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末っ子王子と末っ子迷宮  作者: ふたつき
第三章 開拓者たちの大地
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第三章 十八話 開拓者の初仕事

 ミューの容態も大分良くなり、大通りのめぼしい屋台も一通り巡りつくした頃。ある事に気付いてしまう。

 

「財布の中身が寂しくなってきた……」

 

 左手に持った財布を揺すってみれば、少々心許ない音が返ってくる。城を出てからお金を稼ぐような事はしてないどころか、宿に泊まって好き勝手食べ歩き、フィーに貸したたお金も返って来てないのだから当然だった。まぁ、あのお金は上げたつもりだから良いんだけど。

 

「不味いぞ……」

 

 いや、今右手に持っている、牛の肉を串に刺して、店主自慢のスパイスで味付けして焼いた物はすごい美味しいんだけど。

 ともかく、このままでは近い将来無一文になってしまう。それを回避するためには働かなくてはいけない。働かざる者食うべからずだと誰かに教わった気もする。

 

「仕事を探さないとなぁ」

 

 見上げた空は雲一つない晴れやかな物だった。




 僕は一念発起し、開拓者たちへの依頼が集まる仲介所へ来ていた。

 流石パンドラの玄関街の仲介所と言うべきか、入り口から入ってすぐ、ホールのような広い場所には人が沢山だ。魚の鱗のように依頼書が張り出された掲示板の前で、みんな真剣な目をしていた。

 これぞ開拓者と言った雰囲気に気分も高揚し、僕もさっそくそちらへ向かう。


 開拓者の依頼は多岐に渡るが、正直に言ってしまえば便利屋だ。

 薬草採取に魔獣退治、隊商の護衛、更には土木工事に開墾作業。挙句の果てには迷子探しなんて物も。

 依頼の規模も報酬も大小様々なそれらの中から、自分の力量にあった物を探さなけば己の身の破滅を招く事になる。自然と貼り紙を見る目は真剣になるのだった。

 一応目安になる等級と呼ばれる物があるのだけど、僕の場合は最初だから一番下の燈火級というやつからだ。等級の低い物が集まる掲示板の端の方へ移動しながら依頼を眺めて行く。

 近郊の森で採れる物が対象の採取依頼とかあれば丁度良いんだけど……最悪は土木工事手伝いか開墾作業、日当は小銀貨一枚程度かぁ……そんな風に悩んでいた時。


「手ごろな依頼をお探しですか?」

 

 掲示板を前に考え込む僕に、仲介所のお姉さんらしき人は新しい依頼を貼りだすついでだろうか、声を掛けてくれた。

 

「えぇ、まぁ」

 

「お一人ですか?」

 

 あれ?──リリエッタがなんでここに……ってそんな訳ないか。

 顔は一瞬似てるかな?と思ったが、目元のホクロもないし、笑顔がにこやかで雰囲気も違う。また、彼女のあの長く綺麗な髪とは違い──綺麗ではあるが──首の後ろあたりでバッサリと切り揃えられていた。

 それに彼女はメイドだ、追っ手にするにしたって不適当だし、何より追っ手ならまず僕を捕まえて来そうだ。

 

 改めてお姉さんを見る、手をお腹の辺りで揃え、綺麗な金髪をふわりと揺らし、小さく首を傾げる優美な所作に少し見惚れてしまう。

 

「いかがしました?」

 

「あ、いえ。知り合いに似てて綺麗な人だなって──」

 

 思わず口を突いたキザな台詞に恥ずかしくなって顔を伏せる。

 初対面の人に何を言ってるんだ僕は! 口説いてるみたいじゃないか……!

 

「──っ!」

 

 目の前のお姉さんが一瞬ビクンと跳ねた気がした。

 

「いえ! すいません、なんでもないです!」

 

 慌てて答える、落ち着け、僕。

 見ればお姉さんも先程の様に落ち着いた雰囲気だった。見間違いかな?


 仕切りなおして先程の質問に答える。

 

「えっと、僕一人です……」

 

 規模の大きな依頼を受けるためにパーティを組む開拓者は多い。けど、僕は当然ながら一人だ。

 

「コホン。失礼ですが、等級は?」

 

 お姉さんの咳払いが少しわざとらしく、心に刺さる。

 ともあれ、僕は等級も当然ながら持っていない。確か一番下の物なら仲介所で登録すれば貰えるんだったかな?

 

「ありません。先日この街に来たばかりなので……」

 

「かしこまりました。それでは、よろしければ登録も兼ねて受付の方までお越し頂けますか?」

 

「是非、お願いします」


 彼女に案内されてホールの一角の机が並ぶ方へ向かい、お互い席に着いた。

 

「それではお名前をお伺いしても?」

 

「あ、はい。ヴェルナーといいます」

 

 かしこまりました、と何やら書類に書き込みながら答えたお姉さんは、小さい革製の資格証に魔術で僕の名前を刻んでくれた。

 

「それではヴェ──ルナー様、こちらをどうぞ。燈火級の資格証になります。無くても依頼は受けられますが、昇級するためにはコチラが必要ですので無くさない様にお願いします」

 

 最近は少し馴染んで来た偽名を噛まれた。ヴェルナーって言いにくいかな?それともまだどこか僕に不自然さが……?

 

「ありがとうございます。これが開拓者の資格証……」

 

 いいぞ!どんどん開拓者っぽくなっていくぞ、僕!

 

「ヴェルナー様はある程度ご存じの様子ですが、依頼と開拓者の等級に関しての説明は大丈夫でしょうか?」

 

「一応聞いた事があるのですが、依頼と同じかそれ以上の等級を持たないと受けられない。ですよね?」

 

「左様でございます。燈火級であれば十回連続、なんでも良いので依頼を成功させれば昇級する事が出来ますので、まずはそこを目指して頑張ってくださいね」

 

「なるほど、ありがとうございます」

 

「等級の序列に関しては知っていらっしゃいますか?」

 

「燈火から上は松明、篝火、高炉、灯台……あとは聖火でしたっけ」

 

「えぇ、よくご存じですね。聖火級は一人しか認められていませんので、現在は実質ルクリットさんの二つ名ですね」

 

 エルザ先生の一般教養の講義で聞いた覚えがある名前だ。確か最初期にパンドラに渡航し、玄関街と開拓街を作る足掛かりとなった功労者だから、もう結構な年齢の筈。まだパンドラに居るのだろうか?

 

「私からあとご説明できる事は──そうですね、高炉級以上からは開拓者組合がその身分を保証しますので、そうなれば色々と融通が利くようになると思いますよ」

 

 どうやら高炉級ともなれば、玄関街や開拓街で住居の補助や、消耗品の割引販売、依頼を遂行する際には補助要員を出してくれたりもするらしい。

 つまりは、それだけ危険な依頼をやって貰いますよと言う事だろうか。その後も細かい説明をいくつかして貰い、開拓者組合に関してはある程度把握できたと思う。


「それでは、ヴェルナー様に最初の依頼をご案内させて頂きます。初回ですので、紹介料は勉強させていただきますね。コチラの依頼はどうでしょうか?」

 

「すいません、ありがとうございます。どれどれ……」

 

 そうか受付で自分に合う依頼を探して紹介してもらうにはお金が掛かるのか。

 お姉さんから受け取った依頼書に書かれていたのは開拓街への配達依頼だった。

 

「開拓街の仲介所まで荷物を運んで頂く依頼になります、報酬は小銀貨で十枚、配達が早ければ追加報酬も考えてくれるそうです。向こうまでは川沿いに街道もあるので大変な移動では無いかと思いますし、歩いて向かっても五日程の道のりです。更に無等級の依頼というのもあって期日はかなり余裕を持って設定されています。燈火級でも資格証があれば報酬はあちらの仲介所で受け取れますのでご安心ください」

 

 小銀貨で十枚ともなれば初仕事の報酬としては悪くない。むしろ破格だ。

 それに依頼の期日を見ればひと月先の日付になっている。なるほどこれなら余裕たっぷりだ。

 

「注意点としまして、配達依頼では持ち逃げ防止の一環として保証金を預けて頂く必要がございます。これは依頼達成時にお返ししますのでご安心ください。もしご自身の身分を保証する物などをお持ちでしたら不要ですが……」

 

 お姉さんは言外に、普通の開拓者ならそんな物なんてそうそう持って無いと言いたいのだろう。

 なるほど、そういう事であればアレが役に立ちそうかな。保証金の節約にもなりそうだし。

 

「身分を保証する物ですか……これで用は足りるでしょうか?」

 

 首から下げた薬師と鑑定魔術師の資格証を取り出し、王家の紋を出して見せる。ついでにさっきの燈火級の資格証を一緒に付けておこう。

 

「まぁ……その若さで薬師と鑑定魔術師の資格をお持ちとは……失礼いたしました、であれば色々とご存じなのも納得でございます。この資格証をお持ちであれば問題はありません、代わりに依頼が完了しなかった場合に発行元へ問い合わせさせて頂く事にはなりますが、よろしいですか?」

 

 お姉さんは少し驚くそぶりを見せるも、問題ないと説明してくれた。

 この場合、配達物を持ち逃げしたらイレーナ先生と王国に問い合わせが行ってしまい、最悪資格の剥奪と罰を受ける事になる訳だ。大丈夫だとは思うけど頭の片隅には置いておこう。

 

「えぇ、問題ありません。それでは、この依頼受けさせて頂きます」

 

「かしこまりました、ご依頼の配達物を持って参りますので、少々お待ちください」

 

 やったぞ、これで初仕事獲得だ、それも開拓街への配達とは!

 早くも新しい街を見ることが出来る期待に気分が高揚する。


 奥に引っ込んだお姉さんはやがて、手のひらほどの大きさの包みを持って戻って来た。

 

「壊れ物では無いと伺ってはいますが、なにぶんご依頼の品ですので扱いは丁寧にお願いいたします。また、包みを開いたりもしませんようお気を付けください」

 

「勿論です。了解しました」

 

 鞄に入っていた布で依頼の品を更に包んで丁寧に仕舞った。

 

「それでは、道中のご無事をお祈りいたします」

 

「色々とありがとうございました!」

 

 無事に仕事を得た僕は意気揚々と仲介所を後にした。

こんにちは、リリエッタです。

案の定と申しますか、お財布の中身が心許なくなり、しょんぼりしてしまわれた坊っちゃま。はい、控えめに言って天使ですね。ありがとうございます。

それでは、不詳リリエッタよりお小遣いを……いけません、私も城を飛び出して来てしまったので手持ちがありません。え?あっし達のお金をお使い下さい?馬鹿な事をおっしゃる下僕23号ですね。あなた達のような下賎な輩が集めたお金を、坊っちゃまにお渡しできるはずがないでしょう。穢らわしい。なんで喜ぶんですか、パンドラはやはり変な土地ですね。

おや、坊っちゃま開拓者組合でお仕事を探されるのですか?──ふむ、そういう事でしたら。私がお手伝い差し上げましょう。折角の坊っちゃまの初仕事、変な物を押し付けられてはかないません。

さて、組合の裏手へと侵入はしましたが、一つ問題がありますね。このまま坊っちゃまの前に出るわけには参りしませんので……あら、そこの受付の方。私と背格好が似ておりますね、少々を服を貸していただけますか?えぇ、とお代ははこちらの手形へとツケておいていただければ。あら、その非常に協力的な態度。花丸をあげましょう。

あとは顔ですね……そこな方、お化粧道具をお借りしても?ええ、どうも。ここの方々は非常に友好的な方ばかりですね。

これでも元暗殺者、変装術などはお手の物でございます。何せ普段より坊っちゃまを観察する際には──いえ、今は変装を急ぎましょう。これで、お顔は大丈夫でしょう。あとは私の目立つ長い髪の毛──切ってしまえば良いですね。どうせまた伸びてくる物ですし──えい。ここまで変えれば普段の私との類似点がだいぶ減った事でしょう。はい、これで仕事の出来そうな組合受付嬢の完成です。

それでは坊っちゃまの元へと参りましょう。ここは自然に、依頼をお探しの様子なのか尋ねましょう──あぁぁ、久しぶりに近くで感じる坊っちゃまの匂い……私、卒倒しそうでございます。


────坊っちゃま。今、なんと?私に向かって──綺麗──と?はあああああぁ!いけません!坊っちゃま!このような場所で!そのような!私このまま天界へと──いえ、その前に妙な事を言っておりました。確認の必要がございます。

知り合いに似て────はて、どなたの事をおっしゃったのでしょうか?客観的に今の私の様子を思い出します。髪は金髪、それを首の後ろで切り揃え。顔にホクロは無く、柔和な笑顔(演技です)で綺麗な人──お城にそんな人おりましたか?これは後日、ぼっちゃまに詳しくお話をお伺いする必要がございます。えぇ、とても詳しく。

ひとまずは気を取り直して受付嬢っぽい振る舞いを心掛けましょう。えぇ、今のところは。

はい、お一人で受けられる依頼をお探しのヴェレス──ヴェルナー様ですね。危うくヴェレス坊ちゃまと呼んでしまうところでした。私をしてこれとは、長年の習慣というものは恐ろしいものですね。それも坊っちゃまの魅力のせいかも知れませんが。

一通りの説明を差し上げましたところで、いよいよ依頼のご紹介です。先ほど掲示板の前でざっと依頼書の束には目を通していましたので、最適な物を提案いたします。

まず、報酬が良い。大前提ですね。他より良いものに絞り込みます。そして依頼期日に余裕がある。これも大事ですね、急ぎの仕事で坊っちゃまを慌てさせるような真似は出来ません。さらに絞り込みます。最後に依頼内容。簡単である事が望ましいですね。坊っちゃまであればこの辺で出されるような木端な依頼は簡単にこなしてしまうでしょうが、だからと言ってわざわざそのお手を煩わせる真似をさせる訳にいきません。

とすれば、導き出される依頼はこれ!開拓街とか言う場所への配達!

道中の魔物がモノの数ではなく、ただ荷物を持って届けるだけならば方向音痴でもなければ簡単な依頼です。

我ながら完璧ですね。坊っちゃまも大層お喜びのご様子です。眼福ですね。

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