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エッセイ

世界で唯一のちょっと変わった美術館

作者: 歌池 聡


※武頼庵(藤谷K介)様主催『24夏のエッセイ祭り企画』参加作品です。



 1年ほど前、嫁と義父を連れて、徳島県の鳴門市に小旅行に行ってきました。

 お目当ては渦潮で有名な鳴門海峡のすぐそば、小高い丘の上に建つ『大塚国際美術館』です。我が家としては2回目の訪問になります。


 自分たちの住む南大阪からは車で2時間強。日帰り出来ないこともないのですが、高齢の義父の体力を考慮して二泊三日にして、間の一日を丸々美術館鑑賞に充てるという、ちょっと贅沢なスケジュールでした。






 大塚国際美術館は、その名のとおり大塚グループが運営する民営の美術館です。

 大塚グループと言えばボンカレーやカロリーメイト、ポカリスウェットなどで皆さんにもお馴染みですよね。

 民営ながらもかなりの規模で、その展示面積は日本最大級、鑑賞ルートは何とおよそ4km(!?)。


 そしてこの美術館は、世界でも唯一無二の珍しい特徴を持った美術館です。


 ここは世界中の名画と呼ばれる作品1000点をも展示しているんですが、その全てが陶板に実物大で精密に転写された『レプリカ』なんです。

 





『──はぁ? なぁんだ、レプリカってことはただの偽物じゃん、つまんねー』と思ったあなた、ちょっと待った!

 正直に言えば、自分も行く前はそう思っていました。

 でも、実際に行ってみると、筆遣いまで感じられるほど再現度も高く、何よりラインナップがとにかく凄い!


 ざっと思いつくだけでも、『モナリザ』『最後の晩餐』『真珠の首飾りの少女』『ヴィーナスの誕生』『踊り子』『ゲルニカ』、モネの『睡蓮』、ムンクの『叫び』等々──。


 レプリカとはいえ、これだけの作品を、いちどきに間近で見られる機会なんてまずあり得ません。

 これらの作品が、古代から現代まで、美術の歴史に沿うように展示されているので、美術史全体を俯瞰するような感覚を体験できるのです。


 そして、それらの名画を至近距離でいくらでも見ることができ、何なら一緒に記念写真まで撮れちゃうんです!

 海外の名画が来日して展覧会があっても、普通はまずかなりの大混雑で、絵の前で立ち止まることすら困難ですしね。






 そして、何と言っても圧巻は、エントランスに入ってすぐのところにある『システィーナ・ホール』。

 バチカンのシスティーナ礼拝堂は、その天井と壁面いっぱいにミケランジェロの『最後の審判』のフレスコ画が描かれているんですが、何とその礼拝堂の内部を実物大で完全に再現しているんです。このド迫力は、必見ですよ!

(ここで実際に結婚式をすることも出来るそうです)


 これが完成したのは2007年ですが、その年に当時の美術館長は『キリスト教の伝統を数多くの美術作品を通じ、日本国内で紹介し理解を深めた』功績により、ローマ法王庁より勲章を授与されています。


 




 実は、この美術館は世界の美術界でも大いに注目されています。


 陶板に転写された絵画は、約2000年もの間、色合いが変わらないのだとか。

 実際の絵画は、どれだけ温度や湿度を厳重に管理しても、経年劣化による退色などは避けられません。

 でもこの美術館のレプリカは、現時点での美術品の色合いをほぼ正確に記録して保持し続けるタイムカプセルのようなものです。

 つまり、将来に劣化したそれらの名画を修復する際の基準にもなるのです。


 そんな素晴らしい技術を日本の企業が開発したのって、何だか誇らしくないですか?






 そういうわけでこの大塚国際美術館は、美術に興味のある方なら一生に一度は訪れるべき場所だと断言します。


 前述の超メジャーな名画以外にも、『機動戦士ガンダムUC』に度々出てきた『一角獣を従えた貴婦人』のタペストリーや、『フランダースの犬』のラストを飾るルーベンスの名画、少年サンデーで連載されていた漫画『第九の波濤』の元ネタになった絵など、オタク系の人が楽しめる作品も色々とあります。


 丸一日かけても見切れないほどの、圧倒的ボリュームの名画の数々。

 皆さんも、一度訪れてみてはいかがでしょうか。

 絶対に損はしないと、保証しますよ!








 最後に、小ネタをひとつ。


 我が家ではこういう美術館や博物館では、それぞれが自分のペースで好きに見て回るというスタイルです。

 ひとりで館内を見回っている途中、『フランダースの犬のあの絵画はこちらです』という看板を見つけました。

 矢印の方へ歩いていくと、徐々にあのラスト・シーンで掛かっていたような荘厳な合唱曲が聞こえてきます。

 やがて、角を曲がってその部屋に入った時、40歳ぐらいのおば──お姉さんが床からガバっと立ち上がって、慌てたようにそそくさと立ち去っていくのとすれ違いました。


 あれ、もしかしてあの人、転んだのかな?


 さほど気にせずに見上げると、壁一面にあの絵が飾られていました。

『フランダースの犬』で主人公ネロが憧れ続け、最終回のラスト・シーンでついに見ることが叶った、ルーベンスの『キリスト昇架』『キリスト降架』です。

 

 ああ、ネロは最後に床に倒れたままこの絵を見上げて、満ち足りた気持ちのまま、愛犬パトラッシュとともに天に召されていったんだろうなぁ。


 他に誰もいない荘厳な空間でそんな感慨を覚えながら、その絵をじっくりと観ていたんですが──ピンっとひらめいたのです。


 ははぁん。さてはさっきのお姉さん──あの感動的シーンを再現したくなっちゃって、誰もいないから思わず床に這いつくばってたんですね?


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― 新着の感想 ―
[良い点] 先日、黒星★チーコ様からこちらの美術館エッセイを聞き、「昔、大塚美術館行ったことある♪」と喜んで読みにまいりました(≧▽≦) 原寸大だから、それぞれ大っきいですよねー!! 絵もですが、長い…
[一言] 名前は知っていたのですが、実態をあまり知らなかったのでとても興味深く読ませて頂きました。 美術に造詣が深いわけではないのですが、有名絵画が沢山あるのであれば素人の私も楽しく回れそうです(´ω…
[良い点] 企画から拝読しました。 うわあ、なんて素敵な美術館! 絶対行きたい!って思いながら冒頭に戻ってみたら、徳島県でした……。 なんということでしょう。千葉県からでは遠すぎます……がっくり。 シ…
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