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誰もかれも袖の中に何か秘密を隠してる(2)

半透明の姫君の霊魂が、そのスナギツネ面に大いに眉根を寄せ、「うーん」と言わんばかりの思案顔になった。


『……とすると……オーラン少年には妹が居るって聞いてるけど……妹さんも、ひと房の銀髪、持ち?』


「確かに、オーラン君には妹が居ます。《鳥使い姫》お察しのとおり、子孫の特徴として彼女も、ひと房の銀髪を持ちます。――オーラン君は、随分とペラペラ喋ったようですね。族滅の任務を帯びた刺客アサシンに狙われる立場ゆえ、覆面ターバンで身元を隠す必要があるのですが」


『あ、成る程……そういう事なら、詳しくは聞かないわ。でも、大丈夫なの? 護衛が必要では?』


「袖の中に秘密を隠したままで良いとのこと、ご配慮いただきまして」


鷹匠ユーサーが、丁重に一礼した。


「ですが、オーラン君は、平均以上に上手に、各種の刀剣を使います。セルヴィン殿下の護衛も務められる程度には、オローグ君と私とで仕込みましたので。オローグ君は白鷹騎士団の正式な団員ではありませんが、訓練所の卒業生の一人です。帝都の各種の騎士団が、副業として、諸国の城砦カスバから上京して来た子弟の訓練をおこなっていることは、ご存知ですね?」


人体《鳥使い姫》幽霊のスナギツネ顔が、優雅な所作で、あごに軽く片手を当てた。定番の思案ポーズ。


『何となく……私は女子だったから、訓練の話が来なかったのかしら? 免許皆伝とか、それに近い卒業資格を取れば、帝国軍の特殊部隊にも上位資格で入れるし。くわえて隊商キャラバン傭兵としての武者修行の成果しだいでは、諸国の城砦カスバの軍隊の上のほうとか、たとえば親衛隊への就職にも困らないわね』


ポツポツと《精霊語》で語られる《鳥使い姫》の談話は、適宜、鷹匠ユーサーによって、護衛オローグ青年とセルヴィン皇子へ翻訳されてゆく。


『諸国の城砦カスバの、御曹司とかの親衛隊の給料って、かなり相場が高いほうなの。お仕着せの制服の支給もあったりするし。金欠の城砦カスバだと、人件費を抑えるために、流れの傭兵からつのるのがほとんど……あ、脱税と不正蓄財をしておいて、証拠隠滅にいそしんでるような、カネにキタナイ類の城砦カスバも、そうね』


セルヴィン皇子は、興味津々で耳を傾けていた。護衛オローグ青年のほうは、多少は事情に通じるところもあるようで、訳知り顔で穏やかな苦笑をたたえている。


地方・辺境の中小の城砦カスバで展開している、微妙に小金持ちなギラギラした層の猟官活動などの裏話の類は、帝都の上層部へはあまり上がって来ない類だというのは、よく分かる。一獲千金を狙うならず者、一発逆転を狙う没落諸侯、成り上がりを志す弱小諸侯、……胡乱な人々が大勢ひしめく一種の熱い領域ではあるけれど。


やがて、人体《鳥使い姫》幽霊は、眉根をキュッと寄せて腕を組んだ。


ひとつの代表的な事例として、御曹司トルジンのことを思い出したのだ。


――あの生贄の黄金祭壇の場で、憎むべき従兄あにたるシュクラ王太子ユージドと、罰当たりなハーレム夫たる御曹司トルジンが、長年の知り合いのように並んでいたのは不思議だったのだ。


こうして落ち着いて、帝都の各種の騎士団における「上京して来た子弟の訓練」という副業ビジネスの話を聞かなければ、そうした不思議な人脈ができる状況を推察できなかった。


特定の、同じ騎士団で、子弟として訓練を受ける機会があったということで、合理的に説明できる。


その間に、従兄あにユージドが、御曹司トルジンに、ひいてはトルーラン将軍にも……命乞いか何か、とにかく「生かしておいたほうが得」というような、《邪霊使い》ならではの策略や賄賂を仕掛けたであろうことも。


アルジーには、騎士団の訓練生としての剣の腕前は無いが、シュクラ第一王女としての国家祭祀の剣舞は、恩師オババ殿の指導のもと相当に極めた。その方面からの見立てになるが、御曹司トルジンと、《邪霊使い》と化した従兄あにユージドとで、剣筋の展開は確かに同類だったと思う。


御曹司トルジンは、一応は「雷霆刀」を持つ。部族交流の宴会で披露する「英雄の剣舞」もこなす。その筋の帝都の騎士団、それも「雷霆刀」の名門の卒業生なのは分かる。でも即戦力では無い。骸骨アリージュ姫の回し蹴りで、倒せたくらいだ。ちょっとした街歩きにも、いつもベタ褒めやらゴマすりやらを兼ねる親衛隊を、ゾロゾロ引き連れていた。


実戦からっきしな御曹司トルジンに比べると、《骸骨剣士》に対応できた従兄あにユージドのほうは、物理的戦闘力も備えた《邪霊使い》として活動するという目的があったのだろう、真面目に訓練していた様子。いまの帝国を殲滅して、純正シュクラ帝国とする、などと語っていたし。


――御曹司トルジンの「実戦からっきし」腕前で、「雷霆刀」免許皆伝の名誉を獲得したのは、事実。


――元・王侯のひとりであるシュクラ王太子にして《邪霊使い》ユージドが、トルジンを上回る剣の腕前を持ちながらも、「雷霆刀」免許皆伝の名誉を獲得していないのも、事実。


同じ「雷霆刀」の名門の騎士団で訓練したであろうに、その格差の理由は……


――10年以上にわたって、御曹司トルジンを標準として注意深く見聞きして来ただけに、アルジーの不信の念は根深いものがある。


人体《鳥使い姫》幽霊の口パク――白文鳥アルジーの《精霊語》語りが再開した。


『帝都の騎士団の、子弟向けの訓練や免許皆伝の試験は、多額の寄付金……賄賂でパスできるよね? 案外、《邪霊使い》工作員も潜入してる筈。狙い目の、名門の騎士団リスト……部族交流の宴会でやり取りされてたから、こっちでは』


鷹匠ユーサーが慎重に翻訳してゆく。


この辺りの、エグイとも言える裏話は、鷹匠ユーサーや護衛オローグ青年、セルヴィン皇子にとっては耳新しい内容であったようだ。戸惑った表情。


『白鷹騎士団の訓練所の卒業生の一人としての、オローグさんの腕前どれくらいですの? 隊商キャラバン傭兵の報酬を決める、対《骸骨剣士》指数ランクで?』


翻訳してもらっていたセルヴィン皇子が、不思議そうな顔になった。


「そういう判定基準があるの?」


『普通よ? 表では免許皆伝とかの成績詐称の書類、実際に取引するのは裏の、対《骸骨剣士》指数ランク。そして差額を、ごっそり懐に入れる。やり方次第では、一ヶ月で帝国通貨の最高額の大判10枚くらいは、かたく脱税……』


「いま、穏やかならぬ巨額犯罪を、教唆された気がしますが。裏街道の曖昧なほのめかし程度で、詳細な手口までは知られていませんでしたが……」


「クムラン殿と情報共有しておきます、ユーサー殿。もしかしたら、クムラン殿の抱えている問題が解決するかも知れません。この手口は盲点でした。騎士団の訓練所の免状を、こういう風に悪用されるのは想定外ですし、そこまで大金になるとは……」


鷹匠ユーサーが翻訳しつつ、呆れかえっていた。


概要をつかんだ護衛オローグ青年も衝撃が大きかったのか、少しの間「頭痛が痛い」という風に、こめかみを揉んでいたのだった。


少しばかりの違和感。


白文鳥アルジーは首を傾げた。合わせて、人体《鳥使い姫》幽霊も、首を傾げていた。


(ジャヌーブ砦では知られてなかった手口って事かしら。東帝城砦では普及しまくっている手口で、トルーラン将軍と御曹司トルジンの、巨額脱税ビジネスの目玉でもあるけど)


やがて護衛オローグ青年が、あれこれと思案顔をしながら、アルジーの疑問へ対応し始めた。


「対《骸骨剣士》指数ランク……定義としては、街角に沸いた《骸骨剣士》をどれくらい倒せるか、一刻のうちに、で良いですか?」


『うん、そう。中堅の隊商キャラバン傭兵に求められる戦闘力が《骸骨剣士》20体の討伐。それ以下は、見習いランク。30体の討伐までは、雇用主のフトコロ具合によって報酬に差があるけど。《骸骨剣士》50体超を半刻のうちに倒せるなら、特急の隊商キャラバンで取り合いになる人材ね。砂嵐で出る大型の邪霊害獣に対応できる戦闘力だから』


翻訳を挟み。


セルヴィン皇子が「厳しい要求だな」と、なかば呆れ顔になっていた。


鷹匠ユーサーと護衛オローグ青年は、「民間の隊商キャラバンなどでも独自に戦闘力を判定するのか」、「意外なくらい現実的に使える戦闘力区分で興味深い」……と感心している風である。


「その判定基準でいうと、オーラン君の戦闘力は相当に上位まで行きますね。セルヴィン殿下が生贄《魔導陣》作用により多数の《骸骨剣士》に囲まれ、オーラン君が囲みを破って脱出路を開きましたが、《骸骨剣士》30体は間違いなく調伏しましたから。半刻のうちに」


――それって。


少年兵のクセして、あの元・衛兵の二日酔い中年ワリドより、はるかに強いってことよね!? オーラン少年を仕込んだというオローグ青年も……


アルジーは仰天するばかりだ。

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