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末っ子王子と末っ子迷宮  作者: ふたつき
第一章 始まりは王城の隅っこで
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第一章 三話 おねだり作成再度、玉砕

 成績優秀ヴェレス君の渾身の可愛いおねだり大作戦、の見事な玉砕からしばらく。ここで不貞腐れてしまえば、やはりその程度か、と父上に言われてしまうのでまだなんとか頑張っている。

 

「どうしたものか……」

 

 夜、何するでも無く椅子に背を預け、傾け揺らしながら一人呟く。

 すんなりとお願いを聞いてもらえるとまでは楽観していなかったが、ここまで取り付く島もないとも思っていなかった。

 

「忘れろ……か」

 

 天井の一点を見つめて思案にふける。

 そもそも何故、小さい僕をあの場所へ連れて行ってくれたのだろうか。あの地では、本当に父上とただ遊んだだけだ。ひたすらにのどかで牧歌的で、御伽噺の中のようだった。

 しかし、ただ子供を遊ばせるためだけに国の宝であるペガサスを使い、世界樹やユニコーンが生息する場所へ行くのも、考えてみれば不自然だ。遊ぶだけならもっと近場でも良いし、親子水らずが良ければ護衛は遠くにでも置いておけば良い。

 

 場所に意味があったんだろうか?

 

 あの時の父上の言っていた事を再度思い出してみる。

 最近よく思い出しているせいか、段々と記憶が鮮明になって来ている。今日は周囲を気にせず遊べるとか、兄上姉上達も連れて訪れていたと言っていた。そして、僕が最後になってしまったと言うような言葉。

 取り留めもなく考えを巡らせていると、ふと、少し違和感を覚える――僕が最後になった事。あの時父上は何と言っていたか。改めて思い出す記憶の中の父上の輪郭がはっきりとした気がした。


「兄や姉達は既に訪れているが――おまえで最後だな」

 僕の頭に手を置いて、少しだけしんみりした様子で語る父上。


 おまえで最後──

 その言葉は、末っ子だから最後になったと言われているのだと思った。

 しかしそうではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()になると仰ったのだろうか。


 僕が訪れたのを最後にあの地は封印されてしまったのだろうか?

 だとすれば何故?

 分からない。

 

 分からないと認める事は理解への最初の一歩だと言われても、現状では考え続けても答えが出る気がしない。考えても答えが出ない、つまりは理解が足りない、ひいては情報が足りない。

 あの時、気づかなかったか忘れている事がまだあるのか。そうだとしても知らない事がまだまだあるのは間違いない。とすれば後は行動あるのみか。

 

「考えても分からない時は、つまりは行動が足りないって訳か」

 

 口に出してみたら何かが腑に落ちた気がした。

 とりあえず調べ物は続行、鑑定魔術の練習も続行、かな。

 ぐるぐると考えを巡らせるも何にもたどり着かず、結局は現状維持の結論だけが出た夜が更けていく──



 ──あれから数か月、外はすっかり寒くなり、母上は先日ようやく帰ってきた。

 久しぶりにお会いした母上は、僕を見るなりキャーキャーと黄色い声で騒いで抱きしめてくれた。

 ありがとうございます。そんなに騒いでくれるのは母上だけでございます……。


 さて、鑑定魔術の練習――様々な物の反応を調べる――にも手詰まりを感じて来ている昨今。僕は今、城の書庫に居る。

 何を知らないのか分かっていれば調べるだけで済むからとっても楽だ。

 

 じゃあ、何を知らないのか分からない時は?

 

 僕が出した答えは──必要そうな知識を片っ端から詰め込んでみる──だ。

 

 ふっふっふ……我ながらの力業っぷりに乾いた笑いしか出ない。

 

 最近は暇さえあれば書庫に入り浸って本を読んでいる。それでもユニコーンや世界樹について、どれだけ文献を読み漁っても、誰に聞いても、生息地については分からなかった。

 そもそも、これらに関して記述のある本自体が少なく、あっても情報は少なかった。

 

「なのに!」

 

「なんで!」

 

「どこに生息してるかも分からないのに!」


「素材の効能に関しての情報だけはあるんだよ!」

 

 おっと、思わず声が大きくなってしまった。

 書庫には今は僕しか居ないから独り言も言い放題だが。

 

 それは置いておいて。この本を書いた時点では、そこらじゅうに居て探す必要も無かったと言うのか?

 まさか想像で効能を書いてるんじゃないだろうな?

 

「万が一そうなら、そう書いておいてくれよ……」

 

 久しぶりに見つけた、ユニコーンについて書かれた本を勢いよく閉じる。挿絵に描かれたユニコーンが記憶の中よりずいぶんと不細工でいたたまれなくなった。

 

 ユニコーンや世界樹に関して、この書庫では調べ切ってしまったと言える位は本を読んだ。今なら城内で一番詳しいのではないだろうか。どれもこれも効能についてしか書いてなかったけど。

 

「一番面白かったのはユニコーンのしっぽかな……」

 

 これで患部を撫でると、どんな痔でも治るらしい。

 

「お世話にはなりたくないけど……」

 

 嫌な想像をして大きく嘆息する。手詰まりを感じてしまったせいか、余計な思考に逸れるのを止められない。


「気分を変えて何か別の本を読もう、どうせなら今まで読んでない種類が良いかな」

 

 あまり近付いた事の無い本棚の方へ足を向ける。さっきまで居た場所より饐えた臭いが強く感じる。この辺の本の方が古いのだろう。折角だから何か古そうな本を探してみようと視線を巡らす。

 

「そうだ、とびっきり古い本を見つけてやろう」

 

 なんてことはない思いつきだったが、少し楽しくなってきた。

 そして程なく、人の目に留まりにくい少し低い場所にある割に、妙に目を引くその本を見つけた。

 この書庫で一番古いんじゃないかと思われる、今にも崩れそうな本を本棚から慎重に抜く。

 書かれているのは国内で広く知れ渡っている、愛すべき我が王国に伝わる伝説についてだった。内容にすこしがっかりするも、ここまで古い本を見たのは初めてなので、折角だからと読んでみる事にした。


 ――北の地にある女神の泉より、戦を避けた女神ルタはペガサスに乗ってこの地に舞い降りた。歌を好んだ彼女はやがて楽器が得意な一人の青年を見初め、色々あって契りを交わし子を産んだ。女神に祝福されたこの子供は、なんやかんやで国を興す――


 乱暴に要約すればこんな話である。

 あえて言ってしまえば眉唾物の伝説。

 王族が神やその子孫を自称するのは、まあ良くある話だろう。

 うちも例外ではないと言うだけだ。不敬だろうか?

 

 しかし、この書物には他の伝承では見ない記述があった。

 女神がどこから訪れたか。今の広く伝わっている話の中では、実は明確には語られていない。

 青年の演奏する楽器の音に惹かれ天から舞い降りただの、山の間を抜けた風の音が女神を生んだだの、そんな物ばかりだ。

 ところがこの書物の中では、北の地の泉よりペガサスに乗って来た、とかなり具体的に書かれている。

 ペガサスは古くから国の宝として、そして我が王国で一番重要な兵器として保護されている。こと戦において、ペガサスに乗って戦場を俯瞰出来る我が王国軍は無類の強さを誇っていた。

 一方的に戦況を把握できる平地では、文字通り無敗であったと聞く。

 これにより平原の大部分を手中に収めることが出来た為、王国の今があると言っても良い。

 

 そのような理由があり、ペガサスは軍神の使いとしても扱われている。王国が誇る騎士団の象徴もペガサスだ。

 しかし、そのペガサスと女神をこのように結び付けた話は見た事が無かった。書庫にこの本がある以上、新発見では無いだろうけど、忘れられていた話ではあるんだろう。

 それか伏せられた、か、もしくはペガサス以外にも注目すべき点がある。


 ――こっちの方が個人的には重要だ。

 

 北の地にある女神の泉より、と書かれた一文から目が離せない。


 方角に関しては注意する事が1つある。

 僕どころか父上が生まれるよりも前、今から60年ほど前、大変動と呼ばれる事件のせいだ。

 まず突如として大きな地震が世界を襲った。その後、風や潮の流れが変わり、気候が変わり、山まで動いた。

 当然、王国内も神の怒りだ世界の終わりだと大きな騒ぎになり、文官達が相当に苦労した事が当時の資料の端々に殴り書きされた呪詛から伺える。

 

 そしてその大変動の際、コンパスがあらぬ方角を指すようになり、元に戻らなくなった。今まで北だった方向が、およそ大きく東へズレたのだそうだ。

 つまり、この古い書物が言うところの北は、今で言えば東の方角。東の方角に何があるかと言うと……。


 ――新大陸パンドラだ。


 かつて神々が戦争をしていたという地。氷の海に閉ざされ、たどり着けたとしても強力な魔獣達が立ちはだかる、人を拒んだ大地。

 しかし、今では大変動の影響か氷の海は解け、気候の変化に伴って強力な魔獣達は内陸へと移動している。

 玄関街、開拓街と呼ばれる街も出来ており、その入り口として我が王国は、近年また一段と発展をしてきている。



 女神とペガサスはそれぞれ王国に深い関わりがある。

 その2つが揃って1つの伝説に登場した。


 ペガサスに乗って連れられたあの場所は、もしや本に書かれた女神の泉なのだろうか?そしてそれは新大陸のどこかにあるのだろうか?自分で作っておきながら、未だに効能が分からない薬から、思わぬ冒険譚が始まろうとしている予兆に心臓が大きく跳ねる。

 

 それにあの場所には、どうも心惹かれる物がある。

 恥ずかしげも無く言うなら、運命を感じる、だ。

 少し前まで忘れていたくせに。

 或いは逆なのだろうか。

 忘れていたのに思い出したから、と。

 砂漠の中から、探していた金の針を見つけたような、運命としか言えない何かを……。

 小さな頃に抱いていた冒険心が刺激され、心がうろ覚えのダンスを躍っていた。


 今度、父上に新大陸――せめて玄関街への渡航をお願いしてみよう。王族として見聞を広めるとかなんとか言えば、許可を頂けるかも知れない。

 うん、悪くないんじゃないかな。

 

「次に父上に会えるのはいつ頃かなー?」


 ――◆――


 やがて、その時が来る。

 

「ならん」

 

 玉砕……だと……

 父上ににべもなく却下され、膝から崩れ落ちるしかないのであった。

こんばんは、リリエッタです。声は小さめにお願いします。

え?何故か?ですって?今は、夜ですよ。坊っちゃまが1人自室で物思いに耽ってらっしゃいますので、お邪魔をしてはいけません。

はい?私が何をしているのかですか?私は坊っちゃまが部屋に居る際には、常に入り口に控えておりますので、当然そのお姿を見守る権利がございます。何か問題が?はい、ありませんね。


そしてようやく王妃様のお帰りですね。親子の再会、とてもよい物ですね……あ、抱きついてらっしゃいます。良いですね、私もあの小さな体に抱きついて、ぷにぷにしてそうなほっぺたを突いたり、あわよくば頬と頬を擦り合わせたり──あ、全部されていますね。なんとも妬まし──微笑ましい光景でしょうか。いえ、不敬ではございません。


お城の書庫にて片っ端から読んだ本を積み上げていく坊っちゃま……文学少年のなんとお美しいこと……控えめに言って天使ですね。あぁ、私も本になりたい。

おや、叫ばれておりますね。大変に珍しい物を見させていただきました。眼福です。

そして何やら気づきを得たご様子。おめでとうございます、坊っちゃま。


父王様への再々度のおねだりをするご様子……控えめに言って天使ですね。殿堂入りです。

その後、膝から崩れ落ちる坊っちゃまも激レアシーンです。脳裏に焼き付けます。いえ、不敬ではございません。

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