくない。
10連パック開封に必要なパック砂時計はあと28個。エキスパートバトルをちょうど四回勝てばもらえるだけの数だ。急ぎ目でプレイして大体10分程度で終わるだろう。しばしば生徒の方を確認することも忘れない。
確か名前は…藤野だったか。そしてちょうど今青木という生徒も現れた。青木は俺に気づいたようでわざとらしく藤野がスマホを触ってことを伝えようとしてくる。
電車内で騒ぐなよ、と思いながら無視する。というか青木もなかなか性格が悪いな。それに藤野も藤野だ。あいつまだ俺に気づかないのか。鈍いヤツだ。相当プレイしているゲームに集中しているようだ。
よし。やっとパック砂時計が必要分溜まった。早速パックを開封すると、なんと確定演出が5回もでた。これはかなり期待できるんじゃないか。イマー●ブやクラ●ンも排出されるかもしれない。欲を言えばゴッド●ックも出て欲しい。
そう期待して臨んだ結果は悲惨だった。確定演出が出なかったパックから排出されたカードは全て♢2以下。確定演出が出たパックから出たあたりカードは揃いも揃って☆1だった。肝心のEXすらも出ない。わけがわからないよ。最後の最後に排出された少し小洒落たデザインのピ●チュウのカードを憎々しげに見つめる。
そんな絶望の淵の中、ふと思った。よし、生徒からスマホを奪って泣きっ面を拝んで心を落ち着けよう!その後、自分はかなりの外道なのでは?と思ったのは別の話である。
そんなわけで遂に藤野のスマホを奪りに動き出した。
古澤が俺の元にゆっくりと歩みを進めて来た。スマホ没収阻止案は既に完成した。後は実行に移すのみだ。俺は急いでミャ●ミャクの腹をカッターで裂く。綿が漏れ出ないように指で押さえながら裂いたところをホッチキスで留める。
下準備は終わった。後は実演だけだ。
ところでスマホを禁止している校則には生徒たちを悩ませる条件があるのだ。それはスマホの使用が現行犯でなくてもいいということだ。それはつまり、LINEなどのトーク履歴を確認して証拠が取れたら没収されてしまうということだ。
そして青木というイレギュラーな存在のせいでLINEの履歴を見られたら没収は不可避だ。ならどうすればいい?簡単だ。脅せばいい。もちろん生徒指導にかけられない程度にだが。
謎のテンションで考えただけのアイデアだし通用するかどうかなんて全くわからない。生徒指導から逃れるための作戦なのに失敗すれば先生を脅したという余罪も追及される。でもやるしかない。ここまできたら後は野となれ山となれだ。
始まった。
「スマホ触ってただろ、渡しなさい」
電車内で周りの迷惑を考えているのか声をひそめて古澤が言った。
「分りました」
「ところでスマホ没収されたら一応『探す』アプリで自分のスマホの場所確認しちゃってつい住所特定?とか『うっかり』できちゃうかもしれないんスけど」
さて、どんな反応をするか?
「『探す』なら電源をオフにすれば無力化できるはずだ」
「…!」
一旦論破されたふりをしておく。
理性的な判断をされてしまったか。まあそもそも俺のスマホは電源が切れていても追跡できるよう設定しているのだが。しかし重要なのはスマホを奪るという選択を潰すことだ。
それにまだ想定内。次の作戦がある。諦めてスマホを明け渡そう、とするふりをして咄嗟にポケットから瞬間接着剤でミャ●ミャクの編みぐるみとスマホカバーとを接着する。
「は?」
古澤が狐につままれたような顔でこちらを見てくる。後は勢いで押し切る。
「ところでこれ、小型GPSを内蔵しているんですよ。スマホの電源とかもう関係ありませんね」
会話で接着剤が固まる時間を稼ぐ。
「…!」
今度は相手が黙る番だった。
というかもしかしてあの人意外とオツムが悪いのか?ミャ●ミャクを付けたのはスマホカバーなんだし外せば済む話じゃないか。
それとも場の空気に乗せられているのか。視界の端で癖っ毛が息を殺して自分の太ももを叩きながら忍び笑いをしている。うん。後で殴ろうコイツ。それはともかく古澤の様子はどうだ。
古澤は額に青筋を浮かべてワナワナと震えていた。これヤバいかもしれない。と思って覚悟を決めた瞬間に古澤の口から出た言葉は意外だった。
「次はないと思えよ」
そう言い放って別の車両に移動して行った。ベタ過ぎる小者発言だ。そしてアウトローが居座るドアから出ていった。ドアを通る際にアウトロー君にぶつかったようで絡まれかけていたが、眼力だけで黙らせていた。
前言撤回。アイツは大物だ。そうして俺は危機を乗り越えて家に帰ったのであった。あと青木のことは2発ほど殴っておいた。
翌日、学校に登校したらクラスのみんなからはヒーロー扱いだった。クラスカースト最上位の青木が一軍連中に広めたようだ。アイツあと5発殴ろう。
それにしても古澤以外の教師の小耳に挟まったらどうしてくれるんだよ。事実確認されて生徒指導にかけられる可能性も多々あるぞ。そう考えて俺は群がってきた奴らに「青木が話をだいぶ盛っているだけでそんなに大したことはしていない」と言って噂話をなんとか鎮火させた。
ところで余談なのだがあの一件以降古澤は電波や精密工学について猛勉強していて、さらに生徒のスマホを没収するときは持ち歩いているアルミホイルで包んで回収するようだ。(アルミには電波を遮断する作用がある)
そうして平和な日々が訪れた。俺自身もあの事件以降反省して電車でゲームをするときは指を全力で動かす必要のある音ゲーなどではなく最小限の操作で済むパズルゲームなどにしようとアプリを新しく入れた。
それにスマホを隠す用の分厚い本もカバンの中に入れた。これで準備は万全だ。
そんな感じでゲームをしながら登校していた事件の翌々日、不意に知らないおっさんから声をかけられた。そして鶴雅学園の教師手帳をかざして言われた。
「スマホ、貸しなさい」
「え、あっその、、、GPS的なアレが、、、」
「そう言うのいいから早く」
そうして虚しくも俺のスマホは奪われていった…。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
実際にあった学校の校則をモデルに書いてみました。いかがででしたか?
近いうちに連載も始める予定なのでぜひ読んでみてください!