表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

温泉郷

 見せしめのミイラはかなり欠損し、顔面が苦悶の形を失いかけている。手足もちぎれかけわずかに揺れていた。

 月日も経っているのか一部白骨化さえしていた。衣服も風雨に晒され劣化していた。


 人間とは腐る生き物だ。血肉がある限り、血は体から吹き出し肉は崩れる。そうして野生動物や魔物の栄養となる。


 日本においてミイラ化する遺体も無いわけではないと、山伏式神は知っていた。だが湿度が高い状況でこうなるのはおかしい。

 ──不自然な状態ではあるが、彼らの考えている事は分からない。分かりたくもない。仕方ないので進むしかあるまい。


(でかい百舌鳥でもいるのかしら。だったら話は別だけど)


  村の建物群に近づいていくと、意外にも発展していたのだと驚いた。大きなコンクリートの建物が何軒か立ち並び、看板には旅館と書かれている。


 山間の村にしては珍しい。山伏式神は自らの町と比べつつ、歩いていく。道も整備され、路肩には車も停められていた。

 人が使っていた形跡さえある。工事用車両が何台か、パイロンなどの工事用の道具が散乱していた。まるで今さっき忽然と消えてしまったかの如く。


 立ち並んでいる旅館はなんと軒並み温泉旅館らしく、お土産屋や小さな料理店までもある。錆び付いたアーケードを見て、「日仏温泉郷、ね…」と意味を理解しようとした。


 温泉郷。一度も目にした事がない世界。


「肝心の温泉ってモノがなさそうなんだけど…」


 いつだったろうか?人の世が近代化する前、温泉なるものを旅人らが野宿しながら話していたのを思い出す。普通の川水ではなく、温かいという。それも傷を癒し、病すら治す。そんな嘘みたいな話があるのだと。


「池からは湯気が立ってないし…」

 霧が薄くなってはいるが、ぬめりのある冷たい空気が漂っている。


「とりあえず…帰りたいわね…」

 来た道が分からない以上、引き返すのは危険だった。現地の話がわかる魔に教えてもらいたい所だ。


「ん、誰?!」

 アスファルトを削る爪の音。鋭利な鉤爪を連想させた。

 山伏式神は警戒しながらそちらを睨め付ける。



「──ようこそおいでました。お客さま」



「は?!」

 巨大な獣かと思いきや、人の上半身が接合されていた。

「えっ!」


 半人半獣。あまり見た事のない人ならざる者だった。

「私めはリス。この世界の支配者、()()()()()()()でございます」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ