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末っ子王子と末っ子迷宮  作者: ふたつき
第三章 開拓者たちの大地
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第三章 十九話 いざ開拓街へ

 宿に戻り、旅装を整えている時に問題は発覚する。

 そう、小刀すら持って来ていなかった僕が、ちゃんとした旅装なんてしている訳が無かった。改めて鞄の中身を床に広げてみる。

 城から持ち出した物は武具の他にも数点。

 

 虫よけ効果がある魔力で灯るランタン。

 魔除けと警報になる結界石が六個。

 夜明けの陽の光を感知して鳴き声を出す鶏型の魔道具。

 水に漬けておくと浄化して飲み水にしてくれる小さい軽石型の魔道具。

 それと一本ミューに使ってしまったけど薬品類がいくつか。

 

 あとは以前にティーと一緒に狩ったパンドラグレイウルフの毛皮を軽くなめした物。結構大型の個体だったから、これは十分毛布として使えそうだ。

 徒歩で五日の移動ともなれば、野営の必要が出てくる、そうなれば天幕や水袋も必要だ。街道は川沿いらしいから水はあまり心配ないけど、今後の事を考えれば水袋はあった方が良い。

 

「お金を稼ごうとして更に出費かぁ……いや、これは必要経費だし、しょうがないか」

 

 この先も旅をしてれば無駄にはならないだろうしね。

 財布の中身を軽く確認しつつ、旅の支度を整えるために宿を出た。



「いらっしゃい、何かお探しで?」

 

 手ごろそうな商店に目星をつけて入ってみれば、柔和な男性が気持ちよく迎えてくれた。

 

「天幕と水袋、あと糧食が五日分ほど必要でして」

 

「天幕と水袋と五日分の糧食ね、少々お待ちを」

 

 先日の悪徳商人から感じた雰囲気とは違った様子に安心する。


 店員さんはすぐに頼んだ物を目の前に広げてくれた。天幕と水袋の感触を確かめてみる。

 

「結構丈夫そうですね」

 

「この辺りじゃみんな使ってる物だから、耐久性は折り紙付きだよ」

 

「なるほど。じゃあ、これを頂いていこうと思いますが、お幾らですか?」

 

「話が早くて助かるね、全部で小銀貨三枚だよ」


「分かりました、それで大丈夫です」

 

 悪くない値段だったので即決で購入を決めた。僕だって伊達に食べ歩きばかりしていた訳じゃない、物価情報はなんとなく頭に入ってきている。

 

「糧食五日分って言うと開拓街へ向かうのかい?」

 

 品物とお金をやり取りしていると、ふと、そんな事を聞かれた。

 

「えぇ。川沿いに街道が整備されていて歩きやすいそうですね」

 

「それなら、気風の良いお客さんにちょっとオマケ情報だ」

 

 お、なんだろう?

 

「開拓街までだったら、森を抜けて近道して行く手もあるんだよ」

 

「へぇ、近道があるんですか?」

 

「あぁ。東門を抜けてそのまま真っすぐ歩いて、森に突き当たって小高い山を右手に見たら、これまた真っすぐ森を抜ければ川沿いに出る、後は街道を行けば開拓街さ。簡単に言えば玄関街から開拓街まで森を突き抜けて真っすぐ歩くだけのルートなんだけど、早い人は二、三日で着くって聞くね」

 

「二、三日ですか? それは街道より随分早いですね」

 

 早くて二日なら五日掛かる街道の半分以下だ。

 

「あそこの森の生き物は比較的大人しいし、開拓者さんなら楽に抜けられるんだろうね。見た所お客さんなら装備も立派だし問題ないだろう?」

 

 店員さんは、俺は怖いからやりたくないけど、と付け足して笑った。

 なるほど、開拓者御用達の近道か、これは良いかも知れない。旅程が短くなれば糧食も浮いて良い事尽くめだ。

 

「良い情報ありがとうございます」

 

「これくらいならお安い御用さ、良かったらまた来てくれよ」

「はい、是非」

 

 近道があるとは、これは良い情報を貰った。店員さんも良い人そうだし、この店は覚えておかないと。

 そうして僕は店員さんに感謝しながら商店を後にする。


 一通り旅の支度を終えて、そういえば三姉妹にも挨拶をしておいた方が良いなと思い至る。

 

「気づいたらずいぶんと縁が深くなっちゃったな」

 

 宿に戻りかけた足を三姉妹の家に向き直した。



 もはや本来の意味で親しみが湧いて来た家の扉をノックして自分の名を告げる。

 

「いらっしゃい、兄さん」

 

 駆け寄って扉を開けてくれたミューが僕を出迎える。まだ一応安静にさせてたはずなのだけど、その顔色は良く尻尾も元気そうだ、体調の方は問題なさそうだった。服もいつの間にか質素な寝間着のようだった物から普段着ぽい小綺麗な可愛い物に変わっている。もしかして髪も整えてあるのかな。女の子の事は良く分からないや。

 

「お邪魔するよ。体はもうだいぶ良さそうだね」

 

「うん! 兄さんのお陰です!」

 

 むんっ、と両手を握って大丈夫だと主張してくれた。

 彼女は以前よりもだいぶ明るくなった。と言うか、これが本来のミューなのかな。よくよく見れば彼女の尻尾も元気そうに振られている。

 

「それは良かった。二人は出かけてるのかな」

 

 二人でテーブルに着き、広くはない部屋を見回せばミューが一人で留守番の様子だった。

 

「お姉ちゃんは新しい仕事を見つけて、ティーちゃんはまた森に……」

 

「良かった、フィーは仕事が見つかったんだね。ティーは……相変わらずか」

 

「兄さんに素材の取り方を教わったお陰で、ティーちゃんも最近、張り切ってるんですよ。私も稼ぐんだ!って」

 

 その様子が簡単に目に浮かぶ。

 

「確かに毛皮の剥ぎ方とかを覚えた時は喜んでたからなぁ」

 

「あの日は家でもその話ばっかりで、お姉ちゃんったら兄さんに嫉妬しちゃって大変だったんですよ」

 

 その時の様子を思い出したのかミューがころころと笑う。

 

「あぁ、それで──」

 

 だからあの後、フィーからの僕への当たりが少し強かったのか、納得。

 対抗心を燃やされてしまったか。

 

「?」

 

「いや、なんでもないよ」

 

 その後も僕らの他愛ない世間話は続いた。




「そういえば、今日の兄さんは二人に用事が?」

 

 暫く話し込んでしまったせいで本題を忘れかけた頃、ふと都合良く水が向けられた。

 

「二人にと言うよりもみんなに、なんだけど。依頼で開拓街へ行く事になったから、挨拶しておこうかと」

 

「──っ!」

 

 ミューの耳と尻尾がぴくんと跳ねた後、力なく垂れる。

 

「それは……この街を離れると言う事ですか……?」

 

「……まぁ、うん」

 

 あからさまに表情も声も耳も尻尾もしょんぼりするミューに、どうにも返事が濁ってしまう。

 

「そうですか……寂しくなっちゃいますね……」

 

 しゅん、と、ミューが小さくなっていく。ともするとそのまま消えてしまいそうだ。

 

「もう会えない訳じゃないし、こっちに来た時は顔出すよ」

 

「兄さんは開拓者さんですもんね。しょうがないですよね」

 

 ミューの言葉は自分に言い聞かせてるようにも見えた。

 

「いつ頃出発するんですか?」

 

「依頼もあるし、明日の朝一番の鐘が鳴る頃には出ようかなと思ってる」

 

「そうですか……あ! じゃあ、みんなで見送りに行きますね!」

 

 しょんぼりしていた耳と尻尾が少し元気になる。

 

「え? いいよ、そんな大げさな。急な話になっちゃうし」

 

「いいえ! 私だけじゃなくて、二人もお世話になったのに、お別れの挨拶もしないのはダメです! 絶対に行きます!」

 

 妙に圧のあるミューの勢いにたじろいでしまう。

 

「あ、あぁ。分かったよ。でも無理しなくていいからね?」

 

「うん、二人には嫌だなんて言わせないよ!」

 

 違う、そうじゃない。

 なるほど、この感じ、ティーのお姉ちゃんなだけはあるな。

 しかし、ミューを説得してまで見送りを断るのも悪い気がしたので、その日はそのまま宿に戻った。


 明日の朝は早い、今日はすぐに寝てしまおう。



 夜明けと共に目が覚める。

 この宿は豪華にも窓にガラスが使われているので──今となっては路銀を圧迫した一因である──窓際に置いた鶏型の道具が太陽に反応して鳴き声を上げて起こしてくれた。城に居た時は毎朝リリエッタが起こしてくれていたから、この道具は助かるな。

 

「この鶏にリリエッタ2号と名付け──」

 

 何故だかやめた方が良いがした。

 

「顔を洗ってスッキリしてくるか……」

 

 夜明けから半刻ほどすれば朝一番の鐘が鳴る。そうしたらこの街とも一旦お別れだ。そう思うと少ししんみりしてしまう。

 そう言えば三姉妹は見送りに来るんだろうか? 昨日のミューの様子からすれば来るんだろうなぁ。



 装備を身に着け旅装を整えたら暫く世話になった宿を引き払う。夜明け直後の澄んだな空気の大通り、朝が早い仕事なのだろう人たちが既に動き出していた。あと半刻もすればいつも通りのガヤガヤとした賑やかで活気溢れる通りになるだろう。賑やかな大通りを頭の中で思い出を透かして見るように眺めつつ、今はまだ人もまばらなそこを独りで歩く。

 

 思えばこの玄関街では妙に濃い数日を過ごさせて貰った。初日のフィーによる詐欺未遂事件に端を発する騒動……ティーとの森での採取や狼の襲撃に剥ぎ取りの講義……そしてミューの快復。

 なんだ、結局、全部あの三姉妹との思い出じゃないか。

 そう気づいたら自然と笑みが溢れた。

 

 やがて玄関街の東門が見えてくる、その近くには三つの人影がある。その影はやはり、あの三姉妹だった。


「おっすアニキ」

 

 相変わらず軽い調子のティーに手を上げて応える。

 

「見送りなんて、なんだか悪いね」

 

「ううん、お世話になった兄さんの出立だもん、ちゃんとしなきゃ」

 

 ミューはすっかり元気になった様子だ、この分ならもう大丈夫だろう。

 

「ミューは夜明けより前に起きて準備してたんですよ、何か言う事ないんですか?」

 

 ミューの脇からにゅっと出てきたフィーが妙にジトっとした目で僕に言う。

 夜明け前から準備? そういわれて、ミューを見てみれば──。

 

「確かに、昨日よりも綺麗な──」

 

 服と髪だと言おうとしたけど、顔を真っ赤にしたミューの叫びが重なってしまいその言葉は続かなかった。

 

「お、おぉお、お姉ちゃんってば!」

 

「むぅぅぅぅ、やっぱりお姉ちゃん、面白くねーですよ」

 

 最近分かって来たけど、語調は丁寧なのにフィーは案外口が悪い。僕にも容赦が無くなって来た。


 笑い声が落ち着いた頃、ここ最近ずっと心に引っかかっていたことを切り出した。


「あのさ、ちょっと話しておきたいことがあるんだ」


 その言葉に三姉妹の視線が集まる。


「実は……僕の名前、ヴェルナーっていうのは偽名なんだ」


 一瞬、沈黙──その沈黙が少し怖い。

 でもこれは、この三人には伝えておきたい事だった。


「ごめん。事情があって本当の名前を隠してたんだけど、君たちには正直に話しておきたくて」


 頭を下げる僕に、フィーが少し呆れたように言った。


「はぁ……そんな事かと思ったら、偽名だっただけですか?それで謝られても、正直反応に困りますよ」


「そーだそーだ!そもそもアニキがアニキじゃなくなる訳じゃねぇし!」


 ティーはあっけらかんと、いつもの調子で笑ってみせた。


「うん。それに兄さんは兄さんだよ。名前が違ったって、私にとっては兄さんだもん」


 ミューの優しい言葉が胸に沁みる。


「ありがとう、みんな……それでも、やっぱり偽名のまま別れるのは嫌だったんだ。僕の本当の名前は──ヴェレス」


 三人の顔を見渡しながらそう告げる。


「ヴェレスさん──かぁ。けど“兄さん”って呼び方にも慣れて来ちゃったし──」


「ミュー姉もか!アタシもアニキって呼び慣れちゃったし、やっぱりアニキだな!」


「じゃあ私は兄だなんて認めませんので、ヴェレスさんと呼びますね」


 フィーもどこか意地悪そうに笑う。


「うん。好きに呼んでよ」


 ようやく少し肩の荷が下りた気がした。彼女たちに本当の名前を明かしたことで、ようやく対等な気持ちになれたような気がする。


 それでも──


「じゃあ改めて、アニキ!」


「これからもよろしくお願いします、兄さん」


「ふふ、ヴェレスさん。ちゃんと元気でいてくださいね」


 三姉妹から向けられた笑顔に、僕は自然と笑みを返した。



 その後もフィーの新しい仕事が決まったお祝いや、ティーが森の採取で頑張ってる事などを話していると、朝一番の鐘が響いて来る。

 

「そろそろ、出発の時間かな」

 

 僕の言葉にミューの耳と尻尾がしおれている。この子も人懐こくて分かりやすい子だなと微笑ましくなる。こんな子が病気から解放されて本当に良かった。


 一瞬の間の後、長女然とした雰囲気でフィーが口を開く。

 

「本当にお世話になりました、ありがとうございますヴェルナーさん。ぽやっとしすぎて向こうで騙されない様に気をつけてくださいね」

 

 言葉と共に丁寧なお辞儀をしてくれたが一言 余計である。

 

「兄さんなら大丈夫だよ、お姉ちゃん! 兄さん、私もっと元気になったら会いに行くね!」

 

 ミューが慰めてくれる。どうやら、しおれた耳と尻尾は回復したようだ。

 

「そりゃ良いや、アタシも行くぜ! アニキ!」

 

 ティーはいつも通りだな。

 

「ちょっと! お姉ちゃんを置いていく気ですか!?」

 

 ミューとティーの言葉にぷりぷりと怒るフィー。もう見慣れた光景に笑いが止まらない。

 

「あはは! それじゃみんな、またね。行ってきます!」

 

 僕の言葉にみんなそれぞれ、いってらっしゃいと返してくた、それに手を振って別れを告げる。


 フィーにはお世話になりましたと言われたけど、僕の方だってよっぽどお世話になった気分だ。

 寝起きで寂しい通りを歩いたせいでしんみりしてしまった気持ちも、いつの間にか三姉妹の賑やかさに塗りつぶされて軽くなっている。

 開拓街で仕事して、少しお金に余裕が出来たらまたこの街に来よう。

 そう誓って一歩、踏み出した。向こうに着いたら本格的な冒険が始まりそうだ。



 ──と、思っていた。


「ここ……何処?」

 

 東門を抜けて真っすぐ歩き、小高い山が見えたらそのまま森を抜けて、また川沿いを歩くと街道だ……ったと思うんだけど……おかしい、見える範囲に川も街道っぽい物も無い……代わりに目に入るのは最初に見えた山より大きい山――というか山脈が見える。

 

 ……どうして。

 

「もしやと思っていたけど……僕は方向音痴だったのか……?」

 

 僕はその場で両膝を突いて崩れ落ちた。


 前略、母上様。遠くパンドラの地でヴェレスは今、迷子です……。

こんにちは、リリエッタです。

今日は坊ちゃまが玄関街を出立する日。朝一番の鐘で街を出ると仰っていましたが、起きられるでしょうか?お城では私が毎日起こして差し上げていましたからね。あれはとても甘美な日々でした。あの至福の時間は私だけの物です。それが今は鶏の魔道具なんかに……っく。え?その鶏に私の名前を?…………悪く無いですね、いえ、むしろ、いいです、いいですよこれは。これで坊ちゃまは私が側に居なくとも私の名前を呼んで下さるのです。そう思えば鶏の模型に同じ名前が付くなど、むしろご褒美です。あれ?やめちゃうのですか?残念です。

ようやくあの三姉妹ともお別れですね。口々に坊っちゃまを讃えるミュミュミエール様とティティミエール様のご様子、なかなか分かっているようではありませんか。そうです坊っちゃまは大天使ですから。それに引き換えさっきから口の悪い兎娘ときたら……まぁ、坊っちゃまがその高貴なお名前を告げてまで?懇意にされているようですので?あまり無碍には致しませんが。


あ、いよいよ出発されるようです。私もお供いたしますよ。えぇ、付かず離れず。

あれ?坊ちゃま?真っすぐ森を抜けるんですよね?そっちじゃありませんよ?坊ちゃま!?

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