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7話 なんちゃって白魔道士


『いやぁこれは快適だぁ』


 ポールはミオの買ったばかりのリュックから顔だけ出して、満足気に(くつろ)いでいる。

 逆にさっきまで彼を(つか)んでいたケヴィンの手の中は、大量の紙袋に変わっていた。


 クロノに「迷子になるな」と言われ、彼と手を繋いで歩いているミオは、どこからどう見ても幼稚園児だった。



「エルヴィス、どこに居るのか分かるの?」

 ミオは右隣を見上げてクロノへ尋ねる。

「まぁ、だいたいな。アイツはいつもその町で一番デカイ酒場でくつろぐ癖があるんだ」


「へぇぇ、大きい方がお酒の種類とか多いのかな?」

「何でかは気にしたことねぇから分かんねぇが、決まっていつも奥のカウンターのど真ん中でマスターとしゃべり倒してる」

「あはは、暇なのかなぁ」

「さぁ、今度直接聞いてみろ」

「うん」


 そんな話をしていると、双子が「ここっぽい」と言って大きな漆喰(しっくい)の建物へと入っていったので、彼らも続けて入った。



⸺⸺酒場、白猫亭⸺⸺


「っしゃ、当たったぜ!」


 入った瞬間ケヴィンがガッツポーズをする。

 それに気付いたエルヴィスはマスターと軽く挨拶をして6人掛けのテーブル席へと移動した。



「これまたたぁくさん買ったなぁ」

 テーブル横にドサッと置かれた紙袋を見てエルヴィスはゲラゲラと笑った。


「大変お待たせ致しました」

 ミオは席に着くなりペコッと頭を下げる。


「おーおー、ミオっちよく似合ってんじゃないの。はい、これメニュー表」

 彼は頭を下げている彼女の目の前に木枠のオシャレなメニュー表を置いた。


「あ、ありがとう」

 ミオは頭を上げてメニューを見つめる。

 どのメニューも日本語で書かれていて読むことができ、ポール曰く『ミオ自身に転移者の言語補正がかかってて読めてるんだよ』とのことだった。


 メニュー表を見つめて顔をしかめているミオへエルヴィスがアドバイスをする。


「ハルラフィッシュってのがこの島の特産で、癖のない白身の魚よ。その中でもマスターのオススメはハルラフィッシュパイらしいぞ。おじさんもそれ食べたけどお魚の身がふわっふわで美味しかったぞ」

「わぁ、そうなんだ。じゃぁ私もそれにする」

 ミオは表情をパッと明るくさせた。


 他の皆もそれぞれ頼み、料理が来るとエルヴィスの言う通り本当に身がふわふわで美味しかった。



 他愛もない話をしつつ、料理も食べ終わる頃。


「それでさぁ船長、防具も買うんだよね?」

 と、チャド。

「あぁ、一応一式(そろ)えようと思う」

 クロノがそう返すと、ケヴィンが満足気に語り出した。

「やっぱな。そう思って魔道士のローブに合いそうな服チョイスしといたんだよな」


「防具って、私の?」

 ミオの問いに対しクロノが軽く(うなず)く。


「なんで魔道士?」

「いや、むしろ魔道士以外が考えられねー」

 と、ケヴィン。すると他の皆もまるでタイミングを合わせたかのように同時に頷いた。


 そんな彼らを見て目をパチクリさせるミオ。

「魔法、使えないけど」

「使えそうな魔力はしてるんだけどね〜」

 そういうチャドに対しまたしても皆が同時に頷く。


「白か? 黒か?」

 エルヴィスが面白そうに問いかける。

「「「白」」」


「……防具の色?」

 ミオはまたしても独りキョトンとする。


「白魔道士か、黒魔道士かってことだ」

 と、クロノ。

『白魔道士は回復系の魔道士で、黒魔道士は攻撃系の魔道士だよ』

「そっか、確かにどっちか選びなさいって言われたら白魔道士の方がいいな」

「決まりだな。んじゃ一式揃えに行くか」

 クロノがそう言うと、一同は酒場での会計を済ませ防具屋へ向かった。


⸺⸺ハーモニア防具店⸺⸺


「うわぁ、大きな(よろい)!」

 ミオは自分よりも遥かに大きい鎧を見上げてそう呟いた。


「オーガ用の鎧だからな。一応マキナ用の鎧もあるぞ」

 クロノに言われて右の方に移動すると、先程の鎧とは打って変わってオモチャのような鎧が並んでいた。


「あれ、マキナ用は一種類しか置いてないね」

「オーガは前衛向きだから鎧の種類も豊富だが、マキナは後衛向きだからな」


「あー、そういうのがあるのかぁ。じゃぁ、マキナは魔道士向き?」

「魔道士も多いが、一番は魔導ガンナーだな。魔導ボウガンや魔導砲(まどうほう)という武器の扱いに長けてる。魔導の武器はある程度の魔力があれば扱えるから、マキナにもってこいなんだ」


「おぉ、なんかカッコイイ。じゃぁさ、どうして私は魔道士なの?」

「お前はそこら辺ですれ違うマキナに比べて遥かに大きな魔力を持ってる。たまにお前を二度見する奴がいたが気付かなかったか? それほどだ。だからみんな魔道士って決めつけてるだけで、お前が嫌なら無理に魔道士のローブを羽織(はお)らなくてもいい。魔導ガンナー用のコートもあるぞ」


「そういうことかぁ。とりあえず魔道士のローブが見てみたいな」

「ん、こっちだ」



 ミオはキョロキョロ防具を見ながらクロノについていった。

 すると、もう既に他の3人が魔道士のローブのコーナーで盛り上がっていた。


「ミオ、これなんかどうだ?」

 待ち構えていたケヴィンがマキナ用の白いローブを手渡した。

 受け取ったミオはすぐにあることに気付く。


「ネコ耳!!」


 フードを見やすいように中に手を入れて広げてみると、大きめのネコ耳が付いていた。

 その中は空洞になっていて、マキナの耳がすっぽり入りそうだった。

 更にローブの(すそ)にはレモン色のラインが入り、それが更に可愛さを引き立てて彼女が一目惚れするには十分すぎる程だった。


「これにする!!」


「とりあえず見てみるんじゃなかったのか?」

 と、クロノ。


 そう言われてミオはチラッと魔導ガンナー用のコーナーを見てみるが、彼女の考えは変わらなかった。

「これがいい」

「了解」

 クロノは呆れたように笑みを浮かべながらローブを受け取り、そのまま会計を済ませた。



「うわぁ、着心地も良い!」

 クロノから再度ローブを受け取るとミオは早速羽織ってみた。見た目よりも軽く、肌触りもサラサラとしており、更にハルラ島の様な暖かい気候でも暑く感じなかった。


 店に多数ある魔道ローブの中で一番の高級品であるため当然のことだったが、彼女は知る由もなかった。


「おぉ、一気に白魔道士っぽくなったな」

「白魔道士じゃないけどね〜」

 ケヴィンとチャドがそれぞれ意見を言うが、エルヴィスの次の一言で全てが片付く。


「なんちゃって白魔道士」


「「「それだ!!」」」

 双子と一緒になってミオ自身も盛り上がる。


 そんな彼女を見て、本人が喜んでるからいいか、と思うクロノであった。



 ミオはそのままクロノに背中を押されてズルズルと隣の建物へと入った。

 そこは防具屋と繋がっており『錬成(れんせい)はこちら』と書かれていた。


⸺⸺ハーモニア錬成堂⸺⸺


「錬成?」


「そのローブをこのままここで強化していく。悪いがもう1回脱いでくれ」

「強化! お願いします!」

 ミオは納得したようにローブを脱ぎクロノに手渡す。


 クロノはカウンター越しに店員と向き合うと、あれこれと注文を付けていた。

 そんな彼を皆は少し後ろで見守る。


「おぉ、MAX強化だね〜」

 と、チャド。

「そうなの?」

 ミオがそう聞き返すとポールがここぞとばかりに説明を加える。


『防御、魔防、魔伝導効率(までんどうこうりつ)、各々の属性耐性、状態異常耐性、錬成で強化できる項目全部を上限値で注文してるよ』


「えっと、なんかよく分からない項目も混ざってたけど、とにかくありがたいですな」


『魔伝導効率は装備者の魔力を流しやすくするものだから、今はあんま必要ないかな〜』

 ポールがそう言うと、注文を終えて皆のもとへ戻ったクロノが会話に割って入る。

「すぐ必要になんだろ」

『かもね〜』


「あ、クロノ。たくさん強化してくれてありがとう」

「ん」

 


 しばらくして錬成が完了し、ミオが再びローブを羽織ると、一同は店を後にした。

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