指切りげんまん嘘ついて
「は?ルシャ様、こ、これは…?何事──」
「ああ、山伏式神。遅かったじゃないですか」
耳をつんざくような、大きな声が上から降ってきた。落雷かと勘違いしそうな爆音。ギョロリと白い空がわずかに露出し、山伏式神は固唾を呑んだ。
「い、童子式神ぃ!?」
(まさか、ずっと空と思ってたのは瞳孔だったの?!)
真っ暗だと思っていたのは童子式神の底のない瞳だったのだ。
怪獣よりも巨大な彼はまたジイッとこちらを見下ろす。にんまりとした不気味な笑顔で。
「やっと魂をくれる気になったのですね」
「えっ?!いや、ちょ、あれから何があったの?!で、デカすぎよ!」
「約束を守ってもらいます」
「あ…」
会話が成立していない。この魔──いや、神霊かもしれぬ存在は一線を越えてしまっている。
二度と荒れ野へ訪れた頃の童子式神には戻れない。
「そ、そんなぁ…」
悲しみともつかぬ、絶望が湧き上がった。あの楽しかった思い出には戻れない。目の前にいる存在は死亡しているより悲惨な結果になっていた。
「…貴方に会わなければ良かった!最低よ、サイテー!」
こんな気持ちを味わうのなら。
「じゃあ──」
感傷に浸っているとリスの悲鳴が響き渡る。我に返ると、大きな指で半人半獣がつままれ、宙へ上がっていった。
「え?!」
狙っていたのはこの、山伏式神であるはず。
「…っ」
ルシャが恐怖に怯えた様相でそれを眺めている。
(まさか、リスに魂を隠した…?)
「ゃ…めて、リスを!たべないで…!」
「あーーーーーん」
大口を開けて童子式神は小さなリスを奈落の底に放り込んだ。クジラの口より漠然とした奥行が末恐ろしい。
「こ…わいよ…」
あれだけふんぞり返り、こちらをつけ狙っていた支配者は捕食対象の生き物さながらに命乞いをし、やがて動かなくなった。
死んだか。
「…」
何も言えなくなり立ち尽くすしかない。人ならざる者は結局、食うか食われるかしかないのだ。




