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もう一つの召喚

「先に本城に突入してもらって、応援を呼んでもらうっていう手もあるんだがね」


 一応、フォローはしておく。

 クロエが宮廷魔術師の実力なりなんなりでもってゾンビ相手に一人無双してくれるのならば楽ではあるものの、そんなことができるのならばわざわざ異世界から人など呼ぼうとはしないはずだ。


「分かっているから、そんなに必死に首を振らなくともいいと思うぞ」


 否定し続けないと本当にやらされるとでも思っているのか、ずっと首を横に振り続けているクロエにそう言ってやると、ようやく首振りを止める。

 自分の人相はあまりよくないということを、鏡なりを見て把握はしているものの、ここまで必死に怯えられるような凶相だっただろうかと、思わず自分の頬を手で撫でてしまう。


「冗談はさておき」


「じょ、冗談だったんですか?」


「半分くらいは。それでどうやって本城の本命と合流するかなんだが」


 半分は本気だったのかと呆然とした顔をするクロエはとりあえず放置しておくことにして俺は考える。

 幸いなことにゾンビ共は本城めがけて移動しているものがほとんどであるため、本城に近づこうとしない限りは散発的な戦闘を繰り返すだけで当面はしのげそうだ。

 もっともその選択は、いずれこちらが力尽きる未来しかない。

 何せゾンビ共は後から後からぞくぞくと王城に入り込んできているようなのである。


「参考までに。王都の人口は?」


「詳細な数までは……五万前後だったかと思いますが」


「兵士込みで?」


「はい。王都の兵力は大体五千くらいですが」


 最悪で四万体近くのゾンビから身を守る必要があるのかと考えると気分が落ち込む。

 もちろんその予想は、王都が既に全滅しており、兵士がろくにその任務を果たせなかった場合の話なのだが、そこまでこの国の兵士が使い物にならない代物ではないことを祈るしかない。

 そこまで考えた俺はふと思いついたことをクロエに尋ねた。


「そう言えば、支城は二つあるって言ってたよな?」


 俺が呼ばれた場所が第三召喚室で、本命は本城の第一召喚室であるとクロエは言っていた。

 俺は本命の予備でしかないそうだが、予備の戦力としてもう一人。

 第二召喚室で呼ばれている異世界人がいるはずなのだ。


「もう一つの支城って、あれのことか?」


 俺達が出てきたのと似たような造りの建物を指さしてみれば、クロエがこくりと頷いた。

 本城と比べると、支城の周囲にいる人影はまばらだ。

 生きている者の姿は見えないが、ゾンビ共の数は本城周辺と比べると圧倒的に少ない。


「あれの地下に第二召喚室とやらがあるんだよな?」


「そうですけれども」


「上手く事が運んでいれば、俺と同じ予備の召喚者がいるはずなんだよな」


「えぇっと……怒ってます?」


 予備という所を特に強調したつもりもないのだが、どことなく申し訳なさそうな雰囲気であるクロエに、否定するために首を振ってから俺は言った。


「本命と合流する前に、まず予備の方との合流を試みよう」


 本城側は何故だか知らないが、ゾンビ共が群がっていて大盛況であり、容易に近づけそうにない。

 それに比べればまだ支城の方が望みがありそうだ。


「俺と違って何か強力な力を授かっている可能性もあるし」


 アタリとハズレの確率が半々であるならば、二人続けてハズレを引くよりは、どちらかにアタリの出る可能性の方が高い。

 仮に運悪くハズレを引いていたとしても、人手や考える頭の数が増える。


「魔力切れを起こしているかもしれないが、召喚主の魔術師もいるんだろ? いいことづくめだと思うんだが」


「それはそうですね。何より私より上位の方ですし」


 第三位の宮廷魔術師よりは第二位のそれの方が強いらしい。

 そうなってくると、おそらくこのハイランド王国で最も実力があるのだと思われる第一位の宮廷魔術師がどれだけの力を有しているのか興味を抱いてしまうが、今はそれについて考えを巡らせているような暇はなかった。


「決まりだな。移動しよう」


 本城へは中庭を突っ切っていくようなルートしかなかったが、支城と支城の間には移動に使うための廊下のようなものが造られていて、そこをこっそりと移動するだけでよかった。

 途中、まばらではあるがゾンビの小さな集団とすれ違うことはあったものの、足音を殺して息をひそめてやれば、どうにかやり過ごせる。


「こいつら、何に反応しているんだろうな?」


 よたよたとふらついた足取りで移動しているゾンビ共を見ながら俺は呟く。

 ゾンビ共は何かしらの外部的要素に刺激され、反応して集まったり襲い掛かったりしているはずなのだ。

 その刺激が何なのかが分かれば、ゾンビ共を相手にするのはかなり楽になるはずだった。


「視覚と嗅覚は使い物になっていないですよねぇ」


 クロエが言う通り、ゾンビ共の目は抜け落ちていたり、白く濁ってしまっていたりしてとても生前の機能を有しているようには見えない。

 臭いについてはそもそも、ゾンビ自身がまぁまぁ臭く、あれではどんな嗅覚を持っていたとしてもまともに働かないだろうと思われた。

 人の持つ感覚の内、味覚については考えるまでもなく使っているわけがないので、残る感覚は聴覚と触覚ということになる。


「それと魔覚ですね」


「なんだそれ?」


 この世界の住人には五感ではなく六感が備わっているらしい。


「何となく、魔力があるなと感じる感覚です。この感覚のない者を魔抜けと呼びますが、ほとんど見たことがありません」


「なるほど」


「ゾンビ達はおそらく、聴覚と魔覚に強く反応しているようです。どちらが主かと言えば確実に聴覚の方ですね」


「根拠は?」


「魔覚に頼るのであれば、足音を殺してもこちらを察知して飛び掛かってくるはずです。触覚をあまり使っていないだろうというのは、あれだけ木立や壁などにぶつかっても大した反応を示していません」


 クロエが指さした方向を見れば、数体のゾンビ共がただひたすらに石壁に向かって前進し、腕やら頭やら体やらをその壁に打ち付けては倒れたり、よろめいたりしている姿があった。

 自分の前方に壁があるということを認識していないようで、何度ぶつかっても前に進もうとするし、衝撃で多少体の向きが変わっても、今度は壁に体をこすりつけるようにして歩いている。

 石壁に加減なく体をこすりつけたり打ち付けたりしていれば、体液やら肉片やらが壁に擦り付けられていき、本来無地のはずの石壁になかなか衝撃的で凄惨な絵画が描き出されていた。

 後で掃除するのが大変そうだなと思いつつ、クロエの意見は正しそうだなと認識する。


「魔覚の方は、本城にゾンビ達が殺到している所からの推測になりますが」


 少し言いにくそうにしているクロエに、何に気を使っているのやらと首を傾げ、どうやらそれは本城にて行われていた召喚がアタリを引いたということに対してらしいと考える。

 つまり、ハズレであるところの俺に気を使っているというわけだ。

 気にしなくてもいいのにとは思うが、わざわざそれをクロエに伝えるようなことはしない。

 変に調子に乗られても面倒であるし、急にないがしろな扱いをされると言うのも嫌な気分になる。

 クロエという人物をもう少しきちんと理解できれば、こちらから気を遣うようなことをしても構わないが、今はまだ時期尚早だと思う。

 なので別なことを口にする。

 もっとも話題としてはこちらの方が重要な気がしてならないのだが。


「その理屈でいくと、俺達が向かっている支城の方の様子がどうにも気になるな」


「支城の様子ですか? それの何が気になってって……ぁ……」


 訝し気な顔をしたクロエだったが、すぐに俺が何を気にしているのかに気づいて声を上げた。

 魔覚とやらでおそらくアタリの強い力を持った者が召喚されたと思しき本城へ、ゾンビ共が殺到しているのであれば、比較的ゾンビの姿が少ない支城にはゾンビ共の気を引く存在がいないということになる。

 つまり、ハズレと言うわけだ。


「どうします?」


 合流してもハズレでは大した戦力にならない。

 人手は増えるかもしれないが、足手まといになるという可能性もある。

 しかし、召喚の儀式を行った魔術師は確実に戦力になると思う。


「とりあえずはこのまま合流を試みよう」


 そう提案した俺の言葉にクロエは首を縦に振ったのだった。

面白いなとか、もっと書けなどと思われましたら。


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