5話 初めての島、ハルラ島
⸺⸺ハルラ島⸺⸺
年中暖かい気候の比較的大きな島。
島の南にある『海洋都市ハーモニア』の港から上陸することができ、海沿いに漆喰の建物が立ち並ぶオシャレな島である。
色んな地方との交流が盛んで、島民も旅人も種族は様々。
⸺⸺
昼前、ハーモニア港、クラン用船着き場。
到着したレーヴェ号の操縦室では、ケヴィンがミオを肩車しながら慣れた手付きで船を停泊させた。
「うわぁ、ケヴィン凄いね!」
ミオは興奮気味に彼の頭をポンポンと叩く。
「んだろ? 俺は“魔導船舶操縦士”なのだ、はーっはっはっはー」
「魔導船?」
ミオは首を傾げる。
「おうよ! あー、そっか、ミオの居たところは魔法がねぇから魔導もねぇのか……んー、どっから説明すりゃいーんだ……?」
『オイラの出番?』
操縦盤の隅に置かれていたポールがすくっと立ち上がった。
「わりぃ、頼むわー」
ケヴィンはそう言うとポールを抱きかかえて操縦室から出た。
廊下を歩きながら、ポールが魔導についての説明をする。
『まずね、この世界の大気には“マナ”ってゆう元素が混ざってるんだ』
「ほうほう」
『人の魔力の元になる気体で、そのマナを取り込んで色んなエネルギーに変換する道具を“魔導具”という。機械みたいなものだよ』
「なるほど、じゃぁこの船はそのマナを燃料として動いてる船ってこと?」
『そゆこと』
「ちなみに船内にある照明とかキッチンや風呂なんかも魔導具なんだぜ」
ケヴィンが補足する。
「へぇぇ、電気やガスみたいだなぁ」
ミオは魔力の元になるマナが生活に深く関わっていることを知りワクワクした。
3人が船の1階から外に出ると既に船から降りていたメンバーに出迎えられた。
「はい、ケヴィン」
チャドがそう言って“メイス”をケヴィンへ差し出す。
「おうよ、んじゃミオやる」
「はぁい」
ケヴィンはミオを抱き上げてチャドの首へ跨らせると、彼からそれを受け取った。
「それって……武器?」
ミオが恐る恐る尋ねると、ケヴィンはチャドとミオの顔の前へとメイスを掲げた。
「そう、メイスっていう武器だ。俺はこれを振り回して戦う」
「僕は双剣〜」
チャドもそう言って腰に付けていた双剣を引き抜き両手を上げて、頭にしがみついているミオへと見せる。
「おぉ……」
ミオが驚きつつクロノとエルヴィスを順番に見ると、クロノは背を向けて背中に装備している大きな刀を、エルヴィスは腰の両側に付けている2丁の銃をそれぞれ見せてくれた。
「ちょっと待って、そんな危ないところなの?」
ミオは不安そうに賑やかな町の方を見渡した。とてもそんな風には見えない。
「いやいや、町ん中は安全だから心配すんな」
と、ケヴィン。
『クラン活動をしている人にとっては、武器は装備するのが当たり前、ミオにとっての鍵とか財布とかスマホとかなんだよ』
ポールがそう補足する。
「なるほど分かりやすい……」
『でしょ〜』
それにしても、何と戦うために武器なんて装備しているんだろう、とミオは思ったが、町の中は安全という言葉を信じて今は聞かないことにした。
「じゃ、おじさんはいつも通りどっかで飲んだくれてるから」
エルヴィスはそう言うと船の前で動かず皆を見送った。
「え、エルヴィスは一緒に行かないの?」
ミオがチャドの頭にしがみつきながらエルヴィスの方を見ると、それに気付いた彼ははにかみながら手を振った。彼女も咄嗟に手を振り返す。
「エルヴィスはね〜、魔導船舶整備士なんだぁ」
と、チャド。
「そうなんだ、船の整備して後から来るってこと?」
「うん、僕たちと合流はせずにどっかの酒場に引きこもってると思うけどね〜」
「あはは……」
ヘラヘラと笑うチャドに釣られて、ミオも引き気味に笑った。
⸺⸺ハーモニア港検問所⸺⸺
「クラン登録証の提示をお願いします」
深緑色の制服を着た男性職員が出口のゲートで待ち構えていた。
クロノが登録証を見せると職員の顔がハッとする。
「S級フリークランルフスレーヴェ様、ようこそお越しくださいました。どうぞお通りくださいませ」
そう言って深くお辞儀をした職員に見送られ、一同はハーモニアの街中へと足を踏み入れた。
『S級フリークランって……マジ?』
ポールが独りボソッと呟いたが、誰にもその声は届かなかった。
⸺⸺ハーモニア中央通り⸺⸺
「すごい賑わってるね!」
ミオはチャドに肩車をされながらキョロキョロと辺りを見渡す。
石畳の広い大通りは多種多様な人で溢れていて、まるでテーマパークのようだった。
「ハーモニアはね、お買い物に来る人がたくさんなんだよ〜」
「品揃えが豊富?」
「そだよ〜。遠くの島から定期船に乗ってくる観光の人とか、物資調達で立ち寄る僕たちみたいなクランとかが必要な物は大抵何でも揃うかな〜」
「おぉ、だからわざわざ進路変更してくれたんだね」
「あはは、そんなこと気にしてたの?」
「いやぁ、なんか申し訳ないなぁって」
「ミオはもう僕たちの仲間なんだから良いんだよ。これからミオの物たくさん買うけど、気にしちゃダメ。分かった?」
チャドはそう言ってわざとスキップをして歩く。
彼の肩に乗っているミオは「うわぁ!」と叫びながら彼の頭にしがみついていた。
ミオが必死に気にしないことを約束するとチャドはスキップをやめ、彼女はようやく一息つくことができた。
彼らの少し後ろを歩くクロノとケヴィン。
『ねぇケヴィン、オイラもあっちに混ざりたい』
ポールがケヴィンに雑に掴まれながらボソッと呟いた。
「なー、俺も混ざりてぇ」
『えっ、じゃぁ二人でやる?』
「残念ながら俺がお前であれやると、驚くことにただの変態なんだわ」
『えー、何それつまんない』
ポールは不満そうに手足をバタバタさせる。
一方クロノはケヴィンがクマのぬいぐるみを頭に乗せてスキップをする姿を想像し、独り吹き出した。
「いや船長想像すんなって……」
ケヴィンは深いため息をついた。