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ひと回りして来た因縁が、回転扉で回転す(2)

クバル青年は素早く周囲を見回し、即座に、適当に奥まっていて適当に通りを見渡すのに最適な店舗を見い出した。


「此処に隠れるっすよ!」


その入り口扉に、急接近する。


アルジーの目に入ったのは、不思議なくらいに見事な扉レリーフ装飾だ。


聖火神殿の入口扉でお馴染みの、白金色の聖火を模したかのような……


そのレリーフの一部分に、アンティーク鍵を差し込んで固めたかのような突出した造形があった。その場所に、クバル青年が手を掛けた瞬間……


突起が、ほんとうにアンティーク鍵でもあったかのように、グルリと回った!


あたかも鍵が開いたかのような、「ガチャン」という音が響く。


それに続く、どんでん返しの動き!


……その入り口扉は、何故か、回転扉になっていたのだった……!


回転した戸板に、クバル青年とアルジーは捕まった。目の前の空間に、不思議な白金の光があふれた。


戸板の回転に押されて、「ぐいーん」と、店の中へと刷き込まれる。


勢いで、グルンと上下に一回転した後、クバル青年とアルジーは一緒に床に転がった。


アルジーのターバンの隙間に挟まっていた白文鳥《精霊鳥》アリージュが、さすがにツブされる危険を感じたのか、シュバッと抜け出した。その先へ、ポンポンと転がってゆく。まだ地肌が見えるものの、だいぶ羽毛が再生していて、より白文鳥らしく見える……


白文鳥パルが「ぴぴぃ」と鳴きながら後を追いかけていった。


「アイテテ……!?」


次の瞬間、目の前に、店の看板猫と思しき大きな『火吹きネコマタ』が出て来た。驚いたように2本の尾をピッと立て、そこから「ボボン!」を火を吹く。


「火が、火事が危ないっすよ!」


ギョッとしたクバル青年が、アルジーを庇う格好になって、横へゴロンと転がる。


火吹きネコマタは、まだ仰天顔をしたまま、《精霊語》で語りかけて来た。


『おふたりさん精霊でも無いのに、よく精霊と同じ《魔法の鍵》を回して入って来れたニャネ。もしかして、どこかの精霊の《魔法の鍵》継承者かニャ。ココ「精霊雑貨よろず買取屋」ニャ。おふたりさんが通って来たのは、精霊の使う「別次元の扉」のほうニャ』


――『精霊雑貨よろず買取屋』。


見回してみると、確かに、不思議な品々でいっぱいだ。


退魔紋様が施された様々な雑貨や装飾品。定番の武器、魔除けの仕掛けがされてある中古の三日月刀シャムシール


亀の甲羅――螺鈿細工のように虹色に光っていて、《精霊亀》の脱皮から得られた品だろうと思われる。


同じく近くに保管されている、オパール石のカタマリのようにキラキラしている象牙も、《精霊象》の物に違いない。


堂々たるサイズの、中古の魔除け用ドリームキャッチャーが、相当数。


医学用の骨格標本の数々……


――なんだか、あの2年前の親切な老店主が居た『精霊雑貨よろず買取屋』の、あの雰囲気に似ている。それに、この隠れ場所みたいな光景、見覚えがあるような気がする。


しばし、ポカンとするアルジーであった。


転がって行った先の、細々とした雑貨の間から、2羽の白文鳥パルとアリージュが顔を出した。口々に「ぴぴっ」と、さえずる……


結果から言うと。


赤毛スタッフ青年クバルの選択は、最善なのか最悪なのか、よく分からない選択であった。


ほどなくして、『よろず買取屋』店入り口が、ドンドンと叩かれた。


攻撃的な空気をまとった中年男ワリドの、アルコールで濁った声が響く。


「老いぼれ店主! 居るか! 居るだろう、前に質入れした三日月刀シャムシールがあっただろう、カネが入ったんだ買い戻すから店を開けろ!」


クバル青年が「うげ」と呟く。


「よりによって、この店を訪れる予定だったんすか」


「そんな」


火吹きネコマタが2本の尻尾を素早く振り回し、紗幕カーテンで仕切られた、店の奥の隠れ場所を示した。


『そこに隠れるニャ、おふたりさん』


素早く承知し、アルジーとクバル青年は、ササッと陰に隠れる。


そうしている間にも、大きな火吹きネコマタは、2本の尻尾の先の火を「ボボン!」と燃え上がらせた。


すると、骨格標本のひとつがカシャンと動き、ポンと煙を噴いた。煙が収まると、そこには、話題の「老いぼれ店主」とかいう人物の孫と思しき『9歳ほどの少年』の姿があった。


火吹きネコマタと、非現実の9歳ほどの少年が仲良く歩調を合わせ、入り口扉へと近づいてゆく。


多種多様な雑貨の隙間で、白文鳥《精霊鳥》の相棒パルとアリージュが、ピョコピョコと動いた。


『火吹きちゃん、《カラクリ人形魔法》すごく上手ピッ』


『見た目、本物の人類に見えるピッ。勉強になるピッ』


非現実の9歳ほどの少年が、入り口扉のかんぬきを外した瞬間。


バタンと音を立てて、乱暴に扉が開く……仰天する手品のような回転仕掛けの扉では無く、どこでも見かける店の扉スタイルで。


中年男ワリドは、猫と9歳ほどの少年の出現に飛び上がって、たたらを踏んでいた。二日酔いのアルコール臭が店内に広がる。


「なんじゃこりゃあ、このガキ……店の主人は何処だ!」


非現実の少年カラクリ人形が喋り出した。火吹きネコマタの腹話術だ。


「おっさん、残念だけど店の主人は居ないよ。情報料……じゃなくって、質入れしてたとか言う三日月刀シャムシール、何に使うの?」


「オレの無実が証明されて釈放となった記念の夜だってのに、それをブチ壊しにしやがった、鼻持ちならねぇアイツをブッ殺すんだ。細切れになるまでに、そうとも、ギタギタにしてやる!」


「アイツって?」


「西の商館の賭場で、ボヤ騒ぎを起こした上に、オレの儲けを横から取って行きやがった、大魔導士ザドフィクを気取ってる金目鯛キンメダイイカレポンチ野郎だ。本人じゃねぇのに本人を気取りやがって炎上バカをやりやがって、……次の穴場も急に店をたたんで逃げ出しやがって、臆病者めが、ごら、三日月刀シャムシールサッサと出せ!」


「買い戻しのカネは?」


バシッと音を立てて、革袋が床へと叩きつけられる。硬貨が散らばった。


「毎度、おっさん、三日月刀シャムシールは、そこの物干し竿と一緒のとこだよ」


「神聖な三日月刀シャムシールを、女子供の使う物干し竿なんかと一緒にするな、ごら! 貰ってくぞ、あとで料金不足だからと言っても追加請求するんじゃねぇと、ヒゲ面の老いぼれ店主に言っとけ!」


荒々しく店を出て行く中年男ワリドのブーツの音。


「なに見てんだ、こいつら……ええい、ぶった切るぞ、あっち行け!」


複数の野次馬たちの驚いた声の群れが次々にやって来る。店頭に集まって来て、興味津々で騒動を見聞きしていたのだろう。それに混ざって、ギュネシア奥さんの「キャッ」という声も上がっていた。


「ごるぁ、目にモノ見やがれ、《骸骨剣士》ゴロツキ野郎!」


開かれたままの入り口扉の向こう側では。


ゴロツキ邪霊《骸骨剣士》2体が、物陰から出現していたのだった。空気を読まない通り魔さながらに。


中年男ワリドが驚くほど俊敏な動きで、手に入れたばかりの、退魔紋様セット三日月刀シャムシールを振るっている。


ガチン、ガチャン、という剣闘の音が続いた。


中年男ワリドは手練れの剣士だった……すぐに、ゴロツキ邪霊《骸骨剣士》2体の「グゴッ、ザーッ」という『退魔調伏』独特の断末魔の声が上がる。


ドカドカと歩み去ってゆく足音。野次馬たちのさざめきの声がつづく。


「なんだか、すごかったな」


「確か、あのワリドっていう中年男、もと衛兵だったで。事業仕分けに次ぐ事業仕分けで人員削減の憂き目を食らって、腹いせに役人を殴って、クビになって放逐される前は」


「あんなに荒れてて、誰を斬りに行くってんだ?」


「怪奇趣味の賭場に居た、ナンチャッテ火吹き魔導士ザドフィクだとよ」


「宮廷の偉大なる魔導大臣ザドフィク猊下が、場末の賭場まで来るはず無いだろ。誰かがザドフィク猊下をかたってんだよ」


「それに違いないねぇ」


やがて。


人々が立ち去って行ったらしく、表側は静かになって行った。


店の入り口扉が、パタリと閉まる。


元・9歳ほどの少年に見えていた医学用の骨格標本がギクシャクと歩き、品物がワチャワチャと置いてある中の台座に、カシャンと収まった。


白文鳥《精霊鳥》パルとアリージュは、多種多様な精霊雑貨の間に良さげな止まり木を見付けて……相次いで腰を落ち着けていた。護符の機能を持つ《火の精霊》ランプを複数、吊るしておくための、樹木の意匠をしたランプスタンド。まさに止まり木だ。


そして、白文鳥《精霊鳥》パルとアリージュが、ピピピ、チチチ……と、さえずり出す。


「もう大丈夫そうだね……?」


アルジーは、仕切りとなっていた更紗の紗幕カーテンから顔を突き出し、キョロキョロし始めた。次いでクバル青年が、顔を突き出した。


大きな火吹きネコマタが、胡散臭そうな眼差しをして、そんなふたりを振り返って来た。


金色をしたネコ目をスーッと細めて、見上げている……ぐらつくアルジーの身体を支えていた、赤毛スタッフ青年クバルを。


『君の正体、そこに居る《地の精霊》が保証してるから言わニャイが、つくづく食えない人間ニャネ。そうやって《銀月》の身体に一部でも接触していれば、我ら精霊の言葉が聞き取れるのを知ってるニャネ』


キョトンとしながら、クバル青年と火吹きネコマタを交互に見やる、アルジーであった。


『クバルさんの正体って?』


火吹きネコマタが2本の尻尾を立てて、アルジーの周りをクルリと一巡し……更に言葉を継ぐ。


『銀月の。その身体全身に《銀月の祝福》が満ちわたってるニャ。必要があったとはいえ、此処まで満ちわたるのは珍しい事例ニャ……高性能の《精霊語》翻訳器ってとこだニャ』


アルジーは火吹きネコマタを見つめた後、そっと赤毛スタッフ青年クバルへと視線をやった。


……バツの悪そうな顔をしている。


火吹きネコマタは、改めて赤毛スタッフ青年クバルに向き直り、2本の尻尾をピッと立てる。そのネコマタ尻尾の先で、物理的な火が意味深に揺れていた。


『……クバル君とやら、「大魔導士ザドフィクを気取ってる金目鯛キンメダイイカレポンチ野郎」って男、知ってるかにゃ?』


「何で、オレに聞くっすかね」


『トボけるでニャイ、自称クバル君とやら』


――何だか、漫才みたいだな。


金融商オッサンの店の新人スタッフ――赤毛青年クバルは、思いのほか、《火の精霊》との気の置けないやり取りに慣れているようだ。少年兵として南部《人食鬼グール》戦線に派遣されていたと聞くが、その時に、これ程になるまでに、経験を積んだのだろうか?


アルジーは少しの間、首をかしげた……

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