友情と邪推
ルシャはガッシリと顔を固定させると、瞳を覗き込む。互いの赤い禍々しい色が反射する。
魔物特有の薄ぼんやりとした光。魔物を客観視する。
美しい光だ。霧の中に灯るネオンみたいだ。
(…あれは、光っているのか。目じゃなくて)
「取り込んで自壊したくないの。同じ思想になってちょうだい」
体が金縛りにあい、直感的に生命の危機を感ずる。
(精神干渉するつもり…?!)
(どうしよう…あのレベルに適う防御力がないわ。…考えなきゃ)
考えるのは苦手だった。思考停止しして生きてきた。
人間のように生活する必要がないから。
今になってそんな仕返しを食らうとは。
考えろ。
山伏式神はやはり故郷を懐かしがる。あの荒れ野の景色が嫌でもこびりついて離れない。
赤い瞳を輝かした奇妙な式神と、それを見やる呆れた──
(そうだった。ここで食われたら…童子式神との約束、破っちゃう…)
今更、思い出してしまった。彼と約束したのを。
(別に、私の中で特別な存在でもないのに。今、思い出すなんて)
主従関係でも、契約を交わした仲でもない。でもいつだか、窮地に陥った彼を励ました気がする。
または違う世界で役割がなく、手持ち無沙汰だったかもしれない。
(アイツは、ズルい奴だった。だって世界の中心にいるみたいな顔をしていたもの)
「何笑っているのよ」
(ま、そんなものよね。魔物の一生なんて)
食うか食われるかの狭い世の中で何も知らずに一生を終える。理想の人生だった。
世界の中心であるべきなのだ。魔は。それを打ち破られずに生きていけるのはひと握り。
(童子式神)
──なんですか?
ふいに奴の声音がした。気配を探ってもどこにも居ない。
──ハア、やっと魂をくれる気になりましたか?
(ええ)
──ええと、どちらが山伏式神なんでしょう?
山伏式神は邪推してしまった。
(私は…)
まだ死ぬ気は無い。ならこの境遇を利用するだけだ。
(私は上にいる個体よ!)
──なるほど。
「ルシャ様!」お堂の外で待機していたのか、リスが乱入してきた。
「なあに?」
「誰だっ!我らの異界に干渉する者は!」
「そんな奴いるの?」
「いるわよ!私の友だち!」
素早く印を組み、結界を貼ろうとした。今だ!
ルシャを突き飛ばし、脱兎のごとく走り出す。四つん這いになり獣そのもので疾走した。
「ばぁ〜か!」
童子式神に言ったのか、はたまたルシャたちを罵倒したのか。捨て台詞を吐き捨て森に逃げ込む。
久しぶりになりました。




