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クロニソマル  作者: 龍馬鶏
黒:追跡編
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006

「過去閲覧」をその眼に宿した茶竹は容器に入った髪の毛を暫く視たあと、すぐに玄関に視線を向けた。


「初城は二日前に出たっきり、ここに戻ってきてはいません」


 綴は少し考えた後に、茶竹に緑鬼を視るように指示する。

 茶竹は目を細めて緑鬼を視た後、リビングの中心に目を向ける。


「この緑鬼は……ここに「転移」させられていますね」


「……まじかよ」


 迷宮に対して空間魔法は行使できないというのがこれまでの通説だった。

 それを真っ向から否定する結果に、綴も茶竹もにわかに信じがたい思いだった。

 だが、同時に納得がいった。

 初城が(ハクタイテン)に目を付けられている理由に。

 初城は開発部の空間課に配属されている、言わば空間魔法のエキスパートだ。

 空間魔法で迷宮に干渉する方法を見つけたのだろう。

 それが本当なら、迷宮を管理している組合としては歓迎すべきことだ。

 だが、その技術は同時に大きな危険性もあった。


「緑鬼が転移されたのって、ここか?」


 綴がリビングの中心に立ち茶竹に尋ねる。


「ええ、そこですね」


 もう一度、綴は第六感で魔力を感知するが転移に使われた魔力は一切感じ取れなかった。

 おそらく、初城が残留する魔力を霧散させて証拠を消したのではないだろうか。

 第六感で感じ取れるのは外に出ている魔力か自身の体内で生成されている魔力のみで、他者の体内にある魔力やすでに消えた魔力などは感知できなかった。

 最初に、綴が部屋の魔力を探った時に緑鬼を見つけられなかったのはこれが理由だ。


「転移させられたのはこの緑鬼だけか?」


「いえ、ほかにもう一体います。この緑鬼が転移させられたのが六日前でその三日後にもう一体、おそらく緑鬼とは別種の擬獣が転移させられていますね」


「そいつはどこに行ったんだ?」


 部屋には、緑鬼以外の擬獣の姿は無かった。


「……初城と一緒にここを出て行っていますね」


「……まじかよ」


 残念ながら、初城は迷宮に干渉できる技術をいい方向に扱わなかったようだ。

 初城は擬獣を連れて市街へ出ている。

 緑鬼のような小型の擬獣ならともかく、神代以前の人類に大きな被害を出したような大型の擬獣が町で暴れれば民間人に多くの被害が出るだろう。

 それを食い止めるためにも、一刻も早く初城とその擬獣に追いつかなければならない。

 情報魔法で結果を出すには正確性が大事になってくる。

 髪の毛という形で初城の遺伝子(情報)を得た今、茶竹にとって初城の痕跡を辿ることなど簡単なことだった。


「初城の痕跡はまだ辿れるな」


「はい」


 初城が何故こんなことをしているのか、これから何をしようとしているのかいくつかの疑問はまだ残るが、迷宮から擬獣を転移させる技術を持っている以上追加で転移させられるよりも早く初城の身柄を確保する必要があった。


 そうするとこの緑鬼をどうするか、が直近の問題だった。

 (ハクタイテン)からの指令では、組合が把握していないと思われる資料に関しては見つけ次第、回収しなければならない。

 綴も空間魔法をそれなりに使えるためケージを転移させることが出来るのだが魔術統合組合には、空間魔法を弾く結界が敷かれているためこのケージを四〇二小隊の部屋に転移させることはできない。

 となると、送る先は限られてくる。

 弱っていたとしても生きている状態では逃した時や見つかった時に隠し通すことが困難だった。


(資料としては生かした状態のほうが好ましいが仕方がないか)


 綴はケージに入っている緑鬼に振り返った。

 魔法を実在しないものに干渉するため、魔力さえあれば行使することが出来た。

 魔術も皿を浮かす等、その場にあるものに干渉するときは魔法と同じく魔力だけが必要になる。

 だが、物質を魔術で用意する場合には魔力の他に「魔素」と呼ばれる存在が必要になる。

 魔素とは、魔力共に認知されるようになった素粒子の一種で別名「素粒子の卵」。

 素粒子の一種でありながら素粒子の卵と呼ばれる訳は、魔素の性質にあった。

 そもそもと物質いうのは、原子や分子などの粒子から構成されている。

 素粒子は、原子や分子を構成するさらに小さい中性子、陽子、電子といったこの世で最も小さい粒子のことだ。

 魔素は中性子、陽子、電子などの神代以前から発見されている素粒子と同じでありながら、どの素粒子よりも小さい。

 魔素を神代以前に、発見できなかったのはその小ささが故だった。

 そんな魔素の性質は、魔力の干渉する力によって他の素粒子へ変化することだった。

 この性質と魔力を使うことによって、魔導士は水を生み出したり、火をおこしたりすることが出来る。


 綴の魔力が活性化したのを感じ取り、緑鬼のそばにいた茶竹が黙ってその場を退いた。


 綴と緑鬼の間に、魔力と魔素が収束される。

 魔力によって魔素が中性子、陽子、電子に変化する。

 中性子が放射線を発するよりも先に、陽子と結びつき原子核を構成する。

 原子核の陽子の数に沿って電子が原子核と結びつき、それぞれが原子に生まれ変わる。

 原子の種類は魔素から生み出された陽子と電子の数によって決められる。

 今回生み出された原子は、水素と酸素。


 綴の魔術はまだ終わりではない、むしろ始まったばかりと言っていい。

 魔力を熱エネルギーに変換して水素と酸素に加えたことで、水素と酸素が化学反応を起こし水が生成された。


 生み出された拳大の水は表面張力によって球体に保たれる。

 今度は魔力を運動エネルギーに変換することで、水球は宙に浮いたまま杭状へと形を変えた。


 次の工程では、魔力はエネルギーへ変換されなかった。

 魔力をそのまま操ることで、水が持つ熱エネルギーを奪いさる。

 結果、水の杭の温度が氷点下まで下げられ凍り付く。


 もう一度、魔力を運動エネルギーに変化させて氷杭に加える。

 加えられたエネルギーによって、氷杭が冷気を巻きながら回転し始めた。


 不意に、顔を上げた緑鬼と綴の目が合った。

 綴の前に浮かぶ氷杭を見て緑鬼の目が見開かれる。

 おびえた様子の緑鬼を視ても綴の感情には一切の揺らぎがなく、冷徹に緑鬼の左の目に照準をつける。

 最後に、運動エネルギーによって氷杭が射出されたことでこの氷の魔術は完成させられた。


「氷杭」





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