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末っ子王子と末っ子迷宮  作者: ふたつき
第三章 開拓者たちの大地
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第三章 十五話 講義とティティミエール

 群れが完全に去ったのと、倒した狼が死んでいる事を確認していると、ティティミエールが疑問を口にした。

 

「そういや、コイツらって魔術効かないんじゃ無かったのか?」

 

「知ってたんだ」

 

 ちょっと意外だった。

 

「そりゃ、戦う相手の事は知ってないとだし。魔術を弾く毛皮が高く売れるって話も聞いた事がある……ただ、アタシじゃ上手く──」

 

 なるほど、こと戦闘に関してはそれなりに勉強してると言う事かな。最後の方は何かゴニョゴニョと言っていて聞こえなかったけど。


「でもさ、アンタの最後のアレ、魔術だろ?」

 

「そうだよ。でも、パンドラグレイウルフの毛皮が魔術に耐性があるのは確かだけど、より正確に言えば魔力による作用に耐性があるだけなんだ」

 

 例えば魔力で作った炎なんかでは効果的では無かっただろう。

 

「……あぁん?──わかんね。」


 一瞬考えこむようなそぶりを見せたティティミエールだが、すぐさまそれを放り投げた様子だった。

 やっぱりこの子には難しかったか……。

 

「魔力をそのままぶつけるのはあんまり効かないけど、魔力で土をぶつけるのは効くんだよ。元々地面にあるただの土だからね。」

 

「うーん?」

 

 まだダメか。

 

「よし、じゃあコレを──そこの木にでも投げてみて」

 

 僕はさっきと同じ魔術で丸い石礫(いしつぶて)を作り、彼女に手渡した。

 

「ん? まあ、そう言うならよ──っと!」

 

 ティティミエールは高く足を振りかぶり、流れるような動作で石礫を投げた──鈍い音を立てて石礫が木にめり込む。

 すごいな、手で投げてこの威力か。

 

「では優秀なティティミエール隊員に質問です。君の今の攻撃は魔術でしょうか?」

 

「え?何言ってんだ?アタシは石投げただけだぜ……」

 

「そう!その通り!」


 その回答を待ってました。


「その辺の石を魔術で飛ばしても、君がそれ投げても結果は一緒だろう?つまりそう言う事さ」

 

「うーん?──あぁ!」

 

 合点が入ったのか、大きく手を叩いた彼女の顔が輝いた。ようやく理解してくれたようだ。

 

「はー、何だコレ、分かった瞬間すげー頭良くなった気がした!」

 

 うんうん、その気持ち分かるよ。分からなかった事が理解できると、一段頭が良くなった気になるよね。その感覚を忘れずに、これからも精進しましょう。花丸です。


「つまり魔術が効かない奴には石ぶん投げれば良いんだな!」

 

 あっれー?


「あー、うん。まぁ、君はそれで良いと思うよ。それじゃ、講義はここまで。ささっと毛皮を剥いで帰ろうか」

 

 ティティミエールへの説明をあきらめた僕は、早いとこ帰ろうと転がっている狼から皮を剥ぐ事にした。

 

「アンタ、コイツらの毛皮剥げるのか?」

 

 僕は色々と受けた講義の中で素材の回収方法なども教わっている。何かと利用価値の高い動物系の素材を剥ぐくらいは慣れたものだ。

 

「うん。そりゃ、これでも開拓者だし……え、今までどうしてたの?」

 

「アタシじゃ綺麗に出来なくて……ぶっちゃけ放置してた……」


「勿体ない!」

 

 今度は素材回収の授業が開始される合図だった。


「しょうがないなぁ。それじゃ手順を──」

 

 ふと気づく、しまった、小刀を持って来ていない。街で適当に買えば言いやと思ってたのにすっかり忘れていた。長剣では流石に長すぎてやりにくい。

 わたわたと体中をまさぐるも、小刀は出てこない。当たり前だ、持って無いのだから。

 長さが手ごろだったせいで短杖(ワンド)を手に取ってしまった。

 

「どした?杖なんか出して」

 

 ティティミエールが不思議そうにしている。

 出来て当然と言わんばかりに答えてしまった手前、今更道具が無くて出来ません、とは恥ずかしくて言えないぞ。

 どうしようかと内心の焦りを隠して短杖を見る。刃は付いてないし木で出来ているので当然切れない──このままでは。


 良い事を思いついた、つまりはさっきの石礫の要領だ。さっそく思いついた魔術を試してみる。

 片膝をついて杖の先を地面に当て、魔術を発現し、土を集めて今度は刃物状にしていく。ただの礫と違い刃を作らなくてはならないせいで、結構繊細な魔力操作を要求される。

 そうだ、杖はこのまま柄にしてしまおう。

 少しでも簡略化しようと小刀の芯には杖をそのまま使うことに。半分ほど出来上がって来た刃物状の物を杖に纏わせて形作っていく。

 

「お、おお?」

 

「──出来た」


 完成したのは短剣の背に杖が埋め込まれたような物だった。それは細身の刀身を持つ短剣、意匠はイレーナ先生が素材を扱うのに使っていた物を真似させて貰った。小刀としては少し長いが。

 

「すげー……地面から短剣生えてきた……」

 

 ふふふ、そうだろう? ここまで上手く出来るとは、僕もびっくりだ。

 土から刃物を構成するのに適当な成分だけを抽出したつもりだけど、切れ味はどうだろうか。

 親指の爪の甲に刃を立てて軽く引いてみれば、微かな手応えがあった。

 

「よし、良い感じ」

 

 どうやら使えそうだ。それにしてもこの魔術は案外便利かもしれない。短剣としての利便性は勿論の事、剣が使えなくなった時の副武装としても良いかも知れない。対人であれば意表をつける隠し玉にもなりそうだ。

 流石に人に刃を向けるのは抵抗があるが……。

 それより、幸いこの杖に仕込める魔術回路には空きがあるし、あとで刻んでしまおうか。そうすれば、今し方やった繊細な魔力操作を簡略化する事が出来る。

 

「とまぁ、先ずは短剣を用意して──あ、でもティティミエールの分はどうしようか」

 

「いや、アタシにはコレがある」

 

 自慢げに僕に向かって手を広げた彼女の指先には鋭い爪があった。

 

「なるほど、僕の短剣より立派だ」

 

「へへっ、だろ?」

 

 そう言って笑う彼女は誇らしげだった。

 

「それじゃまずは正中線に沿って、そっと刃を入れて、なるべく肉を皮に残さないように──」

 

 ちょっと焦った場面はあったけど、ようやく授業を始められそうだ。


 結果として、この作業に関してティティミエールはすぐに慣れた。今まではその鋭い爪と力で引き裂いてしまっていたみたいだったが、注意点を説明し、実際にやってみせ、彼女の作業に助言をするだけで上手くこなして見せた。魔術耐性の説明の時と違って、自分の体を使ってやる事には適応が早いらしい。

 暫くして二体分のパンドラグレイウルフの毛皮が奇麗に剥ぎ取られ、僕と彼女で一枚ずつ分ける。彼女が仕留めた分は……少々素材に適さない“処理”のされ方をしてしまっていたので諦めた。


「これでアタシも自分でお金を稼げそうだぜ!」

 

「そりゃ良かったよ」

 

 実際、この森で採れる素材は、街で売れば良い収入になるだろう。

 この子の強さならパンドラグレイウルフ程度ならば、万が一の際でも逃げる分には問題ないだろうし。上手く採取出来るようになれば、姉妹の生活もより良くなりそうだ。少なくとも、あの趣ある親しみやすい小屋からは出られるのでは無かろうか。

 などと考えながら荷物を纏め、帰路についた。




 色々とあった森からの帰り道、彼女は思い付いたように話を振って来た。

 

「アンタ、結構すごい奴だったんだな」

 

「どうしたの? 急に」

 

 あのティティミエールが僕を凄いと褒めるなんて、本当に唐突な話だ。

 

「いやさ。色々知ってて色々出来て、アタシにも分かるように教えてくれて、姉ちゃんたちみたいだなーって」

 

 彼女は手を頭の後ろで組んだまま、プラプラと歩きながらそんな事を言った。

 

「そう?それは、ありがとう」

 

 何気ない風に言われたせいで何気なく答えてしまったけど、あれほどに仲の良い三姉妹の末っ子から、姉のようだと言われる事は、結構な賛辞では無いだろうか?

 

「フィー姉もミュー姉も自分で仕事を見つけて頑張ってたのに……アタシはさ、今まで仕事を見つけても、偉そうにしてるヤツと喧嘩になって追い出されちまう事ばかりだったんだ」

 

 あぁ、目に浮かぶよ。とは流石に言わなかった。

 

「そもそも弱いヤツに従うなんて、アタシの血が許さねぇ。だからアタシは強くなって、二人を守るんだって。それがアタシの役目だって、そう思ってた……」

 

 急にティティミエールの声の調子が下がる。

 

「それなのに、アンタに負けて──爪は出してなかったけど……あの時は死ぬほど悔しかったけど、でも、アンタはミュー姉を治せるって言うし、森でも薬草とかキノコの事とか、毛皮の剥ぎ方も教えてくれた」


 段々とティティミエールの声の調子が戻ってくる。


「これでアタシもお金を稼げる、姉ちゃんたちの助けになれるんだ、って、そう思ったらすごい嬉しくなったんだ。それで気付いたぜ、戦うだけの強さじゃやっぱダメなんだなって」


 たどたどしくも、素直な言葉で語られる思いの丈は、だからこそ等身大の物であり。彼女なりに僕の事を認めてくれたからかと思うと、自然と笑みが浮かんだ。


「そうだね、戦えるだけじゃ──大事なものって、守れないんだろうね」


 城を出てから大して世の中を見て回った訳でもない僕が言うのも何だけど。逆に言えば、その短い間でも足元見られたり、人の悪意に触れたり、色々とあった。戦うだけではそれらとは渡り合えないだろう。

 

「あぁ、だからさ。アンタの強さ、見習わせて貰うぜ」

 

「え? 僕かい?」

 

「良いじゃねぇか、堅い事言うなよ!」

 

「うーん、僕も修行中の身なんだけどなぁ──」

 

「じゃあ、アタシも一緒に修行してやるよ──」

 

 賑やかになってきた僕らの会話は、そのまま街に着くまで続いたのだった。

こんにちは、リリエッタです。

どうやら坊っちゃま。わざわざ虎の娘のために何やらご教示しているご様子。無知なる臣民への施し、王家の者たる矜持を見ました。流石です、坊っちゃま。

そうですよね、魔術が効かない相手への遠距離攻撃には石を投げるのが良いですよね。

そして素材を剥ごうとしたのに小刀を持っていない事に気づいて慌てる様子の坊っちゃま。立派になられた昨今では非常に珍しい光景です。目に焼き付け、脳裏へと刻み込み、魂に染み渡らせます。

文字通りサクっと素材を剥いだ坊っちゃまと虎娘が何やらご歓談のご様子。えぇ、そうです。坊っちゃまは凄いのです。虎娘……いえ、ティティミエール様。なかなか貴方様も道理が分かる方のようですね。これまでの失礼をお許しください。

そして坊っちゃま。戦えるだけじゃ大事なものは守れません。そうです、メイドが必須なのです。お忘れなきよう。

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