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盲目と過ち

『私、犬一郎は同行人と共に非乃手山にあるという日仏村にやってきた。見た感じ、怪しげな魔力や妖気は全くしない。ただのゴーストタウン、と言うべきか。異界は完全に閉ざされているようだ』



 魔を客観的に俯瞰した視点を初めて目にした。人間からはそう見えているのか、と興味深かった。



『異界に入るにはまず、村の状態と経緯を調べなければらない』



 人は異界に触れるには因縁や、魔の妖気に飲まれないといけないようだ。


 資料には人の目からしたら、日仏村は人界ではただの観光地であり、有名な温泉地からしたらマイナーな場だったらしい。それに行方不明になる者もおり、周りの自治体から観光へ行くのは止められていたらしい。


 だがバブル景気になると、金目当ての観光事業の会社が自治体の意見を無視し、集客を行い始めた。


 観光客や関係者が度々行方不明になるが、もう引き返せないところまで来ていた──。

 バブル崩壊と共に明るみになった事件。国は機密裏に魔法使い連盟へ依頼を頼んだのだった。

 犬一郎はまず、奇術を使役し異界に入れたようだ。



『まず異界には濃い霧が立ち込めていた。良くある事象だ。ともかく私たちはこの地で何があったのか話が聞きたい。村民がいないか確かめる。しかし一人も見当たらない』



 二人はしかなく、唯一明かりがついていた家屋を見つけ、尋ねた。


(まだ生きている人がいたの?)


 あの自殺体があった家だろうか?

 武装していた初老の男性が二人を見て仰天したようだ。



『彼は宗家田(そうけだ) 人美(ひとみ)。かつて信濃の国からきた修験者の末裔だという。なるほど、魔法使いの混血というわけが。彼は村の経緯を知っていると語っていた。また私たちが属している魔法使い連盟を存じているとも』



 人美という男性は村八分を受けていた身であり、観光化に反対してきた第一人者だったという。



『生きた村人はもうこの世にはいないと話してくれた。観光化した日仏村も村民たちの意思で同意したのだと、そしてこの地の伝承を打ち明けてくれた。ありがたい』




 時は遡り──中世の頃だった。

 西日をつかさどる仏(この土地では盧舎那仏)や神(土着信仰の神)として崇拝されていた。

 盧舎那仏は智慧の光であまねく法界を照らし輝かす仏身であるが、どうやら村では神仏習合やさまざまな分野の宗教が混ざり合い、独特なものへ変化していたようだ。

 村人たちは不老不死を願った。それが目的でこの村に移住した人々が大半だった。


 楼炙(るしゃ)という、土着神に近しい神が心咒塚(しんじゅづか)という元からあった塚の上の、楼閣に祀られているという。当て字ではあるが、漢字にも意味があるのだ。




『楼閣で生きた人間をあぶる、または火で焼くと言う意味が込められている。元は護摩壇に人を捧げていたらしい。そこからして異常な邪教に染まっていたと推測できる』



 村人は必要に、生贄を捧げた。護摩壇や、または戦で重宝された生首を奉納し、不老不死を願い、病が流行らぬように祈願した。



『しかしかの神には分からなかった。不老不死の意味を履き違えて...不死──つまり体が動いていれば良い──と解釈してしまった。だが村人は喜んだ。死した者が生き返り、動いている。神仏の加護を受けた者として、破損が酷い者の、さらに首をお堂に飾った』



 ルシャは学習した当然の結果、過剰に生贄を求める。村人はありがたがり要求を叶えた。祭神は村人の望みを叶え、村はいつしか死者が蘇るという聖地となった。



『やがて外から病が治る温泉があると、誤った情報が広がる。誰が吹聴したか、それか伝言ゲームの成れの果てか。周囲からたくさんの人々が押し寄せるようになったのだと』



 村人は最初こそは困り果てる。それは虚実であり、日仏村にはそのような温泉はないと断っていたという。だが断れど断れども人が来る。


 排他的だった村はこの試練にまた神に縋る。だが、かの神は生贄を求むるばかり。


(当たり前だわ。人ならざる者には人のような思考は持ちえていないのだから)


 人ならざる者は──あるいは神にしたてあげられた魔物は何でも屋のように、慈悲深い聖母のような心を有していない。

 学習した物事を繰り返す、ただの獣だ。餌をもらえるとなれば尚のこと。



『村人は幾度となる議論をし、一つの答えにたどり着く。助けを求める人々を生贄にして、神に奉納すればよいのだ。それには小細工がいる…楼炙の妖力を使役し、温泉を作り出した。それが長寿温泉だった』



 しかし実際はルシャが見せる幻であり、修験者たちが名ずけた長咒池(ちょうじゅいけ)というものだった。温泉は生者を飲み込み血みどろの池であった。村人は騙された来訪者を殺め、ルシャに捧げていた。



『かの妖魔は人ならざる者が一生の内に食べる量をキャパオーバーするほどの血肉を食らったという。それに呼応して力を増していく。人美さんはそれに危機感を覚えていたという。人の管理下ではもう制御できぬ。いずれ厄災がこちらにも降りかかる。そう言って村人たちを止めようとしたのだそうだ』



 その結果、村八分にされてしまった。聞く耳を持たない住民たちに失望しながらもできる限りの説得した。

 いつしかバブル景気が終焉し、つかぬ間の夢は弾け飛ぶ。結託していた観光会社が夜逃げしてしまっだ。


観光客は来なくなる。それよりも行方不明者の存在が周囲の自治体から密告され、騒ぎを聞きつけた警察がやってきた。

 村人は慌てふためくが、生贄が欲しいと神はねだる。しかし圧倒的に生贄が足りなくなった。厄災が降りかかる。

 それは避けたかった。


 あれだけ人気があった日仏村の存在が周知されなくなって、事件沙汰になり、加えて自らに危険が及ぶ。



『自分たちが信仰してきた神が厄神だと彼らはやっと自覚する。人美さんは魔法使い連盟に助けを求めればまだ僅かな望みであるが助かるかもしれないと、提案した』



 ルシャを退治してもらえばいい、と。

 だが、村人たちはこれまでの信仰心や何代にも染み付いた習慣を捨てきれなかった。あの厄神は自分たちには霊験あらたかな神仏である。こびりついた認識は覆せなかった。


 四面楚歌になった村人たちは自らを捧げる事を考える──。

行間(?)のスペース忘れていたので焦りました。

ひいい〜〜~

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