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白き塔の影は夜より深く

第3話です!

 ルナリスの空に朝日が昇るとき、それはまるで神の祝福が地に注がれる瞬間のように見えた。

光の塔――教団「Saint Faucon de Lumière」の中枢にして、信仰の象徴。その白亜の壁面は朝日に照らされ、ひときわ神々しく輝いていた。


だが、その影――

塔の根元にできる濃密な影の中には、決して人目に触れぬ真実が潜んでいた。

仮面の聖使、アルヴィス=オーブラン。

教団元老院「Les Ailes Sacrées」の末席、**“光の翼(Aile de la Lumière)**を冠する彼は、民衆にとっては慈愛深く聡明な若き導き手であった。


白銀の法衣に身を包み、柔らかな笑みを湛えながら、今日もまた、銀の翼街にて施しと説教を行う。

「すべての光は、闇を知る者にこそ降り注ぐ」

彼の語る言葉に、人々は涙し、頭を垂れる。

少女が差し出す小さな花束を受け取り、微笑んだ彼の姿に、周囲の人々は歓喜した。

いつしか民は、彼を**「白き蝶(le Papillon Blanc)」**と呼ぶようになった。

その姿が、冷たい権威の中に舞い降りた、ひとひらの優しさに見えたからだ。


だが、誰も知らない。

彼のもうひとつの顔――コードネーム「オーバン(Aubin)」。

教団直属の粛清部隊「白い影の爪(Les Griffes de l’Ombre Blanche)」の長。反抗者を闇に葬る、影の実行者であることを。


その部隊はふたつの翼を持っていた。

銀の翼街に潜む上級幹部たちは、秘密警察として不穏分子を密かに監視し、必要とあらば“消す”。

一方、折れた翼の地を担当する下級部隊は、表立って粛清を行い、血と恐怖によって民を押さえつける。

白衣の兵士たちは、しばしば泣きながら剣を振るう。


「正義のため」と教えられた言葉と、現実の叫び声。その乖離に、心を壊す者もいた。

アルヴィス=オーブランは、そんな彼らの苦悩を知っていた。

だからこそ、彼は――オーバンは、自らの手を血に染めてきたのだ。


そして今、表の顔として座る場所。

それが元老院の石造りの会議室、円卓を囲む十二の椅子の中であった。

「……下層に対する炊き出しと医療支援を提案します。民心を安定させるには、恐怖だけでは限界があります」

アルヴィスが静かに口を開くと、空気がわずかに張り詰めた。

「ふん……末席がよく吠える」

**炎の翼(Aile de la Flamme)**が嘲笑を浮かべる。筋骨隆々の中年司教、その眼はアルヴィスを露骨に見下していた。

「甘いな。貧民に施しを与えれば、勘違いして声を上げ始める。あの者たちは、光の名のもとに恐れていればいい」

「だが、それでは……」

「でしゃばるな、“光の翼”。末席は、黙って光を振りまいていればよい」

別の老いた司祭――**金の翼(Aile de l’Or)**が金の指輪を鳴らして笑った。


その場にいた他の翼たち――

星の翼は占星図を覗き込み、深淵の翼は目を細めて誰かの名簿に指を這わせている。

白き法衣の中にひしめくのは、信仰ではなく欲望と権力だった。


アルヴィスはそのすべてを知っている。

それでも今は剣を抜かず、仮面をかぶり続ける。

この手が本当に光をもたらす日まで――耐えなければならない。


報告が届く。扉の外から、低く緊迫した声で。

「折れた翼の地にて、黒衣の者たちの動きが活発化しております。“黒鷲の軍団(Légion de l’Aigle Noir)”、再び活動の兆しありと」

その名に、アルヴィスの眉がわずかに動いた。

「“夜”が……目覚めたか」

誰にも聞かれぬように、静かに呟く。



白き塔の影の中、仮面の奥で沈黙する“白き蝶”の瞳は、黒く揺れる気配を見据えていた。


今回は為政者の教団のエピソードです。よければ感想などいただけますと泣いて喜びます

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