輝く王者
二月も終わりが近づくと、もう春休みというところである。
桜の花よりも先に梅の花が咲き始めているのを、通学の途中にぼんやりと眺める。
期末試験が終わり、生徒たちの間では緊張感がない。それは仕方のないことであるとも思う。もう残されたのは、春休みくらいなもので、春の全国大会とかがあるならば部活に勤しむことになろうが、生憎と部活に所属していない僕はそういうものとは無縁で、のんびりと過ごしていた。
「三月なんだけどさ。新しい映画で気になるのあるよね」
昼休みに東山つぶらが、映画のチラシを持って屋上にやってきた。
片方の映画は、激突!鮫!鮫!鮫!!というタイトルの映画。
そして、もう一つは、臓物人間というタイトルだ。
「僕の趣味がよくわかってるじゃないか」
両方とものチラシを見比べながら僕は言う。
「まぁね。で、見に行くの?」
「もちろん。両方ともね」
「だと思った。じゃ、三月の適当な日に行きましょう。朝早い方がいいかな」
「それなんだけど」
僕はとくに隠す必要がないと思い、バイトを始めたことを伝えた。初めのころは神妙な顔つきをしていた東山であったが、すぐににこりと笑みを見せる。
「日曜日を一緒に過ごせないかと思って心配したわ」
「そんな。ただ三時間ほどのバイトだよ」
「まぁ、そうだけどね」
しばらく、思案していた彼女は、ふと僕の顔を見た。
まっすぐに見つめる。
「そういえば、今度の日曜日、暇かしら」
「いや、聞いてた? バイトあるんだけど」
「バイト終わってから」
「そりゃ、まあ」
「じゃあさ。ここにきてよ。今からラインで場所送るし」
東山がスマホを捜査してすぐに通知が飛んでくる。
そこは市が運営している陸上競技場だ。
「今度の日曜日、そこの大会に出るの」
「でも、僕午後しかいけないぞ」
「大丈夫。表彰式は夕方だもの」
東山はどんと自らの胸を叩く。
「勝ちに行くわ、優勝位は余裕よ」
確信した笑みが彼女の顔にはあった。
そういう顔に僕が報いるには、彼女の願いを聞き入れることくらいしかできない。
「わかった。バイトが終わったら見に行くよ」
「良かった」
東山は言って笑った。