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白羽の悪魔  作者: 山田 並月
第一章「河清と宿望」
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第二話

「天使だ」



 その言葉に、俺は口を結んだ。久々だということもあり、少しの緊張に拳を作る。早朝の澄んだ風が吹き込み、服の隙間から肌を冷やした。


「どの方向だろう」


「あいつらの考えることなどわかるか。あいつらが行く先へ向かえばいい。くひ、あはは! 久しぶりの再会だ」


 無邪気に笑う声は、先ほどまでとは打って変わった様子だ。魔鬼が天使との戦いを待っていたことは、日に連れ不機嫌になる態度でわかっていたから、なんとかここで魔鬼の思うような結果を残さなければと気合いを入れる。深呼吸をしていると、肩を掴まれた。


「何の真似だ? 早く行くぞ、お前はとろくて嫌だ」


「ごめん」


 謝罪をしつつ、天使の元へ早く辿り着く方法を考える。足先を見つめて思考を巡らせたのち、顔を上げて口を開いた。


「魔鬼、力を貸してくれた方が、早く行けると思う。俺は足が速くないから」


 俺の言葉を聞いてなのか、元からそのつもりなのか、魔鬼は頭の先から煙状に形を変えた。慌てて眼帯を外してやると、魔鬼はちぐはぐな皮膚の隙間をするりと抜け、俺の体内に入り込む。細胞の間をくぐる感覚、異物感が強く眉をひそめて目を閉じた。しばらくその感覚が全身に巡り、そして、止んだ。


 俺は右目を開き、先ほどの視界より鮮明な景色を目の前にする。


「ありがとう、魔鬼」


 姿は見えないが、血脈が波打った。


 再び眼帯を身につけると、俺は再び屋上に出て、目の前の崩れたビルの壁に付く排気ダクトに目標を定め、グッと地面を蹴った。


 轟音と共に、体が宙に投げ出される。


 空中で姿勢を整え、ダクトに足を置くと、すぐに蹴った。ひしゃげる地面に足を持っていかれて、態勢を乱した。脈がまたドンと波打つ。意味も無く声を張り上げて、謝罪をした。


「ごめん、でも大丈夫そう」


 背中を下にして落下するのはよくないと考え、背中を反りつつ足を振り上げ、勢いをつけて回転した。さっきまで寝泊まりしていた四角いコンクリートの建物が半壊しているのが見えて、戻ってくることはないだろうなと確信したところで体が正面に向き直った。ちょうど下に、建物から飛び出すパイプがあったので、それを掴んだ反動のままに体を投げ出す。ごうごうと滝のような風が耳の傍で吹き荒れ、火照る体を冷やすのが心地いい。


 次に、薄い灰色の地面を押すように蹴り、屋根に飛び乗ると、天使の姿がさっきよりもはっきりと見えた。向かう先は西の方向。しかし、思いの外距離があった。俺は走り出して、魔鬼に声をかける。


「思ったよりも遠い。天使の方が先に街に着くだろうけど、逃がさないから」


 反応はない。納得してくれているようだとわかり、足の回転速度を上げた。屋根から屋根に飛び移り、天使の背中を追う。風を含んだ上着がうるさく音を立てた。じわりと汗が滲み、すぐに流されていく。目を細め、即座に変わりゆく景色を見た。


 ここも、人はいない。いや、いた。なんとか形を保った骨が落ちている。窓が割れている。カーテンに赤茶のしみ。発砲痕のある壁。ここも同じだ。オフィス街のように見える。アパートも陳列しているから、大層人も多かっただろう。天使が狙うには恰好の的だ。


 天使の影が大きく見え始めた。


 俺はふう、と息を吐き、膝を深く曲げる。そして、ばねのようにして飛び跳ねた。軌道の頂点に達した時に、四肢を胴に張り付けて空気の抵抗を受けないようにして、加速させる。狙うは、天使の後頭部。



 天使の頭の上に着地して、天使の手から凶器を奪う。今回は、槍。骨が折れる音がした。


 一人目。


 他の天使が、一斉に振り返って丸い目を向けた。キラキラとビー玉のような目を強張らせ、武器を構える。


 まだ空中。飛べない俺には不利な状況。今は受けるしかないと判断し、魔鬼に話しかけた。


「再生、お願い」



 途端、右手の感覚がなくなった。

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