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末っ子王子と末っ子迷宮  作者: ふたつき
第三章 開拓者たちの大地
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第三章 十一話 怪しい薬

 僕は屋台巡りを始め──今は一口大より少し大きく切った鶏肉をいくつか串に刺し、衣を着けて揚げた物を頬張っている。下味が濃いめ付いていて、かぶり付けば溢れてくる肉汁が堪らない。

 これは病みつきになりそうだ。そして……ふむ、お酒が欲しくなるな。

 

 次は何を食べようかと考えて辺りを見回していたら、偶然さっきのロップイヤーの少女を見かけた。薬を探して廻っているようだけど、空の籠を手に頭を下げて店を離れた様子からすると、鉱山病に効く薬は案外と見つからない物なのだろうか?

 商店に無くとも薬草院に行けば調合して貰えると思うんだけど……ここの薬草院に在庫がなかったとか? 無い話ではないけど……うーん。

 一度尾行してまで事情を探ってしまったし、犯罪に巻き込まれている様子でも無かった。もうここまで来たら乗りかかった船か、とことん付き合ってみようじゃないか。

 最後まで見守る事を決めた僕は、残っていた串の肉を口の中へ押し込み、手早く片付け彼女の尾行を開始した。

 そうだ、事が済んだらもう一本買おう。お酒と一緒に。

 

 意気消沈した様子で店から出てくるのを繰り返す事、僕が把握したのだけでも都合3回。

 彼女は薬を探し出してから何軒回ったのか、いつまで尾行続けようか迷い出した次の店でようやく、1つの瓶を抱え満面の笑顔を浮かべて店を出て来た。

 良かった、目当ての薬は見つかったようだ。

 こんな顔もできるのかと思うほど晴れやかな顔をした少女は、薄く青っぽい色の薬が入った瓶を大事そうに両手で抱えて歩いて行った。

 それを見送ろうとして──猛烈に嫌な予感がする。

 

「薄い青……?」

 

 鉱山病のような病気に対応する薬なら、その成分から自然と紫色になっていくはずだ。

 薬が青いと言う事は強壮剤としての効果くらいしか望めない。治りかけや軽い病ならそれでもそれなりに効果がある。しかし、臥せっていた妹さんの様子からして、あの薬では意味がないだろう事は確信に近い。

 

「まさかあの薬を、鉱山病に効くと言われて買ったなんて事は……」

 

 そうであれば、一人の薬師として許せない行為だ。僕はあの子が出て行った店の入り口を見据えて歩き出した。



「いらっしゃい、何かお探しで?」

 

 店に入るとお客は僕一人だった、都合が良い。気づいた店主が笑顔で声を掛けてくる。

 どうにも胡散臭い笑顔に見えてくる。これまで会った人から感じた事の無い嫌な空気を感じる。

 

「お若いのに腕の立つ開拓者様とお見受けしますが、回復薬など御入り用ですかな?」

 

 やはり見る人間には僕の装備は良い物のように見えるようだ。念頭に置いとかないとな……。

 

「あぁ、いや。鉱山病に効く薬は無いかな? 知人が肺をやられたみたいなんだ」

 

 辺りを見回すと店内の商品は雑貨が主だ、店主の裏の棚にだけ薬と思しき瓶が並んでいた。

 

「おや、二人連続とはまた珍しい……流行ってるんですかね……それなら仕入れを増やさないと……あ、いえいえ!鉱山病ならこちらの薬がよく効きますよ、お値段はお買い得の小銀貨三十枚! 薬草院なんかより断然お安いですよ!」

 

「……ふむ」

 

 店主が裏の棚から出してきたそれは、ロップイヤーの少女が嬉しそうに抱えていた、薄い青色をした薬だった。その薬を差し出し、より一層、にこにこと笑みを深める店主におぞましい何かを感じ、自分の中の何かが溢れそうになる。


 ……そんな薬をあの子に、そんなお題目で売ったのか?


 店主の気味悪い雰囲気に当てられ、冷静さを欠いた自分に驚く。言葉はギリギリのところでまだ口から出ていなかった。

 いけない、少し落ち着こう、心の中で一度深呼吸だ。

 ……そうかコレが悪意か。

 船で吹っかけられた時は、確かに腹も立った。でもあれは、多少強引な値付けってだけだ。払えないなら断れば済んだ話だし、僕にも選択肢があった。

 だけどこれは違う。

 病気の人間に、命を繋ぐためにって信じさせて、効かない薬を売りつけるなんて……。それがどれだけ人を絶望させるか、想像もつかないのか?

 人を害しても構わないという意思はこんなにも気持ちが悪い物だったのか。教えてくれてありがとう、とは言わないぞ。


「これ、ですか? 他の物とお間違えでは?」

 

「いやいや、そんな事はないですよ、ウチではコレが一番の薬と評判ですし」

 

 なるほど、当然のようにコレを売っている訳か、良い度胸をしている。

 

「僕も薬草学を齧った身です。鉱山病に効く薬がなんで青い色をしてるんです? これじゃまるで強壮剤みたいじゃないですか? 本来ならもっと紫色に近いはずでしょう?大体こんなに薄かったら強壮剤としても二流では?」

 

「あぁん?……お前みたいな小僧に何が分かるって言うんだ?うちの商売邪魔するってんなら……」

 

 僕の言葉に途端にガラが悪くなる店主。その彼に見えるように、首から薬師と鑑定魔術師の資格証を取り出してみせた。

 

「ぅぐ、それは──」

 

 薬を扱う商人なら頻繁に世話になる薬師と鑑定師の資格証を、知らないはずが無い。

 

「こう見えて薬師で鑑定魔術師ですから、売られてるような薬の薬効ならすぐに分かります。ちょっと失礼しますよ」

 

 棚に手を向け鑑定魔術を大きく広げ、棚の端から端まで全ての薬を視ていく。

 例の薬の研究のために鍛錬したお陰で、これくらいは纏めて出来るようになった。

 ロップイヤーの少女が購入して行った薬の他にも、店頭に並ぶいくつもの薬が表記されてるほどの効果も無い事が分かる。

 ……とんだ薬売りが居たものだ。

 

「あの薬だけじゃ無いのか……どれもこれも、偽物じゃないか!こんな事して、病気で苦しむ人をなんだと思ってるんだ!?」

 

 薬草学を学んだ身として、薬を偽る事に激しい怒りが沸き、思わず語気が荒くなる。

 街中を駆け回り、ようやくこの薬を手にして喜んだであろうあの子を思うと胸が苦しくなる。

 

「小僧が、適当な事を!どうせ偽の資格証だろう?そんな物使って、強請りでもしたらどうなるか知らんのか?磔になりたいのか?」

 

 国が認めた者にしか発行されない資格証を偽造する罪は重く、最悪の場合は磔にされる。僕が2つも資格証を持つ事を疑っているのだろう。


 この資格証には簡単ながら効果的な仕組みがある。持ち主の魔力に反応して王家の紋が浮かぶ仕組みだ。

 身内贔屓かもしれないけど、資格証自体はともかく、このアンガルフ自慢の特殊な暗号で編まれた魔術回路が刻まれた紋を、他の者が偽造出来るとは思えない。それにこの資格証はアンガルフが自ら作ってくれた物だ。


「そうですね、よく見て貰って結構ですよ。あなたも商人なら良くお世話になるでしょうから見慣れてますよね?」

 

 資格証に魔力を流しこめば、見慣れた王国の紋が浮かび上がる。

 

「王国紋、まさか本物だと……」

 

「一人の薬師として、そして鑑定魔術師として、貴方の行いは見過ごせるものじゃありません。一緒に来てもらいます」

 

「そんな、嘘だろ……こんな小僧が……」

 

「暴れないでくださいね。これでも開拓者ですから、荒事も慣れてる方ですよ」


 少し、嘘をついた。

 僕はこれから開拓者になる予定で荒事も稽古でしかまだ経験はない。

 まぁ、こいつの嘘に比べらた可愛い物だろう。きっと母上も許してくださる。

 

 放心気味の店主を引っ立てて店を出る。そこでようやく少し冷静になり、憲兵の詰め所の場所を知らない事に気付き、どうしたものかと、内心で軽く焦っていたら都合よく見回りの憲兵を発見した。

 あぁ、女神様のお導き! 普段あまりお祈りしてないのに、ありがとうございます!

 薬師と鑑定魔術師の資格証で身分を証明し、事のあらましを説明する。店内の薬を薬草院の方と鑑定師にあらためてもらうようにお願いして、店主を引き渡した。

 僕も聴取を求められたけど、それよりもロップイヤーの子が気になるので、後で彼らの詰め所に行く事を約束してその場を開放してもらった。


 取っておいて良かった薬師と鑑定魔術師の資格証。頑張っていた昔の自分に感謝する。

こんにちは、リリエッタです。

はい、はい。ふむ……いいから早く要点を言いなさい。要領を得ない会話は好きではありません。男なら言い淀まないではっきり言う!坊っちゃまを見れば分かりますが、男子たるもの──

は?坊っちゃまらしき人物が憲兵の詰め所に?もしや捕まったのではないか?

………………あんまりふざけた事を言ってると首を飛ばしますよ。

ご希望のご褒美が地獄への片道旅行だなんて、面白い人ですね。久しぶりに笑ったので花丸をあげます。さようなら──。

何ですか、別の下僕。今私はこの小物にご褒美を与えるのに忙しいのです。

ふむ……?憲兵と一緒に詰め所に入ってた行った大天使と思われる青年はその後暫くして憲兵とにこやかに会話しながら出て来た、と。はい、一息でよく長い説明を言えましたね。丸をあげます。

そしてこれは私が直接確かめる必要がありそうです。当たりでしたら花丸をあげます。

坊っちゃま、あなたのリリエッタが今、参ります。

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