4話 相棒
ハルラ島まではまだ2時間ほどかかるため、双子が船内を案内してくれることになった。
ケヴィンがミオを肩車し、チャドがポールを頭に乗せて移動をした。
地下には動力室と倉庫があり、1階はキッチンに食堂、それから大浴場があった。
2階は操縦室と個室が並んでおり、個室は全部で6部屋あるためミオが寝ていた部屋をそのまま使っていいとのことだった。
船の乗り降りは1階から、そして2階からは甲板へと出ることができた。
「うわぁ! ホントに海の上だ!」
ミオは甲板へと出るなり歓喜の声を漏らす。
「あはは、船だからね〜」
「おっ、船長とおっさんも居んじゃん」
甲板を見渡すとクロノとエルヴィスがそれぞれ好きな場所で自由に寛いでいた。
エルヴィスは酔って寝ているため、一同はクロノの近くへと腰を下ろした。
ミオは降ろしてもらうなり甲板の縁へと行き、手すりを掴んで海を見渡した。
『ミオ、海見るの初めてなの?』
彼女があまりにも目を爛々とさせて海を見ているので、ポールが隣へとやってきて彼女の顔を覗きこんだ。
「ううん、違うけど、船なんてほとんど乗ったことないし、それに、海見てたらホントにこれが現実なんだなって実感する。潮の香りとか、吹いてくる風とか、全部、本物なんだって感じがする」
ミオはそう言って空へと手を伸ばし、そのまま手を握った。
『そうだね、全部本物。紛れもない現実だよ』
「ねぇ、日本では私はどういう扱いになってるのかな?」
ミオがそう言った瞬間、少し離れたところでクロノが目をまんまるにして彼女を見つめていた。
「ニホン……だと……」
「何? 船長なんか言った?」
チャドが耳をクロノの方へ向けながら問いかける。
「いや、別に何もねぇ……」
クロノは冷静さを保ち、知らないフリをした。
そんなことは露知らず、ミオとポールは会話を続ける。
『ミオは召喚されて体まるごと転移してきたから、行方不明の扱いだね。転生者は魂だけの転移だから死亡扱いになるだろうけど』
「そっか……まぁ、向こうに未練なんてないんだけどね」
ミオは寂しそうに笑った。
『ミオもなかなか大変な人生を送ってきたからねぇ』
「あれ、なんで知ってるの?」
その問いに対し、ポールは自身のお腹を押さえながら答える。
『この身体の中にね、ミオが無意識に送り込んでた古い魔力、つまり“魔力痕”がたくさんあるんだ。その魔力痕から記憶を読み取ってる』
「無意識に送り込んでたんだ……ってか、ポールそんなことできるの? すごいね」
『なんか、よく分かんないけどできる。だから、ミオがこのポールをすごく大事にしててくれたことも知ってるよ。お婆ちゃんの形見だもんね』
「うん……」
『あぁ、ごめん。落ち込ませるつもりはなかったんだ。オイラは、きっと君の言う“ポール”ではないんだと思う。でも、ポールの立場でこの記憶を読み取って、温かくて嬉しくなって、君の力になりたいと、心からそう思ってる。だから、オイラは君の相棒の“ポール”で居たい……良いかな?』
ぬいぐるみは表情を変えないが、ミオにはポールが微笑みかけてくれているように感じた。
「うん、勿論だよ。ポール、ありがとう。これからもよろしくね」
『へへ、よろしく〜』
そんな二人を、ルフスレーヴェの皆が微笑ましそうに見つめていた。
「それにしても、私はこの世界で何したら良いんだろうね?」
ミオはその場に足を伸ばして座り、両足をぶらぶらと揺らしながら言った。
『それだけはオイラも分からないんだよね〜』
「召喚主は自分の命を犠牲にしてまで私を召喚しようとしてくれたのに、このまま分からないと召喚主が報われないね」
『“召喚した”んじゃなくて“召喚しようとしてくれた”んだね』
「うん……召喚主は私の命の恩人みたいなものだから」
『えっ、そうなの? オイラそれ知らないな』
ポールの無表情の顔がミオの方へと向く。
「あはは、ちょっとね。だから、できる限り望みを叶えてあげたいんだ」
『……そっかぁ、ならオイラも知ってることで役に立ちそうなことがあればすぐ教えるよ』
ポールがそう言うと同時に、クロノがミオの隣へと腰掛けた。
「まぁ、なんとなくだが、お前がこの船に落ちてきたのは、偶然じゃねぇんだろうなって思ってる」
「そうなの?」
「もしお前に何かさせたいなら、召喚主はわざわざお前を死しか待ってない海に落とすとは思えねぇ」
『確かに』
「だから、海の上に召喚されたんじゃなくて、このレーヴェ号に召喚されたんだと俺は思う。世界中を旅してるからなのか理由は分からんが、この船乗ってりゃそのうち何か見つかんだろ。だからお前は焦らず、まずはこの暮らしに慣れることから始めればいい。そんぐらい召喚主だって許してくれんだろ」
彼は言い終えるとミオの方へと視線を送る。彼女も視線が合うと、大きく頷いた。
「うん、ありがとう!」
「よぉし、じゃぁミオの役割分担どうする?」
チャドが彼らの近くへと擦り寄りながら言う。
「できることなら何でもします!」
「じゃぁさ、ミオ料理は?」
ケヴィンも同じく擦り寄ってくる。
「この世界の食材が一緒かどうかは分かんないけど、料理はずっとしてきたからできるかも」
ミオはグッと握り拳を作ってやる気を見せた。
「ん、ならコック決定」
「え、そんな簡単に?」
クロノがあっさりと決定したため、ミオはキョトンとして彼を見た。
「……俺らの料理の下手さ、舐めんなよ」
何故かドヤ顔で言い放ったクロノに続き、双子も頭を掻きながらヘラヘラと笑っていた。
「せ、精一杯頑張ります……!」
甲板に寝転んでいたエルヴィスは、上機嫌でうんうんと頷いた。