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第十四章 お披露目飛行

 夏の日差しが僕の肌を焼いている。今日は、僕らの零戦の復元完了記念式典の日だ。

 滑走路の脇には、露店が設けられ、地元須賀川や玉川の特産品が売られている。

 特設ステージでは、地元の須賀川桐葉高校書道部が音楽に合わせてパフォーマンスを披露中だ。やがて完成した作品は、大きく「零」という文字と、大空を飛ぶ二機の零戦が描かれていた。 

「おおおぉぉー」

 会場の人々から、拍手が起きる。

 つぎに、同じ高校の吹奏楽部と合唱部の演奏だ。曲目は、「蛍」と「ひこうき雲」どっちも零戦が登場する映画の主題歌だ。

「ねぇ、もしかして、今回のために零戦に関係する曲を選んだんじゃない?」

 ハルが話しかけてくる。たしかに、さっきの書道部の文字も「零」だった。僕らからは、曲目や文字までは指定してないから、このイベントに合わせてくれたとしか思えない。

「感謝だね。」

 ハルの言葉、僕も同感だ。

 周りは、人であふれている。

 実は、「飛行機ジャーナル」という雑誌に、ハルのことが特集されたのだ。「零戦の女王」という見出しで。そのおかげで、僕らの活動は広く知られるところとなった。だから、こんなに人が来ている。

 福島空港長のあいさつが終わって、いよいよ離陸時刻になった。

「行こう。」

 ハルといっしょに、滑走路に向かう。

 僕の零戦は、この日に向けて整備され、磨き上げられた姿で滑走路に鎮座している。

 その後ろには、ハルが乗る零戦二一型「サクラ」が置かれていた。

 飛行機の外観を目視点検した後、翼の上に上る。「フムナ」「サワルナ」と赤で書いてある所や赤線の牽いてある所には足をかけないように注意して。

 三分割になっている風防の真ん中の部分をスライドさせた。

 少し窮屈なコックピットの中に、体を滑り込ませる。戦前の日本人の体格に合わせてあるからね。

 いつものように、エンジン燃料注入、気圧計調整を行う。

「異常なし、エンジン始動!」

 エナーシャスターターレバーを引いた。




 ドドドドドドドドドド・・・・・





 エンジンが始動すると、滑走路わきにいるファンがいっせいにカメラを構えた。

 いつものように計器を確認、椅子を最高位にあげる。

「こちら自家用機コオー102、V-121。離陸許可をお願いします。」

《こちら管制塔。コオー102、V-121。離陸を許可する!いってらっしゃい!》

 離陸許可の信号。スロットルを全開!操縦桿を操り、機を上昇体制にする。足で踏んでいたブレーキを放した。

 スピードがぐんぐん上がってゆく。速度が九十ノットを越えた時、操縦桿を手前に引いた。






 

 ふわっ






 タイヤからの振動が消える。

  目の前に、青い空が広がった。操縦桿を使い、機体を水平飛行状態にする。

 ハルが操る零戦も、離陸したのが見えた。僕の後ろ十メートルくらいにつく。

 復活作業中の一年間近く、お世話になった福島空港ともお別れだ。

 滑走路の離陸地点付近、福島空港の職員さんが帽子を振って見送ってくれた。

 今回は、燃料が足りるし、途中でアクロバット飛行をするから増槽はつけていない。

 そうして僕らは、福島空港を出撃した。








 空港離陸後、西方に舵を切る。猪苗代方面に。

 猪苗代湖上空を通過、磐梯山のほうに機首を向ける。

 磐梯山のふもと、沼尻鉱山記念公園上空、今日は、沼尻鉄道復活の日だ。その復活を手掛けた沼尻鉄道保存会の皆さんには、エンジン整備でお世話になった。そのお礼の意味も込めてのフライト。

 広場の露店に集まった人がエンジン音に気づいて顔を上げるのが見えた。

 ちょうど駅では、一番列車が到着したところのようだった。たくさんの人であふれかえっている。

 アクロバット飛行に入る。ハルが僕の横についた。

 二機で急上昇、飛行機雲が途中で交わるように。円を描くように飛ぶ。上下に一回転。見ている人が楽しめるように、心を込めて舞う。

 零戦が、僕の体の一部になったような気がした。今なら、どこまでも飛べそうな気がする。

 時間にして一分くらい。自衛隊のブルーインパルスほどではないけど、まあまあできた。

 最後に、ハルが急降下して、爆弾垂下装置につりさげていた通信筒を落とした。中には、沼尻鉄道の復活を祝う手紙が入っている。

 カプセルは、パラシュートを開きながら落ちて、ちょうど機関車から降りてきた機関士さんにキャッチされた。 

 機関士さんが、上を見上げて手を振る。白い歯が日の光を受けてきらりと光った。

 操縦桿を手前に引いて、機体の高度を上げた。また、ハルが後ろにつく。

[成功してよかったね]

 無線機越しのハルの声が聞こえる。

[あの機関士さん、ちょっと涙ぐんでたよ。感動したんだろうね。]

「よかった。」

[あとは、桑折の零戦ミュージアムに向かうだけだね。]

「うん。そうだな」

 高度をさらに上げた。磐梯山の上空を通過する。裏磐梯の湖の上も通った                                                                             

たくさんの人が、零戦を見上げて、手を振っていた。

 桑折飛行場を改装して開館した零戦ミュージアムが見えてきたのは、磐梯山を過ぎてから一時間くらい後のことだった。


保信「保信とぉ!」

春音「春音とぉ!」

みやび「みやびのぉ!」

三人『次回予告~!!』

―♪守るもせむるも黒金の 浮かべる城ぞ頼みなる

保信「さて、今回はいよいよ僕たちの零戦がお披露目されました。」

春音「お披露目式に集まってくださった皆様方には本当に感謝です。」

みやび「大丈夫でしたか?あの子たちは」

春音「うん、調子は上々!ありがとね」

みやび「なんか、ずっと整備していると、零戦たちがわが子のように思えてくるんですよね。ハルさんとヤスさんが出撃するとき、いつも心の中で『途中でなんかあっても帰ってきなよ。帰ってきたらこっちで何とかしてあげるから』って心の中で呟いてますね」

保信「僕たち搭乗員にとって、零戦はパートナー的な感じかな。唯一無二の相棒っていうか。一体感を感じる。ふとさ、『ああ、こいつとならどこまでもいけるな』っていう感覚が出てきたりするんだよ。」

春音「そういうのは、人と機体によって個人差があると思うんだよね。わたしの場合、なんか、操縦桿とスロットルレバー、フットバーを通じて、零戦が自分の体の一部になったような感覚がするの。これはさ、わたしの場合『サクラ』に乗ってないと感じない感覚なんだ。ヤスだってそうでしょ?」

保信「うん、僕も自分の三二型に乗ってないと、そういうのは感じない。」

みやび「お二人の話を聞いていたら、わたしも操縦してみたくなってきますね。」

春音「今度教えてあげようか?」

みやび「ぜひともお願いします!」

保信「さて、そろそろ次回予告に移りましょう。次回で、いったんこの物語が完結します。ちょっぴりファンタジーな展開です。」

みやび「それでは皆さん」

三人『お楽しみに~!!』

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