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末っ子王子と末っ子迷宮  作者: ふたつき
第三章 開拓者たちの大地
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第四章 二十話 迷宮発見?

 三姉妹に見送られて、颯爽と玄関街を去ったのも束の間、新大陸パンドラのど真ん中で迷子になった。そんな現実を認めたくなくて、思わず母上に頭の中で手紙を書き始めてしまっていた。

 曇っている空が今にも泣きだしそうで、僕の心情と重なる。

 いかん、まずは落ち着いてここまでの行動を振り返ってみよう――。


 三姉妹と別れた後、街道を歩き、途中の分かれ道で川沿いの太い街道ではなく、森へ向かう人気のない道を行く。道具屋で聞いた森を抜けて開拓街へ向かう近道のはずだった。

 そして昼頃には視界を埋め尽くす大きな森に辿り着き、そこでそのまま森に入るか、手前で一度野営し翌日一気に森を抜けるか迷う。しかし、この近道を使う人がそれなりに居るのだろうか、足元には一応の道が出来ているのが分かる。悩んだ末に、野営にはまだ早いと判断して森に入る事にした。

 外から見た印象とは異なり、森の中は意外と明るく、鬱蒼とした様相を覚悟していた僕は少し驚く。木々はまばらで、足元には枝や腐った葉が積もっている事も無く、下生えがある程度で歩きやすい。近道だからこうなっているのか、こうなっているから近道として利用されているのか、どちらにせよありがたい事だった。

 危険な魔獣の類もあまり居ないようで、一度だけ熊のような魔獣を遠目に見かけるも、こちらを気にする事なく森の奥へと消えて行った。比較的おとなしい個体のようだ。


 森の中を歩き日が傾き始めたので野営の準備をする。

 木の根元を片付けて場所を作り、荷物を置いて、買ったばかりの天幕を張る。辺りで落ちている枝を集め、魔術で水を抜いて適当に乾燥させた。枝から抜いて集まった水はそのまま口の中へと放り込む。少し青臭いが貴重な真水だ、無駄にはしない。

 枝を組んで火をおこし、糧食を取り出す。堅いパンと一欠けらのチーズ、こぶし大の干し肉に数粒の干し葡萄だ。

 杖を抜いて地面に当てる、そして魔術回路を発動させれば一瞬で短剣になった。ミューと出かけた時に考えた魔術をあの後すぐに刻んでおいた。

 余計な物は混じってないから綺麗なはずだが、出来上がった刃を一応布で拭いておく。

 パンとチーズ、干し肉をそれぞれスライスし、肉は木の枝に刺したら軽く焚火で炙る。それをチーズと一緒にパンへと挟んで完成だ。

 このパンはとっても堅いけど、炙った肉の香ばしさと、その熱で溶けたチーズの風味が合わさって胃を刺激し、食が進む。初めての一人での野営、そんな状況の中で食べた食事だからだろうか、不思議とよけいに美味しく思えた。

 鍋なんかがあれば、堅い干し肉もパンもシチューにして柔らかく食べられるだろうか。調理の幅が広がるのは良い事だ。開拓街へ行ったら食器を揃えるのも良いかも知れないなと、そんな事を考えつつ干し葡萄を摘まみながら、焚火を眺めてのんびりした。

 

 その後、焚火を消し。天幕を囲むように結界石を置いて一晩持つ程度の魔力を籠めて発動させる。鶏型目覚ましを近くに置いて、剣を抱いて毛皮に包まりその夜は眠った。


 翌朝、鶏型目覚ましの声で目が覚める。結界石は無事に機能していたようで何事も無かった。体を伸ばしながら目に入った空は薄曇りで、少し雨が心配になる。

 焚火の跡を魔術でサッと埋めて、手早く荷物をまとめる。よくある冒険譚の一幕のような夜になんとなく満足を覚えていた。

 寝起きの空腹に昨夜の残りを収めつつ、一晩世話になった木へと背を向けて、森の中を歩き出した。

 

 ――と、ここまで順調に進んできたと思っていた。結果は迷子、この有様である。

 

 今一度 冷静になって、講義で教わったこの辺の地理を思い出してみよう。玄関街から開拓街までは、お互いの街を繋ぐように東西に延びる河がある。その果ては大陸中央にあるのでは、とも言われているが良く分かってない。

 そして、その河の街と街の間、中ほどには北側には大きく森が広がっていて、今回はこの森を西から東に真っすぐ抜けたはずだった。

 だが僕の目の前には今、切り立った峻険な山々がそびえている。これは恐らく地図上では森の北側にあるはずの、未だ開拓の進んでいない大きな山脈ではないだろうか。

 つまり、だ。僕は東に向かって真っすぐ歩いていたつもりで、森を北に抜けてしまったという訳か?


 どうしてこうなった?


 野営した後、進む方角を間違えた?

 それにしたって一体どれだけ方角を間違えたというのだ……思わず頭を抱える。

 近道を教えて貰い、調子に乗って森に入ってこの体たらく。何という間抜けっぷり……旅程の短縮も何もあった物では無い。

 ひとまず、このまま森に沿って進めば、最悪でもどちらかの街へは辿り着けるだろう。ただの遠回りも良い所だけどそうするしかない。これも経験だ――多分。


「今後は自分の方向音痴を認めて行動を決めないといけないな……情けなくて泣きそう……」


 フィーとティーに知られたら何と言ってからかわれる事か。

 ここに来て初めて知った、しかし知りたくなかった事実を胸に、泣き出しそうになるのを堪えて、歩き出した。



「……あちゃぁ」

 

 結構な時間 歩き続けた頃、曇っていた空から盛大に雨粒が落ちてくる。僕より先に空が泣き出した。

 何か雨を避ける物を――しまった、僕の荷物には外套が無い、濡れ放題だ。

 開拓街へ行ったら外套も買おう……自身の準備不足を呪いながら木陰に逃げ込む。

 木の下で雨を凌ごうとするも、葉や枝を伝った雫が降ってきてやや鬱陶しい。毛布替わりの狼の毛皮を被ってしまおうか。しかしこれが濡れると夜に困る。濡れた毛皮に包まって寝るのは気持ちが悪いだろうし、下手したら体調を悪くする。

 雨宿りを続けるにも、この場所はあまり適当では――見るつもりがなくとも、ずっと目に入っていた山脈。

 その一部、僕の進行方向にあった比較的小さな山。それでも登るには一日はかかりそうな、その山の麓の一点に注意が引かれる。

 それは洞窟のようで、山の麓、森との境目に隠れるようにあった。

 別に山間に洞窟があるのは珍しく無いけど、妙に興味を惹かれる。それにあそこであればより雨宿りもしやすそうだ。

 

「熊とか居なければ良いんだけど……」

 

 このままここに居てずぶ濡れになるのも嫌だったし、今夜の安全を考えれば中の確認はしておきたかった。

 意を決して僕は洞窟に向かって走り出した。




「お邪魔しまーす……」

 

 誰にともなく小さく声を掛け、中の様子を探る。心配していた獣の気配は無かった。

 

「思ってたよりかなり広いな」

 

 雨宿りをしていた場所から見えた限りでは、すぐに突き当りのある窪み程度の物を想像していた。しかし、覗き込んだ洞窟は僕が両手を広げて二人並んでも余裕がある横幅で、更には果てが見えず、地下深くどこまでも続き、何かを誘い込んでいるようにも見えた。

 雰囲気が怪しい事を除けば今夜の野営場所としては大助かりだけど……まさか、これがパンドラで最近発見されていると言う迷宮の入り口だろうか……?

 ただの洞窟の入り口とは何か違った空気を感じ、そんな事を思う。

 しかし、僕が存在を知っている迷宮は、開拓街からさらに何日か行った所にある。それにこんなに街に近い所にある迷宮ならば、玄関街でもどこかで話を聞いていておかしくないし、攻略隊も盛んに来ているだろう。


 やっぱりただの洞窟かな?

 そう思った時、暗がりの奥の奥から風が吹いてきた気がした。


「風が……」


 軽く頬を撫でられたような感触に僕の好奇心が刺激される。


 しかし、今は何といっても迷子の身。おまけに開拓街への配達依頼の途中だ。そんな事している余裕があるわけ――また洞窟の奥から風が吹いて来る。

 今度は何かしらの僕を誘う意思のような物を感じた。

 

「本当に迷宮なのかな……」

 

 僕のつぶやきに答える様に風が吹く。どうにもやはり、ただの洞窟では無いようだ。

 迷子と言えど街への道が完全に分からなくなった訳では無い、多分。配達依頼も期日にはかなりの余裕がある。

 それなら少しくらい、そう、ほんの少し、入り口近くだけ探索してみても良いんじゃないか?

 洞窟の奥の得体が知れないまま休むのも問題あるよな?

 

「ちょっとだけ、奥に入ってみるか」

 

 好奇心に負けた僕は、鞄から魔道具のランタンを取り出し明かりを点けた。そして洞窟の誘いに乗るように、中へと足を踏み出す。

 もしかしたら新発見の迷宮かもしれない、そんな淡い期待を胸に――。

こんにちは、リリエッタです。

いきなり街道を外れて行くので少々びっくり致しましたが、なるほど、森を抜けていく近道という事ですね。流石です、坊ちゃま。やがて日も暮れ手慣れた様子で野営の準備をなさる坊ちゃま。流石です。そのパン非常に美味しそうなので後で私にも作っていただけますと幸いです。えぇ、メイドの士気に関わるので。そして今日の所はここで休まれるようです。あの鶏型目覚まし魔導具にお役目を取られるのは残念極まりないですが、仕方ありません。今の私は“影”でございます。

おやすみなさいませ、坊ちゃま――おはようございます、坊ちゃま。

おはようからおやすまで、そしてまたおはようまで。あなたの暮らしを見守り続けるリリエッタです。就寝後は坊ちゃまの寝顔をずっと観――危険が及ばないように周囲に気を配っておりましたが、この森、比較的安全なようですね。

坊ちゃまは手早く荷物をまとめて出発なさるようです。勿論、着いていきます。

あれ?坊ちゃま?そっちは北ですよ?東へ抜けるのではないのですか?坊ちゃま?

 

どのように坊ちゃまに道の間違いを気づかせるか迷っている間に、坊ちゃまは森を抜け、更には雨まで降り出してきてしまいました。メイドリリエッタ一生の不覚です。おや、どうやら山裾に洞窟を発見なされた様子。中に獣が居なければ雨宿りには最適ですね。ただ森よりも身を隠しにくく私が観察しにくいのが難点です。困ります、坊ちゃま。

ですが坊ちゃま。洞窟に少しわくわくしているようですね。控えめに申し上げても天使です。


ただ、重ねて申し上げさせていただきますと、その洞窟は私が観察しにくいので困ります、坊ちゃま。

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