邪魔が入って
『お願い!資料を見て!それか貴方が持って帰って!誰かに知らせて!そうしないと──』
「ええ〜っ?なんでそんな事…」
言いかけて、誰かが玄関戸を開けた音がする。「ひっ!」
ムヅミが資料を出せと慌てながらも催促した。嫌々タンスを引き、資料やフォトアルバムごと自ら生み出した闇に放り込んだ。
我ながら便利な能力を持っていて良かった。
「山伏式神様。どうしてここに?なぜ?他に誰かいるのですか?」
リスが廊下を鋭利な爪で傷つけながらやってくる。ズッシリとした足を引きずる気配に総毛立つ。
「あ、あの!散歩をしたくなって!ほら、素晴らしい観光地ってパンフレットにあったから──」
「そうですか。よりによって、この家を訪れるとは…」
彼の顔から感情は読み取れない。うっすらと冷たい笑顔を貼り付け、低くトーンで問うてくる。
「貴方も魔法使いの手先だったのですね?」
「ち、違うの!魔物が魔法を使える訳ないでしょ!ムヅミとかいうワケワカンナイ魔が私をこの家まで──」
「…。ムヅミ。意富加牢豆美命を模した異形神の事?へえ、まだ生きていたか。ははは、面白い存在が勧請されたものだ」
「あ、あ…えっと、あ、あらら…やばい」
選択肢を間違ったらしい。言ってはいけない事を口走ってしまったようだ。後ずさり、逃げれる場所がないか探す。
「ルシャ様の近親者とはいえ、なんともマヌケ、雑魚な魔だ。育て方の違いだろうか」
「だからそのルシャと私の関係は何なの?!赤の他人のはずよ!!」
リスが何やら小さい声で唱えると、結界が四方に張られてしまった。魔には解読できない退魔の呪文。退治屋をする輩の常套手段であった。
「げえっ、退魔の魔術!あなた!ま、魔法使いなの?!」
「ああ、僕は遠方から…日仏村の生存者から呼ばれた魔法使いだった人間だ。紆余曲折あって今はルシャ様の門下にいる」
「はあっ?!やめて!殺さないでっ!な、何も悪い事してないじゃないっ!」
無様に命乞いするも冷徹な目で見下された。下等生物を毛嫌いするあの、瞳。
山伏式神が一番嫌悪する目つき。
「ぐっ…!」
「あのまま間抜けにルシャ様に取り込まれていれば良かったものを」
「結局はた、食べる気だったの?!最低じゃない!」
「食べる?元に戻るだけだよ。ルシャ様の本来の形にね」
「え?え?あの、どういう…」
山伏式神はただ草薮にいた野犬を追いかけて迷い込んでしまっただけである。
それを打ち明けたらまたしくじるだろうか?
「知らないのか?自らの真の出生を」
「当たり前じゃない!魔なんだもの!」




