石化した 母
「見つけた!驚いた。そんなナリでも隠れられるのね」
眼前にあのヨリマシが居た。暗闇の切れ間から腕をのばし、ガッシリと腕を掴んでいた。
歳は山伏式神とそう変わらなく見え、子供っぽい無垢で残虐な笑顔を浮かべている。新しいオモチャか、虫か、そんなモノの物珍しさを前にして。
脳裏に童子式神が過ぎった。ヤツもこちらをそんな目付きで見ている。
子供らしい。魔物は人の子供より子供らしい。
無知で貪欲で、力加減が分からない。そうして命の大切さや社会のルールすら理解できない。
「貴方、ヨリマシじゃな──」
魔の、赤い血を垂らし込めたような瞳をした少女は、闇から引きずり出し山伏式神を押し倒す。
「そっちの私はずっと野放しにされて、ひとりぼっちだったそうね?可哀想ぉ〜〜!」
「あ、あんた、ヨリマシじゃないの?!」
「いいえ。私は姫君であり、ルシャでもある。ヨリマシなんて必要ないのよ」
首だらけのお堂の奥にあった簾が崩れている。最初に招かれた際はまだ状態を保っていたが。
ズタズタに破かれ、畳に散らばっている。
「あれは──」
石のような物体が生え、磔にされた人らしき亡骸があった。「あれは私たちの母君。遠い昔、どこかのお国の姫だった物」
「私の、…母?嘘よ。だって…」
人ならざる者は人間からは生まれない。何かの間違いで生まれたとしても、人でない異能を宿していたとしても、人界の存在として生きていく事になる。
異国の地では人間に子供を孕ませ、托卵する種族もいるというが…。
反対に親となる人間が異界の者となり、異界で出産するのならば人ならざる者としての人生を歩む。
反する世界を行き来するのは許されない。
だが、あれは。
「母君は私たちを孕み、流罪になった。一度流産した子供を、人間らにはそれが岩に見えた。だから彼女は捨てられ、逃げるためにこの地に来た──」
「なら、私は…本来、人間として生きるはずだった?」
「いいえ。私たちはね?人ならざる者でも特殊な種類だったから、人間にはなれなかったの」
少女は血の気のない顔をさも嬉しい報告だと歌うように言う。
「宇宙からきた者は人にも、魔にもなれない」
(やっぱ、宇宙人って言いたいの?!バカバカしい!コイツ!頭がイカれてる!)




