放課後ティータイム
勉強法については千差万別、多種多様な方法がある。テレビをつけて勉強すると集中力が増すとか、喫茶店で勉強するとか、歩きながら声に出して勉強するとか、本当に色々ある。
だが、どれほど方法があっても、それは同じ目的を持って行われているに過ぎない。
圧倒的な試行回数による記憶だ。結局のところ、何度も何度も問題を解き、間違え、間違えた箇所を反復学習し、理解する。そうする事で、頭の中に知識として刻み込む。
東山つぶらの勉強法もそれだ。
彼女もまた試行回数を増やすことにより、自分の欠点を認識し、それを克服しようと再び問題集に挑む、そういう人間だ。
本当に完璧超人なんかではないのだ。
それが彼女との勉強でよく理解できた。
しかし、だからこそ勉強の成果もまた正しく得ることが出来た。
「山田、今回はよく頑張ったな」
「珍しいこともあるものね」
「どうしたんだ? 変なものでも食べたのか?」
学年末テストの結果が返ってきたとき、英語、数学、生物の教師たちはそう僕を評価した。実際に、僕も同感である。前回の中間テストと比較して、今回のテストは倍の点数を収めることができた。
担任の教師はニコニコと笑顔を見せて、
「やればできる子ですから」
と、先の三人の教師に自慢げに紹介した。
が、本当のところ、最も自慢したがったのは東山つぶらであった。
「ほれ、ほれー。私と勉強したからこそのその点数よ」
放課後、屋上に出た僕を彼女は待ち伏せていた。
来るであろうと知っていたかのように。
そして、やはり、自慢の色が顔に色濃く出ていた。
「感謝しているよ、ありがとう」
素直に頭を下げる。
彼女は本当にすごい。噂通りの人物であると今回のテストでよく理解できた。教え方も適切であったし、僕の理解不足を悲観したりすることはなかった。まさしく理想の教師であった。
「君のおかげで点数も倍だったよ」
「ふふん。ま、今回も学年トップをとった私が教えるんだもの。倍は当然よ。もっと頑張れば三倍もいけたのかもね。百点満点なのが残念だわ」
「そうだね」
小さく笑う。
「さて、と私は部活があるから」
「そうか。気を付けて」
二人して屋上を出て階段を下りていく。
「あのさ」
階段を降り切ったあたりで、東山に声をかける。
振り向いた彼女は、不思議そうに僕を見ていた。
「今度、また勉強に付き合ってほしい」
「ふぅん、なんでまた」
「なんでって、そりゃ、また次もいい点数をとりたいから」
「それだけ?」
「悪いかよ」
「いーんや、別にー?」
そういうと、彼女はくるりと回って僕をにやりと見る。
「いいよ。勉強、付き合ってあげる」
「よかった」
「その代わり」
東山が手を突き出して、話を征する。
「基本、私の部屋で行うからね。だから、お菓子とか飲み物とかそういうの持ってきて。所謂、講師代金だから」
「わかった。承諾しよう」
「絶対だからね」
「あぁ、わかったよ。嘘はつかない」
それだけを聞き終えると東山はじゃあねとグラウンドのほうへと走って行った。
僕は帰路につく。
お菓子と引き換えに勉強を教えてもらえるならば安いものだとも思う。しかし、ここで心の内で見栄がむくむくと膨れ上がる。せっかくなのだから、いいお菓子を持って行った方が気分がいいのではないか。
金銭的に可能な範囲を超えるが、これは必要経費である。
そう自分を納得させた。
「バイトでも探すかなぁ」
夕闇に染まっていく帰路で僕はそうつぶやくのだった。