捕獲された山伏式神
山伏式神は一か八か──部屋に充満する闇を逆手に、鋭利な触手を生み出した。それをリスの喉に突きつける。
「私の邪魔をしないで」
「邪魔?」
「魔物の動向を妨げると酷い目にあうわよ。人間」
何十本もの刃が彼に向けられる。
「早く越久夜町に返しなさい」
「三下の魔物ごときがえらい口を叩くなよ」
再び呪文を唱えると、体が動かなくなった。魔法使いなら簡単にできる技だ。──対象となる相手を知り尽くしていれば縛る事など。
「この期に及んで封じるなんて!卑怯者っ!対等に戦う気概がないの?!」
「残念だよ。こんな弱小な魔を特別に接待していたなんてね」
態度だけはでかいんだな、とリスは嘲笑う。半月の笑みの方がヤツにはお似合いだった。
「胡散臭い芝居が祟ったのよ、クズ野郎」
ありったけの軽蔑を込めて吐き捨てる。
「お前に発言権はない」
「ルシャ様にお出しするまでに、この魔物を清めておくように」
命令された日照は頭を下げると、乱雑に山伏式神を牢獄に放り込んだ。物静かそうに見えて手癖が悪い。
「痛いじゃない!このクソアマ!」
「日照。力加減に気をつけろ。くれぐれも殺めるなよ」
「なっ!そこまで脆くないわよ!」
「いちいちうるさいヤツだな」
ずんぐりとした獣の肢体を動かし、リスは旅館を改装した牢獄から去っていった。
「貴方、日照って言ったわね。私の故郷まで送り届けてちょうだい!謝礼がお望みなら何でも叶えてあげる!」
巫女と思わしき女性はこちらの声を無視し、悠々と廊下を歩いて行った。「ちくしょう!なんて村なの!最低よ!クチコミに悪口書きまくってやるんだから!!あーーーーーっ!!!!!!!」
鉄格子を殴り、吐き捨てる。まじないでもかかっているのか、いくら傷つけようとしてもびくともしない。
「いいわよっ!逃げてやるからね!あたしをなめんなよ!」
牢獄の隅には餌食になった人間の所持品や、骨が散乱していた。老舗旅館の廊下に併設されている事から現役時代から生贄を捧げていたのだろう。
それもものすごい数の人骨である。腐敗臭が酷くいれたもんじゃない。
「何かいい物はないかしら…切断できる物とか…」
真珠のネックレスやブランド品のバッグ。靴。他には眼鏡などしかない。
「ナイフとか持ってないわけ?貧弱な…」
昔の人間は皆、刀を所持していたのに。
「この際、人間どものまじないができたらいいのだけど」
備え付けられた知識には魔術は搭載されていなかった。どうやら知識の持ち主は魔法使いではないらしい。
ならばあの脚は何だ?
「でも…この状況、ベタな展開ね…」
そういう知識だけはあるのが憎らしかった。
口が悪い山伏式神が好きです。




