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sumika

「これと、これとこれを」


 東山が次から次へと参考書を僕の腕の中に積んでいく。

 放課後、僕と東山つぶらはともに学校を後にして、近所で一番大きい本屋へと向かった。東山も三年生となり、あまり陸上部に顔を出すようではなくなった。そもそも、あまり僕は知らなかったのであるが、僕と東山の通う学校の部活動には暗黙の了解があるらしい。

 それは、高校二年生の大会を目途に引退とするものだ。これには理由がいくつかあり、一つは学生の本分は勉強であるということが念頭に置かれている。また、もう一つは、後進に活躍の場を与える為ということでもある。

 が、もちろん、高校生にとっての一大イベントでもある夏大会に参加したいという生徒もいる。野球部はまさしくそうであり、甲子園という栄光の地を夢見て努力を日々重ねている。

 しかしながら、そうでもない生徒からしてみれば、早く部活を引退して勉強に本腰を入れたいという生徒がいるのも事実であった。そういう生徒たちの希望をかなえるために、勉強に本腰を入れるという学生は、二年の大会で引退とする暗黙の了解が出来上がっているのだ。


「実際、私が出ても勝手に優勝するだけだしねー」


 本屋に向かう途中で、自信溢れる言葉を東山が口にする。

 なんとも返しがたい言葉であり、僕は口を閉ざしたままであった。

 参考書を僕の腕の中に積み上げていく東山であったが、最期の最後にひときわ大きな本を載せた。

 それは、僕たちの志望校の赤本である。

 東山の手にも同じ志望校の赤本が手に取られている。


「学部は違うけど、すごい厚さだね」

「まぁ、そりゃ国立大だしね」


 そういうものだろうか、と赤本が並ぶ段を眺める。

 参考書というのはどれもこれも分厚いので、大差ないとしか思えず、彼女の言う通りであろうと納得する。

 参考書を持ってレジへ向かう。合計の購入金額はかなりの金額であったが、バイト代が入ったばかりの僕としては何とか支払える額でもあった。


「それじゃあ、あとはひたすらに勉強ね」

「わかってるよ」

「参考書を買って満足しないでよね。ゴールは合格することなんだから。毎日、少しでも良いから勉強してね」

「わかってるって、だから、君の部屋でも勉強するんだから……」

「それもそうね」


 にこりと笑みを僕に向ける。

 二人で並んで歩き、東山の家へと向かう。

 そう言えば、いつ頃からこうやって並んで歩くようになったのやら。初めの頃は、現地集合で現地解散であったというのに。

 いつしか、二人して並んで東山の家に向かうようになっていた。

 複雑な心境だ。


「どうかした?」


 足を止めた僕にそう心配そうな声で彼女は微笑みかけてくる。


「いいや、別に」


 下手くそな誤魔化しに彼女は気付かないだろうか。

 四月の暮れに、僕はそう思いながら彼女の家へと歩くのであった。

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