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真相の遭遇 決戦の中庭(5)昼

いつしか、時刻は正午近く……白文鳥《精霊鳥》の身体が、復活していた。


――機動的に動ける白文鳥の身体へ、そろそろ憑依しようかと、思いつき。


カラクリ人形アルジーは、老魔導士の作業部屋を訪れた。


足元を、ちっちゃな火吹きネコマタが、チョロチョロと付いて来ている。


間仕切りとなっている紗幕カーテンをくぐると、作業机がデンと置いてあった。不思議な錬金術用の道具や製薬用の道具が、相変わらず、良く分からない順番で並べてある。


作業机の下に、黒い棺桶さながらの収納箱。老魔導士が《魔導》カラクリ人形を保管するため、黒ダイヤモンドの魔法の鍵を使って施錠管理していたものだ。


作業部屋の別の一角には、仮眠用の簡素な寝台が配置されてあった。少し離れたところに急患用の寝台。窓際のほうに、段差を利用したソファ。


最初に、意識が無いまま此処に運び込まれて。白文鳥の中に入ったまま目覚めた昼日中にも、見ていた光景――


――アルジーの中で、パッと記憶がよみがえった。


ラーザム財務官が殺害された夜。


その夜のうちに不正召喚されていた中型《人食鬼グール》。


その中型《人食鬼グール》に捕食されかけ、瀕死の重傷を負ったオーラン少年が、あの急患用の寝台に横たわっていたのだ。包帯巻き巻きの全身で……


アルジーの記憶は、さらに巻き戻った。


――最初の夜、最初に、何があったんだっけ?


空飛ぶ魔法の白い絨毯《鳥舟アルカ》で、現場へ突っ込んで……


いや、ラーザム財務官の居た、あの角部屋へ突っ込んだ後のことだ。何かを見た……見た筈だ。


いつしか、カラクリ人形アルジーは無我夢中で、グルグル歩き回りながら、人工銀髪をかき回していた。ターバンは既に外れて、落ちてしまっている。


考えをまとめるため、高速《精霊語》がポンポン飛び出した。


火吹きネコマタが、ギョッと目を見開きつつ、アルジーと一緒にクルクル走り回っている。


――あの石落としの仕掛けは、時間差では発動できない。


堅牢すぎる黒ダイヤモンド《魔法の鍵》。その場に開錠者が居ないとダメ。《三ツ首サソリ》熱毒で、不正に、こじ開けるにしても。そもそも邪霊の類は、なかなか言う事を聞かない。気まぐれな怠け者よりも、もっと性質が悪い。目的を達するまで、けしかけないと。


石崩れが起きた瞬間、ラーザム殺害犯は……間違いなく、そこに居た。


死亡現場には、もうひとつ、奇妙な点があった。あの高位《地の精霊》の気配だ。


黒髪クバル青年の姿を投影して来た《地の精霊》だ! 相棒の白文鳥パルが、そう言って説明して来たから、確かだ。


――厳重に潜伏しなきゃいけない状況だったけど、適合する薔薇輝石ロードナイトとの守護精霊の契約が「雷のジン=ラエド」込み込みで一挙に成立したから、急いで特別に、色々スッ飛ばして。精霊界の制約があって、こんな形式しか無かったけど――


あの《地の精霊》と初めて話し合った時は、ほかに重大な情報が色々あり過ぎて、それどころじゃ無かったけど。


厳しい時間制限や制約条件の中で、精霊たちは、可能な限りヒントを織り込んで伝えて来ている。いつも、そうだ。人類の側が、ニブくて、気付きにくいだけで。


――アリージュは、ほぼほぼ《銀月の精霊》ゆえ人類の例外ニャ――


アルジー=アリージュ姫の不自然な在り方が、予期せぬ歪みを引き起こす前に――精霊の異次元空間が歪んで、深刻な『引き寄せ』が起きる前に――この違和感の正体を、早く突き止めないと。


ラーザム死亡現場は、どうなっていた?


城壁の側には、間違いなく真犯人が居た。《三ツ首サソリ》熱毒を使って開錠して、すぐに安全なポイントへ退避していた真犯人が。


石崩れの現場には、もうひとつ、出入口があったのだ。知っている。明るくなった時に……雨降りの朝に……もう一度、現場を見ていたのだから。


城壁のほうじゃない――あの事件現場で、相棒の白文鳥パルとも話した。


近くにあった――控え壁のひとつ。いきなり段差が開けていて、下の階層へ移動するための階段が設置されていた。


――この微細な精霊魔法の発生源は、この控え壁のあたり。それで、この控え壁が大きく壊れなかったんだ。向こうで石落としの仕掛けを動かした容疑者が居たけど、この控え壁にも「別の誰か」が居た――


――「別の誰か」を守るために、精霊の守護の力でもって、流れ弾……流れ石を弾く羽目になった感じ――


――控え壁に居た、「別の誰か」に、この《地の精霊》がくっついていた。そして恐らく、その「別の誰か」は、此処から別の階層へ移動して、行方をくらませた――


控え壁。


下の階層へ向かう階段。


幾つかの通路へとつながってゆく踊り場空間が、あった。


……もっと突っ込んで考えてみれば、分かった筈だ!


あの《人食鬼グール》対応の石崩れ……その突出した威力を、想定してもいなかった逆方向から、ブチ当てられた控え壁が、原形を保持していられる筈が無いのだ!


高位《地の精霊》が、控え壁が壊れないように、精霊魔法を発動して、防護していたのだ!


そのようにして守護した「別の誰か」……すなわち目撃者が居たのだ!


目撃者は、控え壁の位置に配置されていた、下の階層へ向かう階段を通って、姿をくらました……!


……いまや高速で、アルジーは、現場で起きた事象の移り変わりを、シミュレーションしていた……


あの夜――殺害犯は、不自然な事実に気付いた筈だ。


石崩れを食らった筈の控え壁が、ラーザム死亡現場の部屋の窓枠のように、メチャクチャに壊れなかった――という不自然な事実に。


控え壁から誰か――目撃者の人影が走り出て、そこにあった出入口へと駆けこんだ。目撃されていた!


誰なのか? 個人を特定できるような特徴はあったのか? 人相を見たのか?


月の無い闇の中、個人を特定できるような特徴は限られるだろう。


声? 三日月刀シャムシールや、護身用の短剣の、特徴? お馴染みの護符《精霊石》や、護符チェーン?


高位《地の精霊》が、わざわざ守護する人間なんて、とても数少ない……


――居た!


かねてから《地の精霊》が祝福していた、薔薇輝石ロードナイトの目を持つ人物が! ……漆黒の目だ! それに、祝福されての地獄耳。鬼耳族なみの……!


なんてことだ。


目撃者は、オーラン少年だ!


昨日、適合する薔薇輝石ロードナイトと守護契約を成立させたばかりだ、と《地の精霊》本人が――いや、本「精霊」が――言っていた!


蒸した空気の漂う闇の中だった。ターバンだって、ゆるく巻いていた筈だ。蒸れるのだから。


――もちろんオーラン君は、銀髪を持っております。例の酒姫サーキイの見事な総・銀髪という風では無く、ひと房、という形ですが――


たった一瞬であっても、酒姫サーキイが目を付けるような銀髪は、目立つ。アルジーが昨夜、経験したように。


帝国皇帝シャーハンシャーだって、大宴会場の、あの《骸骨剣士》と群衆が押し合いへし合いしていた大混乱のさなか、一瞬で、酒姫サーキイの銀髪を特定できた。幻影のかかった人工銀髪だったけど。


オーラン少年は、具合の悪いセルヴィン皇子のために、あちこちの大型《黒ダイヤモンド》錠前を探っていた。あの夜も、大型《黒ダイヤモンド》錠前にしか捕まらないような、大物の「赤毛玉ケサランパサラン」を探し回っていた筈だ。


あの夜、オーラン少年は偶然、ラーザムの居た角部屋の近くを通ったのだろう。


そして……目撃した!


殺害犯は、さぞ焦っただろう。セルヴィン皇子の従者・護衛を務める少年兵。時には影武者。護衛オローグ青年と鷹匠ユーサーの仕込みもあって、大人とも相当やり合える腕前。


あの大宴会場でも、オーラン少年は手持ちの投げナイフ、いや、手裏剣を投げて……《骸骨剣士》3体、いっぺんに退魔調伏しおおせていたのだ。


いまや、ラーザム死亡現場の、不自然だった箇所の謎は――解けた。


残りの謎は、ラーザム殺害事件につづいて起きていた……あまりにもタイミングが合致しすぎる《人食鬼グール》襲撃だ。


――あの夜、中型《人食鬼グール》も不正に召喚されていた。その目的は?


その目的は……事件を起こした石崩れの仕掛けが設置されていた城壁そのものの、大規模な破壊だったに違いない。不正な手段でもって、黒ダイヤモンド鍵がこじ開けられた、という痕跡が存在していたのだから……!


爆発的な破壊力としては、土木工事用のジン=イフリート《魔導札》だって同じだけの威力を見込めるけれど。《人食鬼グール》のほうが自然。誰も、人類の中に、城壁を破壊した犯人が居るとは思わない。


実際、少しの間、無関係な人々――新しく訪れた市場バザール商人たちの間でも情報が錯綜して、石崩れにやられたか、《人食鬼グール》にやられたか、というような混同が起きていたし。


――《人食鬼グール》に破壊されたと見せかけての、大々的な証拠隠滅。だから、《三ツ首サソリ》と一緒に、セットされていたのだ。


老魔導士フィーヴァーが「タチの悪いイタズラ程度のバレバレのチャチな手口」と評していた。《三ツ首サソリ》熱毒を使って不正に黒ダイヤモンド錠前を破った――という証拠を、残しておくつもりは無かったのだ。


大宴会場で取次業者ディロンが即座に気付いたように、指摘したように、それは、ラーザム財務官が持っていた書類に使われていた仮名――取引相手《三ツ首サソリ》に直結する証拠にして……或る程度、特定できる要素だったのだから。


あんな大きな《三ツ首サソリ》を好んで飼育する一般人は、すごく少ない筈。酒姫サーキイのほかに誰が飼育していたのかは分からないけど、調査のツテがあれば、すぐに割り出せると思う。


――《人食鬼グール》を使った証拠隠滅――


殺害犯の目論見は、結局、うまく行かなかった。その筈だ。


その時、高位《地の精霊》は、まだオーラン少年との守護契約を成立させておらず、浮遊していたのだから。厳重に潜伏しなければならない状況だったのだから。


不正召喚《人食鬼グール》は、想定どおりに動かず……浮遊《地の精霊》の祝福を得ようとして、狂暴化したのだ! オーラン少年と《地の精霊》へ向かって、方向転換して、襲撃した!


ラーザム財務官の死亡現場は、ほぼ保存されてしまった。


現場に大量に散乱した石をどけて、『石落とし』攻撃の発生源を再調査すれば、すぐに本当の手口がバレる。


でも、現場の不自然な点に気付かれるまでには、まだ時間がある。《三ツ首サソリ》の名前が浮上する前に、《三ツ首サソリ》候補者を増やしてごまかすとか、色々、考えることはできる。


ひとまず可及的速やかに、目撃者――オーラン少年を始末だ。口封じ。


アルジーだって、同じ状況に追い込まれたら、そうすると思う。


「そう、時間が無いわよ! だって、重傷で寝込んでるオーラン君と間違われて、セルヴィン君が襲撃されたばかりで! 私が、カムザング皇子を、とっちめていた間に! 真犯人は今度こそ確実に、オーラン君を殺そうとする……!」


『オーラン少年は、ラーザム殺害犯を知ってたのニャネ。何故、知ってて沈黙していたのかまでは、分からぬが』


ちっちゃな火吹きネコマタが2本の尾を振り回しつつ、アルジーの切迫の呟きに応えていた。


「オーラン君を引きずり出して、砦で一番高い屋根のてっぺんにはりつけにしてでも、問い詰めてやるわよ。何処に居るのよ、あのバカ坊主は!?」


『一応、セルヴィンの近くに出没する筈だニャ。セルヴィンの危機の時には、必ず駆け付けるニャ』


アルジーの中で、ひとつの可能性が閃いた。


「ふーん、セルヴィン君の危機ね。金融商ホジジンの謎の刺客アサシン工作……皇帝の脂ぎってるのに比べれば、帝都の金融商ホジジンは同じ贅肉ぜいにくまみれでも、まだ耐えられるほうだわ。娼館で見た遊女たちの手練手管、あらんかぎり仕掛けてやろうじゃないの」


『ぜぜぜ全力で誘惑するのかニャ? や、やめれ、マジで、金融商ホジジンと酒姫サーキイアルジュナの異常な行動の再調査が、まだ途中……』


カラクリ人形アルジーは、床に落ちていたターバンを拾って、元どおり素早く、頭部に巻き付け……覆面ターバン型にした。


そして、戦いに赴く戦士ならではの足取りで、部屋を飛び出して行ったのだった。

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