外へ出てしまった
「このっ人食い魔が!異界を作りやがって!退治してやる!」
魔物を倒す生業をしている人──魔法使いだ。
「ご飯がやってきたわ!」
迫り来る矢を避けながら、華麗に宙を舞う。至近距離になればこちらの勝ちだ。
湿地のぬかるんだ泥に着地し、魔法使いをみやる。
魔法を施しているらしく、顔を判別できない。匂いすら把握できず、自分には気配のみが伝わってきた。
それでいい。人間など捕食対象でしかないのだから。
「あははっ!食ってやるんだから!!」
魔法使いであろうと、なかろうと食う事には変わりない。
「魔物がっ!今すぐ退治してやる!」
弓矢を捨て、刀を取り出し構えてきた。あれは退魔の魔法がかけられた凶器。山伏姿の魔は闇を操り、魔法使いの首を絞めあげた。
「ざこ」
「ぐっ、なぜ、越久夜町には低級の魔しかいないはず!」
「知らないって。はあーー…、うざいわ…、低級とか何だの。つーかそもそもこの地には私しかいないんだもの」
人はいるのか。──魔も、動物も。長い年月、見ていない。まるで世界にはこの荒れ野しか存在していないみたいだ。
「ぎ、助げ…ぇ…」
人間は死んだ。「あーあ。つまらないわ」
「腹はいっぱいだし、予備として埋めときますか」
死体を二体、地面に埋めてからチラリと町の方を見やる。不自然に霞がかかって見えず、月や人家の明かりすら伺えない。壁があるかのようで消えてしまったのだろうか?
「童子式神」
口にした古い名前。彼は何をしているだろう?
「私は、アレが楽しかったのね」
楽しかった。なんて人ならざる者が口にするべき言葉では無い。
「楽しかったのは嘘ではないわ。あれは本物」
流される万物の中で、まだとどまっている気持ち。
「でも人ならざる者には不要なモノ、捨てるべきなのかしら…」
だからと言ってその幻想を追う事はしない。本来、魔には喜怒哀楽はない。
「ん?」
ガサガサ、と草やぶから音がした。「ごはん?!」
目を輝かせると異変に気づく。あれは人ではない──おぞましい何かである。遠慮なく、山伏姿の魔は怯まずに話しかけた。
「貴方、越久夜町からきたの?」
──気配は答えない。
「町がどうなったかしってる?」
ガサガサと何かは踵を返して居なくなろうとしてしまった。それは嫌だった。
「待って!教えて欲しいの!町に人はいるの?童子式神は?あいつらは?」
自生する草やぶをかき分け、無言を突き通す誰かへ必死についていく。まるで誘導されているかの如く、餌を隠した持ち場から離れてしまう。
(まずいわね。頭でも狂った?これ以上テリトリーから離れたら厄介…引き返さなきゃ)
みるみる内に霧が濃くなり、山伏の魔物──山伏式神はハッと異変に気づく。
我に返ると見慣れない道にいた。
「な、なによこれー!?」