忍者二人と荒武者一人、やったるDAY!
寒いギャグをサブタイトルだけに!挟みます!すいません。
傍観していた朧は仮面を擦りながら、やれやれといった佇まいで陽炎に話しかけた。
「随分手こずった様だな」
「お主こそ、雑魚相手に偉く時間をかけたもんじゃのう」
不満気に陽炎は糧食を袋へと仕舞う作業に戻る。
「手ぇ空いとるなら羽柴軍に兵糧庫がここにあると伝えてこんかい」
朧は怪訝そうに陽炎を見据える。
「とっくに影にやらせとる。打合せ通りやっとるが?」
「そんなこたぁ忘れとらぁ」
「これだから田舎の魍魎とは組みたくない」
目に見えぬ火花を散らしながら思い出したかの様に陽炎は就之の鎧と槍を身に着け、刀を麻袋へと収納した。陽炎は伝令として元就の元へと援軍の要請を出させる為、宴中の兵に命令した。未明には伝令が帰陣し、草月元吉が二十の兵を連れてくるとの事であった。
元吉は就之の義弟ではあるが、元就に仕えているのは忠義の為ではなく金銭によって雇われた傭兵であった。家久との確執を知っていた魍魎側は必然、元吉が援軍に来ることを予測していた。
陽炎は兵に言伝をすると甲冑を脱ぎ捨てた。
就之は斥候を連れ出陣した旨と、右軍本陣を元吉に任せる事。そして、兵糧は別の場所に移しているので来る時に家久を迎え討つ様にと。
右軍より撤退した陽炎と朧は右軍全体の見える森の丘へと戻り、成功の祝杯を挙げた。背後よりする獣の気配に気づいた二人は苦無を茂みに投げる。返ってきたのは動物のソレではなく、金属の弾ける音だった。
奇しくも現れたのは羽柴左軍斥候を務めていた兵頭家久であった。単騎の家久に二人は侮り、笑みを浮かべる。
「わざわざ、死にに来たか哀れな雑兵」
家久は問答をする事無く、瞬時に斥候の役目を果たすべく羽柴より授かった妖刀”五月雨”を引き抜いた。
確かに感じた事のある気配に朧と陽炎の顔色が強張る。
若かりし頃、明智邸に忍び込んだ際、主である光秀から感じた物と似ていたからだ。
居合一閃――。
二人は全力で影へと姿をくらます。
疾風と共に周囲の木枝が激しく揺れ動き、葉が舞い散る。
隙間から射した月明りが影を炙り出し、変わり身の影を切り裂く。
陽炎は切断された腕を抑えながら家久と五月雨の脅威レベルを最大限に引き上げた。
「情けない。陽炎」
「黙れ朧。減らず口を叩く暇があるんじゃったら奴をどうにかせんか」
陽炎は二十七個の指輪を失いながらも狼狽すること無く、冷静に残された能力を把握する。数々の魍魎を討伐し、得た指輪にはそれぞれの異能が付与されていた。
「同士討ちで得た力も使えねば絵に描いた餅と同じ」
朧は心底、陽炎に落胆していた。
「殿は何を考えて陽炎などという雑魚と組ませたのか。真意を聞かねばなるまい」
主の選定と自らを愚弄された陽炎は頬を引きつらせながらも綻ばせる。
「勘違いしているな朧。殿は貴様を使えと某に命じたのだぞ」
朧は返す言葉を選ばず、陽炎に視線で家久を倒して証明してみせろと促した。
「有為千変万化の術」
肉体の鮫肌が鋭利に逆立ち、見る見る内に腕、広背筋から首、僧帽筋を肥大化させる。
般若の双眸が輝きを増し、白炎を灯す。駆使した能力は三つ。
”肥大化””硬化””鋭敏化”
極限まで肉体に負荷をかける術は陽炎の怒りと覚悟を表すかのようだった。
無くした左腕の出血が筋肥大によって止まる。
ここで家久を討ち取らなければ、いずれ主の天敵と成り得ると、本能がそう告げていたのだ。
「名を名乗れ、若造」
「兵頭家が嫡男、家吉が息子家久じゃ!」
思考の歯車が噛み合った陽炎は主の意向を履き違えていたと悟った。
兵糧を奪いつつ、羽柴に肩入れするのが目的であると考えていたのだが、厄介な草月元吉を討つために家久をぶつけようと毛利右軍に潜入させたのだと。
矛を収める理由を探すが見つからず逡巡する間、家久に先手を取られる事と成った。
会話をしている間に家久は陽炎の血を吸収していたのだ。
真下から真上へと振り上げた五月雨からは放射状に四つの斬撃が放たれた。
陽炎の鮫肌は鋼の如く固く、刃の如く鋭いにも関わらず斬撃はあっさりと陽炎を三枚におろした。
陽炎は死して、明智に忠義を尽くすべく家久の装具に魂を宿し、後押しする。
般若を象った籠手が陰々とした森の丘で一つの葬具と化した瞬間であった。
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