友人からの恋愛相談がとんでもない内容だった
最近、友人のRがつれない。放課後も彼女はすぐに帰ってしまう。
もしかして、彼氏でもできたのだろうか。
隣の席に視線を向けるが、Rがくあああと口を大きく広げてあくびをしているところであった。
その表情に付き合ったばかりの初々しさや色気は感じられない。授業中も居眠りを我慢する顔はひどいものであった。
「ずいぶんと眠そうだね」
「昨日は遅くまで起きてて、ああ、ねむい~」
「午後もまだあるからね。数学の先生怒らせると怖いから気をつけてよ」
おそらくはゲームだろう。新作ゲームが出た日はこうなっていることが多かった。
「わたしが悪いんじゃないよ。Iが眠らせてくれないんだよ」
「え、Iもいたの?」
IはRの幼馴染である。思春期に入れば男女の仲は離れるというが、この二人は小学校から関係を続けていた。
いままでIもRもあまりそういった雰囲気を見せることはなかった。だから、わたしも男子であるIとは楽に接することができていたのだけれど。
「そうだよ。いつもより熱が入ってさ、ずっと同じ体勢してたみたいで腰と尻が痛い。ほどほどにしなきゃね」
「え? それって……」
「あー、ごめん。もう眠気が限界だから、ちょっと寝る」
昼休みが終わったら起こしてと言い残すと机につっぷす。数秒後にもう寝息を立て始めた。
聞きそびれたことにもやもやしていると、Iがやってきた。
「あれ、Rは寝てるか。じゃあ、後にするね」
「あ……ちょっと、待って」
引きとめられたIが振り向く。
のんびりした雰囲気ともじゃもじゃの髪の毛は草食動物を思わせる。黒縁の眼鏡と櫛を入れただけの黒髪はやぼったく、女子達の間でも彼の名前は話題にならない。そんな男子だった。
「ねえ、昨日の夜はRと一緒だったって本当?」
「そうだけど、どうしたの?」
相槌を打ちながらどうやって聞けばいいかと悩む。
Iとは友人であるが、普段からRを挟んだ関係であった。三人でいるとき、ふとしたことで二人が幼馴染なんだと思わせる場面もあった。
「やっぱり、二人はそういう仲なのかな」
「もしかして、Rから聞いた?」
「……うん」
「そっか~、はじめたのは一ヶ月前ぐらいかな」
Rが早めに帰るようになった時期と一致してた。
しかし、これまで恋人らしいやりとりなんて見たことはなかった。幼馴染同士だし、いまさらカップルみたいにはならないのかもしれない。
「もしかして興味があったりとか?」
「野次馬とかじゃないけど、二人の邪魔しちゃいけないかなぁとか思っちゃうわけでして」
「そんなの気にしなくても大丈夫だよ」
Iは普段とかわらないのんびりした口調で言う。でも、今後の接し方とかも考えなければならない。
「やっぱり気にしちゃうって。わたしはそういうのは詳しくないけど、話ぐらいなら聞くよ」
「ほんと? じゃあちょっと聞いてよ。二人ともまだまだ初心者レベルでさ、なかなかうまくいかないんだよね」
やっぱり、幼馴染から急に関係を変えたらぎくしゃくするのだろう。
恋愛相談なんて受けたこともないから緊張してきた。どんな風に答えようかと悩みながら話の続きを聞く。
「攻められそうだと思うとつっこんじゃって、そしたら返り討ちに会うとかよくあるんだ。でもRはそういうのが意外と上手くてさ。けっこういやらしい攻め方が得意なんだよね」
いきなり生々しい相談がくるとは思わなかった。女同士ならともかく男友達とこういう情報を共有するものなのだろうか。しかし、ここは昼休みの教室。温かい日差しが窓から差し込んでいる。
「ちょ、ちょっと待ってよ。二人のことはわかったから。でも、そういうのは毎日だとよくないんじゃないかな。Rったら、今日もすごく眠そうにしてたし」
「昨日も遅くまでしてたからなぁ。キリがつかなくて気がついたら夜が明けてることも多くて、親にも注意されたよ」
「え、親に知られてるの……」
そこまで公認されている仲なのか。幼馴染カップルというのはいろいろ済ませるのが早いのだろうか。
「最近はRとやってばっかりだからいけないのかも。そうだ、Vもやらない?」
「えぇ!?」
「Vがいてくれたらやりすぎることはないと思うんだよ」
節操なしだった。二人の関係はただの友人じゃないと思っていたが、特殊なフレンドだったらしい。
「わ、わたしは、そういうのはやったことないし」
「大丈夫だって、Rも教えたらすぐにできるようになったし」
「あんたのせいか!」
「ボクだってこんなにどはまりするなんて思ってなかったよ。家に帰ったらすぐにしようって誘ってくるんだ。Vもやってみたら案外はまるかもよ?」
「はまらないから、絶対に!」
わたしのことをいったいなんだと思っているんだろう。Iはおとなしいオタク系男子だと思っていた。しかし、こんなにも女子を気軽に誘ってくる肉食系男子だったらしい。
「んん……うるさいなぁ。って、Iじゃん。どうしたの?」
「おはよう、R。Vも一緒にどうかって誘ってたとこだよ」
Rが起きたことにほっとする。彼女なら幼馴染の暴走を止めてくれるはずだ。
「いいね~。Vも素質あると思うんだ。絶対はまるとおもうよ」
味方はどこにもいなかった。
「そ、そういうのはわたしにはまだ……その、早いと思うんだ」
「前に話したときも興味ありそうだったじゃん。ね、やろうよ」
興味がないといえば嘘になる。わたしだって思春期の女子だった。以前は幼馴染という関係に夢を感じてRに二人のことを聞いてみたことがあった。しかし、彼女から語られた内容にはマンガのような甘いものはなかった。
今は―――甘いどころか刺激物まみれだと知ってしまった。
「よかったら、わたしがIとやっているところを見ててよ?」
「え……?」
「ほら、実際に見たらどんなものかってわかるだろうから」
「いやいやいや、無理無理っ! 見ているわたしにどうしろっていうの!?」
「もしかして、ああいうのは苦手だったりする? 血とかでるし、激しく揺れて酔ったりするってひともいるからなぁ」
「血がでる……激しい……」
二人が何をしているか想像してしまいそうになって、慌てて頭の中から追い出す。
「Vがいてくれるとすごく助かるんだ。いつも一人足りないから野良を呼んでいるから」
「野良……?」
聞きなれない単語。いや、そっちよりも三人でもしているという事実が耳に残った。
「うん、ネットでマッチングした人だよ。でも野良の人はあたりはずれがあってさ。一方的にこっちのことを晒したりするやつもいるんだ」
「それってやばいじゃん!」
「そこまでじゃないよ。嫌な気分になるぐらいで実害はないから」
さらに出てくる新しい事実。
友人の恥ずかしいところが世界中にさらされてしまっている。しかし、二人はいまだに続けるつもりだ。もっと自分を大切にしてほしい。
知りたくなかった友人の一面二面三面で頭がパンクしそうだった。
「だからさ、顔見知りのほうがいいんだよ。あたしたちを助けると思って、ね、お願い」
「う、うぅ……、じゃあ見るだけなら」
「うっしゃ、じゃあ、放課後にうちでやろうね」
Rに押されてオッケーしてしまった。正直、友人二人の性癖に巻き込まれてしまったことには困惑しかない。
しかし、これ以上友人たちを危ない目にあわせるわけにはいかない。
とにかく、友達として受け入れてみよう。
そう気合を入れて二人についていった。
「あああ、なにこれ、なにこれ!? やばいって!」
「後ろ後ろ!」
「弾切れしてるよ~」
Rの家で二人に教えられながら、わたしは必死にコントローラーを握っていた。
―――このあとめちゃくちゃFPSした。