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末っ子王子と末っ子迷宮  作者: ふたつき
第三章 開拓者たちの大地
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第四章 二十三話 迷宮ことはじめ

 水晶体……改めジオに話を聞いて、分かった事や余計に分からなくなった事が沢山ありすぎてしまい、頭がいっぱいになってしまった。なので輪をかけてややこしそうな、混沌の神やら種やらの事は追々聞いていく事にしよう。


 まず僕がやらないといけない事を整理し、今後の動きを考えた方が良さそうだ。


 第一に迷宮を守る事、これは最悪の場合、僕が死んでしまうのでやるしかない。

 第二に元の体に戻る事、そうしないと延々とここで迷宮を守り続ける事になってしまう。

 第三に子供の頃に訪れたあの場所を探す事、これが元々パンドラに憧れた理由だったはずなのに、随分と優先順位が下がってしまったな……

 それ以外に……あと何かあったかな? 何かを忘れている気がする。まぁ、そのうち思い出すだろう。忘れてるなら大した事じゃ無いかもしれない。


「さしあたって、この迷宮を守る必要がある訳だけど、問題が一杯あるよね」

「ん、そう? 僕としてはヴェレスが契約してくれたおかげで不満の殆どが解決したんだけど」


 迷宮と言えば迷路の様に複雑に入り組み、危険な罠や魔獣がうようよ蠢いているのを想像していた。

 だが、ここには虫の一匹すら居ない。多少広い通路があるただの一本道の洞窟。そこに来て戦力は恐らく僕だけ。ジオが戦えるのか分からないけど、コイツが割られたら終わりな現状、戦ってもらうのは得策じゃないだろう。つまり防衛も何もあったもんじゃない。

 玄関入ってすぐのところに僕の心臓が飾ってあるようなものだ。怖すぎて落ち着かない。


 最悪あの頑丈そうな扉を閉めて引き籠っても良いかな?

 そんな話をジオにしてみた。

「うーん。あの扉はそれなりに頑丈に作ってあるから、暫くはそれでも良いけど……馬鹿力で壊されたり、魔術的に解錠されて突破されたら終わりだよねー。あ、僕は直接は戦えないからそこは期待しないでね。」

 突破されたら終わりだよね、と言う割に気楽そうだ。そしてジオは戦力外、と。

「やっぱり防備を固める必要があるなぁ」


 いっそ城に協力を求める?でも父上は厳しい人だ……なんせ僕の渾身のお願いを三度却下するほどである。おまけに僕はそれを不服とばかりに出奔した身だ。今更何を、と言われそうだ。


「それは方法があるから安心してよ」

「え? 本当に?」

 コイツの話を当てにするのは不安が残るけど、方法があるなら聞いてみよう。

「まず、迷宮主になった君は、この迷宮を自由に造り変える事が出来るんだ。これで僕も一本道の名ばかり迷宮から卒業できるよ!」


 一本道なのは気にしてたのか。


「造り変えるって……そんな事出来るの?」

 瀕死の僕を助けたり、魔術に長けた存在なのは分かるけど、そんな事が可能なのか。

「僕が直接 構造を弄れるのはこの部屋だけなんだけど。迷宮の主が僕の力を使う分には結構広い範囲で地形を変える事が出来るよ。君がどんな迷宮を作るのかワクワクするね!」


 地形を変える――空堀や土塁を築いたりして小規模な陣地を作るくらいは、僕一人でも何とか可能だろう。伊達に土魔術に適性がある訳じゃないと自負している。

 それでも山の中に洞窟を掘り進めたりするとなれば……正直一人でやりたい仕事じゃない。

「土魔術なら得意な方だけど――相当な大仕事にならない?」

「多分、君が思ってるような力の使い方じゃないから、楽に考えてくれよ」

 楽なのは助かるけど、どういう事だろう。


「ふむ?具体的に僕はどうすれば良い?」

「君は迷宮の階層とか通路とか部屋をどうするか、イメージを示してくれれば後は僕が適当に作っておくから。規模次第だけど……二、三日くらいあれば出来るかな。」

 コイツが適当にと言うと不安が残るけど、僕の仕事は少なくて済みそうだ。

 迷宮のイメージ、つまりは設計図を出せと言う事か。


「簡単に地面にでも絵を描いてくれれば良いよ」

 ジオがそう言うと近くの床のタイルが剥がれ、地面が顔を出した。ここに描けと言う事だろう。

「なるほど。ちなみに具体的にどれくらいの範囲で弄れる?」

 結構広い範囲と言っていたが、どれほどだろう?

「うーん。君の生命維持で力を使っちゃってる分もあるからなぁ……今の感じだと……」

 何やら右に左に傾きながら思案しているようだ。それにしても、そうか僕のせいで力に制限が掛かってしまってるのか。少し申し訳ないな。

「あまり広くないけど。ひとまず、この山くらいの範囲だと思っておいてよ」

「ふむ……ん?」


 今コイツ、この山って言った?

 入り口から見上げた感じ、頂上まで一日、二日じゃ済まなそうなこの山?十分とんでもない範囲じゃないか?


「ひとまずでその範囲か……申し訳なく思って損した」

「ん? 何か言ったかい?」

「いいや、何も」

 どうやら、僕の好き勝手に迷宮を造り変えられるようだ。

 正直に言おう、少し……いや、だいぶワクワクしている。

 そんな場合ではないのではと思うが、憧れの迷宮を自分で作れる――その事実に、否応にも想像が膨らんでしまう。


「あと、そうだ。戦力に関しては、これも僕の力を使って迷宮棲物(クリーチャー)を作れば良いよ」

 想像が膨らみかけた僕に、また知らない単語が浴びせられる。

「くりーちゃー?」

「僕の力で作れる魔物みたいな存在さ」

「……魔物を作れるって……」


 それはとんでもない事なのでは?


「正確には生き物という訳じゃ無いんだけど……まあ、近い物だと思っておいていいよ」

 どうやって作るのかと聞けば、これも地面に絵を描けば創ってくれるそうだけど……ジオの力については深く考えない方が良いなと言う事にしておこう。

 瀕死の重症を傷痕も残さず治療して、僕を子供の体にしたんだ。今更と言う物だろう。


 それにしても……。


「そんなに色々出来るのに、何で僕が来るまでやらなかったんだ?」

 そう、この迷宮、と言うか現状ただの洞窟。

 もっと迷宮然としていれば、流石の僕も冷静になって途中で引き返して、こんな体にならなくて済んだかも知れない。

「僕ら心核(コア)はあくまで()だからね。使ってくれる存在が居ないとこんなもんなのさ」


「あの熊みたいなのは?」

 あまり知能は感じなかったけども。

「元々は近くの森のヌシ的な熊さん魔獣だったみたいだけどね――僕も頑張って色々教えたんだけどねー。あの子が示せる構造は単純だったし、迷宮棲物についてはさっぱり理解してくれなかったし、魔力操作は結局暴発させちゃうし……」

 まぁ、元が森の魔獣ならそれでも上々だろう……ん?

「魔力操作も教えたの?」

「うん! でも結局上手く扱えなくてねー」


「あの爆発はオマエのせいかー!」


 思わずジオに詰め寄り水晶体を掴んで揺さぶる。

「え!? ごめんね!?」

 あの爆発にはヒヤっとさせられたと言うのに。



「はぁ……はぁ……」

 しばしジオを振り回してようやく落ち着く。

「僕はただ職務に忠実なだけだったのに……」

 もっともらしい事を言ってるけど、楽しんでただけだろう。絶対に。

「僕と契約したからには変な事する前に相談するように」

「別に変なことは……」

「相談するように!」

「……はぁい」

 正直 安心は出来ないから僕が気をつけないと。ジオに好き勝手させたら、下手すると変な事を覚えた迷宮棲物によって迷宮が崩落しかねない……。



 それでも僕は内心、だいぶ興奮していた。城に居た頃は開拓者の冒険譚として、その存在を聞くしか出来なかった迷宮。

 パンドラを訪れた際には、是非とも挑戦したいと思っていたものだ。それを自分の思うように作る事が出来る。この事実は僕の妄想の翼を大きく羽ばたかせるには十分だった。


「それじゃ、ひとまず僕は構想を練ってみるから」

「うん、よろしく! うひょー、楽しみだなー!」

 ジオをはそう言って回っている。段々分かって来たけど、コイツは嬉しいと勢い良く回るようだ。

 そんなジオを横目に、僕は考えをまとめて行く。


「右手法はやっぱり潰しておくべきだよね……似たような構造を繰り返し使って迷いやすく……迷宮棲物ってどんなのを造れば……とりあえず森で見た狼を元にしてみようか」

 僕はしばらく地面に迷宮と迷宮棲物のイメージを描いて描いて描きまくった。



 ――◆――



「ねぇ、ヴェレス」

「言わないで」

「これは流石に……」

「頼むから、言わないで」

 僕は目の前の現実を直視できず、両手で顔を覆っていた。


 今、目の前に居るのは、僕が絵を描いて、ジオが創った迷宮棲物だ。その見た目はと言うと……。

 狼を模した姿をしているものの、全体的に丸っこく、目や耳などの特徴を表す部分は強調したように大きい。


「ヴェレス。コレ、可愛すぎない……?」

「僕の絵に忠実すぎるんだよぅ……」

 そう、僕の描く絵は詳細を省き特徴を強調した絵柄。森でティーにも言われたけど、自分に似合わず若干可愛い絵柄だとは少し思っていた。

 そしてそれをジオは忠実に再現してくれた――忠実すぎるほどに。


 結果、出来上がったのは可愛い子狼のようだった。


 森で見たパンドラグレイウルフを元に書いたと言うのに……恥ずかしさに顔を覆いたくなる。すでに覆っているが。

 これでは迷宮に現れる凶悪な魔獣ではなく、子供が喜ぶぬいぐるみだ。実際、僕が子供の頃だったらこの迷宮棲物にも喜べたと思わないでもない。


「没でお願いしま――」

「わぅ?」

 今まで目の前でお座りしていた狼のような迷宮棲物が、僕を見てひと鳴き。不覚にも可愛いなと思ってしまう。


「まぁ、迷宮っぽく無いもんねー。しょうがない、新しく――」

 ジオがそう言うと、目の前の迷宮棲物が光の粒を纏って消えるように薄くなっていく。

「くぅぅぅん……」


 迷宮棲物改め、子狼は切なそうに鳴きながら消えていこうとしていた。

「わぁぁぁぁ! 待った待った! ジオ、待って!」


「え?」

 消えかけた子狼が元に戻る。

「なんか、とんでもない罪悪感が……」

「迷宮棲物は僕の力を捏ねて作った粘土細工みたいなもんだよ?」

「わふ!」

「無理だ、僕にはそう見えない……」

 僕を見つめる子狼の頭を撫でる。人形のような子狼は気持ち良さそうに目を細めた。


「この子は僕が面倒見ます……」

「まぁ、君が良いなら良いけど」

 僕の迷宮に最初の仲間が増えた瞬間だった。

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