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まやかし茜色と贋作 〜式神もどきと夕日の腐敗した村〜  作者: 犬冠 雲映子
式神もどきはまやかし茜色と贋作を否定する
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友との別れ

「さて、と…ふぅ…」

 童子式神は気が済んだのか、こちらに興味をなくしたように息を吐いた。


「お願いよっ、お、越久夜町に返して!」


「は??…山伏式神?なぜまだ生きているんすか?」

「あっ!」

 雉も鳴かずば撃たれまい。山伏式神は慌てて口を塞ぎ、後ずさる。

「おめえ、嘘をついたのですか」

「ひっ…」


 視線が合う。先程とは異なりこちらをしかと認識しているのだ。

 もう助からないのであろう。人智を超越した存在には、さすがに歯が立たない。

「ごめん、なさい…」


「おい。そこまでにしな、頭の悪いデカブツ」

 背後から聞いた事のある声音がして振り返る。ボルゾイ犬に似たあの野犬、アルバエナワラ エベルムがいつの間にか佇んでいた。


「お前の願いは成就したはずだぞ。確かに山伏式神と同じ魂を食ったんだ」

「…せこいやり方ですネ。さすがは腐っても坐視者(そぞろみるもの)

 表情一つ変えず、童子式神は言い放つ。気色の悪い笑みのまま。

「月世弥の残骸。この子を越久夜町と同じ時空に返しなさい」

「や、山の女神っ!」

 アルバエナワラ エベルムの隣に山の女神も加勢していた。二人にねめつけられ、状況が変わる。


(良かったわァ…食われちゃうと思った…)


「山の女神まで。懐かしいです…あっしが欲しかったのは山伏式神の魂だったのですが、ハア、困ったものですよ」

 やれやれ、と彼らしい仕草で困ってみせた。今なら分かり合えそうな気がして「お願い…もう嘘は──」


「ならば全員食ってしまいましょう」

 舌なめずりするように彼は艶を含み、一瞥した。ああ、一瞬たりとも友達なんて人くさい気持ちを、思わなければ良かった──。



「来たか」

 ラッパのような奇妙な笛の音が空虚に響く。訳も分からず、キョロキョロしていると彼方から黒い天使がやってきた。


 羽を生やし、黒い後光を放つ異形。古びた角笛を手に、こちらへ近づいてくる。


「ああ、また、時間が切れちまった…あーあ」

 童子式神を出現させていた時空の乱れが修復され、巨大な姿がズブズブと沈んでいく。


(アイツはどうなっちゃってるの?一体、何になったの…?分からない、私には…)


 自身に搭載されている便利な機能でも答えは無い、あるのは経験した際の知識と混乱だけであった。


(どう転がったらアンナのになれるのよ?)



「久しぶりだな!山伏姿の式神!」

 元気そうな少年めいた声にハッとする。「巫女式神っ!?生きていたの!」

 異形は巫女式神に近しい容姿に変幻すると、ニカリと笑った。



「死んじゃうかと思ったあああああっ!!」

「相変わらずうるさいヤツだな」


「あ〜…遅っそ」

 エベルムが文句を言うも彼女は笑ってみせるだけ。

「アイツが起きないように古今東西飛び回ってたんだ。褒めて欲しいよ」


「そ、その…あの…」

 山伏式神は蚊帳の外に置かれて久しぶりに会えた知人に話しかけようとした。

「じゃあ、そろそろ越久夜町に帰りましょうか」

 山の女神が勾玉を二つ取り出し、ガッチリと組み合わせるや、何も無い空間に眩い光が炸裂した。

「あっ」


「ん?」

「み、巫女式神っ、また会えるわよね?!」

「さあな。もう会えないかもな」

「え──」







 ふいに少女の微かな笑い声がした気がする。直感的に、あれはムヅミだと理解する。


「哀れな。哀れな!」


 あの化け物はまだどこかに潜み、地球を穢す気なのだろう。

「もう少しだったのに!もう少しだったのに!」


(何が、よ。最後まで分からない奴だったわ…)


 きっとあの童子式神と似た存在なのかもしれない。長い年月を生きても尚、全容を知る事のできぬ何か。

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