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クロニソマル  作者: 龍馬鶏
黒:追跡編
3/57

003

 白神の部屋を後にした後、綴は退魔部第四〇二分隊の表札が掲げられた部屋の前まで来ていた。

 他のセキュリティーを通る時にも使った社員証を壁に取り付けられた機械にかざすと、鍵が電子音と共に開けられた。


 第四〇二小隊は綴が隊長を務める部隊である。

 魔導統合組合が神代以前の軍事組織を前身に立ち上げられたこともあって、退魔部は特に軍事組織としての側面が強く、階級制度があるとともに役割ごとに部隊分けもされている。

 退魔部の部隊は役割ごとに方面隊、工作部隊、後方支援部隊、強襲部隊の四つに分けられる。

 各隊に割り振られる三桁の部隊番号が部隊の詳細を表している。

 部隊番号の一桁目はその役目を表しており、方面隊、工作部隊、後方支援部隊、強襲部隊の順に一から四の番号が割り当てられている。

 続く下二桁はその部隊が設立された順番を示す。

「分隊」などの戦術単位は隊の規模を表している。ちなみに、魔導統合組合では「分隊」が戦術単位の中では最小単位になる。

 つまり、第四〇二分隊とは強襲部隊で二番目に創設された最小の部隊のことを指す。


 第四〇二分隊の部屋は、最小の部隊にふさわしくこじんまりとしていた。

 綴の机の他に、綴のものではない机が一つだけ置かれていた。

 自身の机から薄型のタブレット端末を手にした綴は、白神から渡されたメモリーカードを端末に接続させた。

 メモリーカード内のフォルダに唯一入れられていた『指令』と分かりやす過ぎる名前が付けられたファイルを開いた。

 ファイルの中には神様からの指令が簡潔に書かれていた。


『第四〇二分隊単独で現在逃亡中の初城一二三を速やかに確保すること。

 本任務では、外部への情報の流出を極力避けること。また、任務中に発見された資料に関しては全て回収すること。回収が不可能なものに関しては記録したのち現物を抹消すること』


 指令の他には件の男、初城一二三に関する資料が添付されていた。

 気になる点はあった。

 この男を確保しなければならない理由がどこにも明記されていないことだ。資料にも、それといった情報が一切書かれていなかった。


(どういうことだ?)


 綴が考えをまとめている途中で、外から部屋の鍵が開けられた音がした。


「特等、おはようございます」


 部屋に入って来たのは、綴よりも少し年上の男性組員だった。


「おはよう、茶竹」


 部屋に入って来たのは今朝、綴に召集の件を伝えた茶竹飛鳥だった。

 茶竹は長身の綴よりも背が高く、退魔部みたいな武闘派よりもインテリ系の方が似合う男性だった。

 茶竹が掛けている薄く色付いたレンズの眼鏡もインテリ系を醸し出す一助となっていた。

 兎にも角にも、これで第四〇二分隊は全員揃ったことになる。

 そう、何を隠そう第四〇二分隊には綴と茶竹の二人しかいない。最小単位である「分隊」に恥じない最小構成だ。


「今日はいつにもまして早いな。始業までまだ時間があるけど?」


 綴が言う通り、本来の出勤時間にはまだ三十分ほど早かった。


「特等が白神統括に呼ばれていましたので、急いで来ました」


 茶竹は気の利く部下だった。


「正直、かなり助かる」


 素直に感謝を述べる綴は、先ほどまで見ていたタブレットを茶竹に差し出した。

 差し出されたタブレットに指令と書かれているのを目ざとく見つけた茶竹はタブレットを受け取り、資料に目を走らせる。

 やがて、隅々まで目を通したのであろう茶竹は落としていた視線を上げて疑問を口にした。


「二点、気になったことがあります」


 どうぞ、と。綴は続きを促す。


「一つが、この初城一二三という男が追われることになったか。何故か一番大事なことがどこにも書かれていない」


「それは俺も気づいた、正直そこに書かれていないとなるとお手上げだな」


「そうですね、最近のニュースにもそれと関連しそうなことは特にありませんでしたし、お手上げですね」


「それで二つ目は?」


「二つ目は、何故この件がうちに回って来たかです」


 何故今回の任務が第四〇二分隊に任された、か。

 そもそも第四〇二分隊は、魔導が持つ奇襲性と鎮圧性を生かした小範囲での戦闘を想定して設立された強襲部隊だ。

 本来であれば、こういった逃亡者の確保などは工作部隊が担当するのがほとんどで強襲部隊に回ってくるはずは無いのだが、綴には一つだけ心当たりがあった。


「それは、お前が元工作部隊の所属だったからじゃないのか?」


「それでしたら、現役の工作部隊に頼めば済むことです。私は、どちらかと言うと特等の方が必要になると予想しますけど」


 綴が茶竹よりも優れている点で真っ先に思いつくのは、戦闘能力だった。

 茶竹の階級は三等中級。

 対して、綴の階級は特等。この国で最も実力があるとされる者に与えられる階級だ。

 茶竹の階級も、茶竹の年代にしては高い方だと言える。だが、今回は相手が悪かった。


「荒事になると?」


 戦闘能力が必要になる状況なんて荒事以外、綴には思いつかなかった。


「ええ、その通りです」


 戦力が必要な状況に良い予感がしない綴が、心底嫌そうな顔を茶竹に向ける。


「そんな顔しないでください、私だっていやなんですよ。ただ、覚悟はしておくべきでしょう?」


「分かったよ。それで、どこから調査を始めるたらいいと思う?」


「自宅の捜査から始めるべきですね」


「了ー解」

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