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9話 クランのお仕事


⸺⸺ハーモニアクラン支部⸺⸺


「うわ、ここも活気あるね」


 ミオは広くて天井の高いロビーを見渡し、歓喜の声を上げる。

 武装をした様々な種族の人たちが思い思いに活動をしていた。

 受付のお姉さんに何やら訴えかける人、クエストボードとにらめっこをする人、ソファで仲間と談笑をする人、どの人もミオの好奇心を刺激した。


「支部はどこもこんな感じだな」

 と、ケヴィン。


「まずはお前の登録だ」

「はい!」


 ミオはクロノに付いて記入台へと向かった。他のメンバーも何故かぞろぞろと付いてくる。


「これに必要事項を記入する」


 クロノが台の下からクリーム色の厚紙を取り出し台の上に置いたので、ミオは踏み台を使ってその紙を覗きこんだ。


「ふんふん、なるほど……」

 そこには名前や生年月日など、基本的な項目が並んでいた。

 彼女は羽の付いたペンを取ると、思わず首を(かし)げた。

「これで書けるのかな?」

 羽ペンの先を見ると、インクは付いておらず真っ白だったからだ。


「この紙が魔具で、そのまま書けるぞ」

 クロノが答える。


「分かった、ありがとう。えっと、ミオ・アスマ、生年月日……」

「22歳だったな? なら年は1663か1662だな。何月何日だ? お前の世界の数字でいい」

「2月22日だよ」

「近いな、俺たち2月26日だぜ」

 と、ケヴィン。

「おぉ、そうなんだ」


「なら1663年だな。お前のこの世界での生年月日はヴァース暦1663年2月22日だ」


「ふむふむ……」

 ミオはクロノに言われた通りに記入する。


「出身、どうしよう……」

「ニホン、だったっけ?」

 と、チャド。

「うん……」


 ミオが頷くと、クロノは一瞬考え込んだが、すぐにこう答えた。

「そのままニホンって書け。多分通る」

「わ、分かった。ニホン……っと。種族はマキナ族。職業と役職は?」

「白魔道士にコック」

 クロノが逐一助言をする。


「あぁ、職業ってそういう……武器は魔法杖、よし、あとこの顔だけなんだけど……って、うわぁ、勝手に浮かび上がってきた!」


 ミオが全ての記入を終えると“顔”と書かれた正方形の欄に紙を覗き込んでいるマキナの顔がモノクロで浮かび上がった。


「ま、そういうもんだ。よし、行くぞ」


 クロノが厚紙を取ってミオを連れて受付へ戻ると、他のメンバーは近くのソファで(くつろ)いで待った。



 クロノの言う通り、出身はニホンで問題なく通過した。受付での手続きが終わると、二人は大きな板が立て掛けてあるエリアへと移動した。


「利き腕と反対の腕を出せ」


 クロノにそう言われてミオは左腕を差し出す。

 すると、柔らかい布の様なバンドを腕へ巻き付けられる。それはピタッとくっつくと、そのまま見えなくなった。


「クランバンドだ。俺たちもみんな付けてる。この中にはお前の情報が入っていて、今はとりあえずこれでほとんどの店での代金が支払えると覚えておけ。ルフスレーヴェの口座から自動的に引かれるようになってる」


「おぉ、便利だね」


「で、こいつが登録証だ。俺らみたいに腰に付けてろ」

「うん、ありがとう」

 ミオは登録証を受け取るとクロノの真似をしてベルトへと付けた。



「で、こいつはクエストボードだ」

 クロノが大きな板を見上げながら言う。

 ミオも同じように見上げると上の方に“クエスト情報”“ハント情報”と魔法の文字で印字されていた。


 その下には何枚もの紙が貼られており、それぞれ魔法文字や魔法画が記されていた。


 ミオが一通り眺めた所でクロノが説明を始める。

「クランは主にクエストとハントの2種類の仕事をこなして金を稼ぐ組織だ。クエストは所謂便利屋、このハルラ島内で依頼を出してる島民の悩みを解決する」

「おぉ……」


「で、ハントは……まぁ、長くなりそうだからまたそん時ポールにでも説明してもらえ」

 クロノがポールをチラッと見て言うと、彼は腕をヒョイと上げて了解の意を示した。

「うん、分かった。あんま説明するとポールの仕事取っちゃうからね」

 そう言うミオに対しポールは小さくうんうんと頷いた。



「で、正式にメンバーになったお前にはクランボードの管理を任せる」

 クロノはそう言ってスマホ程の大きさの手帳の様な物を取り出した。

 ミオは不思議そうにそれを受け取り、二つ折りになっていたそれを開いてみる。

 外見は手帳だが、中を開くと一枚の石膏(せっこう)のような板になっており、魔法の文字が印字されていた。


「ハーモニア支部管轄(かんかつ)、クエスト、ハント……しか、書いてないね」

 ミオは少し残念そうに言う。


「それはこの管轄内で引き受けたクエスト内容や達成したクエスト、ハントの情報が印字されてくもんだ。この支部か検問所で精算して、ルフスレーヴェの口座に金が入る仕組みだ」


「おぉ……じゃぁ違う管轄に行ったら自動的に変わる?」

「そうだ。ちなみにどこの管轄でもない地域では“圏外”とだけ表示される。海に出たらまた見てみろ」


「分かった!」


「あー、あと、次のページに管轄内の地図や世界地図、それ以降のページはルフスレーヴェのことが色々書いてある。ちなみに“赤獅子(あかじし)の海賊”と書いてルフスレーヴェと読む。ルフスは古代語で赤い、レーヴェは獅子だ。またそれも暇なときに見とけ」


 クロノがクランボードを覗き込み指でスッとなぞると、魔法文字が自然に消え、ページが捲られたように新たな文字が浮かび上がってきた。


「おぉぉぉぉ……!!」

 ミオはテンションが上がり次々にページを捲っていくが、クロノに「後でな」と止められ渋々辞めた。



「じゃぁ、実際になんかクエストやってみるか」

 クロノがクエストボードを見上げながら提案する。


「わ、私でもできる……?」

「見てみろ、できそうなのあるぞ。特に“F”って書いてあるやつなら何でもできんだろ」


 ミオはそう言われてクエストの張り紙を一つずつ丁寧に見ていく。確かに“F”の記載があるものは所謂(いわゆる)パシリのような内容で、誰でもできそうだった。


「一度にいくつも受注できる?」


「もちろんできるし、他のクランに取られる前にできそうなクエストはまとめて受注するのがいい。ただし一度引き受けたらクエスト毎に期限が決まってる。それを過ぎたら自動的に破棄されて放棄料が引かれるから気を付けろ」


「ここに書いてあるのが期限だね。そしたら、これとこれとを受けようかな」

 ミオは2枚のクエストを順に指差す。


「ん、ユリィの町の方には行く予定だったから丁度いいな。なら自分で受付で受けて来い。クエスト受注したいって言えばあとは流れでいける」

「了解しました!」



 ミオは張り切って小走りで受付へと行き、隅に除けてあった台に乗りカウンターから顔を出した。


「はい、いかがなされましたか?」

 受付のお姉さんが優しく微笑む。


「クエスト受注したいです」

 ミオは緊張気味に答える。


「かしこまりました、クラン登録証の提示をお願いします」

「あ、はい、えっと……」

 ミオは検問所でクロノが提示しているのを思い出し、腰に付いている登録証を引っ張ると、磁石が外れるようにパッと外すことができ、カウンターの上へと差し出すことができた。


「ありがとうございます、S級フリークランルフスレーヴェ様ですね、どちらのクエストを受注なさいますか?」

「あ、もうこれしまっていいですか?」

「はい、結構ですよ」

 ミオは登録証を元に戻す。


「えっと、5番と26番のクエストを受けたいです」

「はい、クエストNo.5『ハルラフィッシュパイの納品』とクエストNo.26『手紙の配達』ですね」

「はい」


「受注が完了致しました。こちらがクエスト用紙になります」

「あ、はい」


 ミオは差し出された用紙を受け取り、中を見てみる。

 クエストボードに貼られていた内容と同じものが記されており、更にその下にサインを(もら)う欄が追加されていた。


「それでは、いってらっしゃいませ」

「い、いってきます!」

 ミオが振り向きクロノの姿を探すと、皆が寛いでいるソファで一緒になって寛いでいるのを発見した。

 小走りでそこへと合流する。



「あ、ミオおかえり〜! 何受けたの?」

 と、チャド。


「これだよ」

 ミオがチャドへクエスト用紙を渡すと、彼の両脇からケヴィンとエルヴィスが一緒になって覗きこんでいた。


「うはぁ、F級とか懐かしいな! 何年ぶりだ?」

 ケヴィンの問に対しエルヴィスが「5年ぶりくらいじゃね?」と答える。


「ユリィの町まで行くんだね〜、クエストの仕組みとか色々分かっていいかもね〜」

 チャドはそう言ってミオに用紙を返した。


「どういうルートで行く?」

 クロノがミオへと問う。

「えっと、この26番の依頼主のクレイラさんのお家に行って、手紙を預かって、次に『白猫亭』に行って、5番のハルラフィッシュパイを買う。んで、ユリィの町って所に行って、フィッシュパイと手紙を渡す」


「上出来だ、5番の依頼が昼までだからな、早速行くぞ」

「うん」


「あー、おじさん、先にユリィの町の酒場で待ってるわぁ」

「はいはい」

 エルヴィスの申告に対し、クロノが軽くあしらう。


「俺はミオのはじめてのおつかい見届けたいからミオと一緒に行くぜ」

「僕も〜」

 と、双子。

「ありがとう!」



 4人はエルヴィスと別れると、クレイラという女性の家を目指して出発した。

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