第二章 幕間 満天の星の下
満天の星が輝く夜、城のバルコニーにて外を眺めている背中に声を掛けた。
「なんとも星の綺麗な……よい夜でございますな」
「なんだアンガルフ、余を口説きにでも来たのか。生憎と間に合っておるぞ」
背中を向けたまま軽口が返ってくる。気にせずその背中に本題を投げかけた。
「ヴェレス様が城を出られました」
「うむ」
相変わらず真っすぐ前を向いたまま、この綺麗な夜空を見上げるでもないその瞳が何を見つめているのか、分からない訳では無い。
あの子が遠くで馬でも走らせているのだろう、砂埃が小さく立っているのが年老いた瞳にも不思議とよく見えた。
「余に三度目の願いを却下された時はだいぶ面食らった様子だったが……中々思い切ったものよな」
「よろしいので?」
「あれも約束の地にて種を得て、それを自ら芽吹かせた子よ。ここ数年は真面目に研鑽を積んでいたようだしな。あのクレイグの奴からも手こずるほどだと聞いておる。一度くらいは息子と手合わせしてみたかったものよな……まぁ、さほど心配はなかろう。何より余の子であるぞ?」
余の子──その言葉は妙に楽しそうであり、それは我が子を自慢する親馬鹿そのものの雰囲気ですな。
「ヴァニキスタ様の子ですからこそ、心配なのですよ……」
過去のあれこれを思い出し、呆れて答える。
「アンガルフよ、王に対しその物言い、流石に不敬ではないか?」
ようやくこちらを振り向き、同じく呆れたように答える王。
「ご自身の胸に手を当てて考えて下され」
「お前はいつまでたっても余を子供扱いするな」
「そのような者が一人くらいおった方が気楽でありましょう?」
「ふん。不敬な割にお節介なやつよ」
「お節介ついでにリリエッタに後を追わせます。あやつなら上手くやってくれる事でしょう」
あの子を引き戻すために、ではない。護衛のためである。
リリエッタは今でこそメイドであるが、ああ見えて元暗殺者、陰から見守るのであれば、あの者こそ適任であろう。
「そうだな、あやつが付くのであれば安……別の意味で少々心配事が増えるが──」
そう言ってまたも遠くを見る王が心配しておるのは、彼女の持つ癖の事であろう事は想像に難くない。その癖があの子に向けられて長い事もお互いの共通認識であった。
「──ホッホッホ。その際は孫が増えてよろしいでしょう」
「あまり増えすぎても困るのだがな」
「ヴァニキスタ様が言う事ではございますまい」
何せ20人も子を成し、英雄色を好むを体現したような王である。
「その通りよな! ハッハッハッハ!」
その心底楽しげな笑い声は夜の帳に響き渡った。
夜空を割りそうな大声の後、王は再度、砂埃の方を見やる。
儂もそれに倣い、小さな旅立ちの背中へ向き直る。
「達者でやれよ、ヴェレス──」
一転してその優しげな一言は、静かな夜に、何処までも届くように、小さく響いておった──。
急いで!えぇっと、この子の名前なんだっけ──あ、リリエッタです!ちょっと今それどころじゃないのであとで!




