第十章 飛行訓練
お待たせいたしました。やっと飛行シーンです。
復活した零戦用エンジン「栄」が野口自工から送られてきたのは、僕らが立ち会ったテストの翌日だった。
隼人さんによるテストもパスしたエンジンは、機体の整備が終わり次第、搭載されることになる。
整備作業と並行して、僕とハルは飛行訓練を受けることになった。春ごろには完全に習得しなければならない。
信さんが所有している二機の零戦を使って、空中での飛行訓練をする。これは僕らが復元している三二型と違って、主翼のはしが丸みを帯びた二一型だ。
運転は、信さんに陸上で教えてもらった、
零戦のコックピットの中は、たくさんのメーターがある。だけど、そんなこと知らなくても運転できる・・・・らしい。
ドドドドドドドッ
みやびがエンジンを作動させて、コックピットから降りてきた。
「ヤスさん!オイル温度も排気音もバッチリです!思う存分暴れてください!!」
別に空戦するわけじゃないんだけどな・・・・・・・・・・
足掛けを伝って、コックピットにもぐりこんだ。
エンジンをかけた状態で、二本あるレバーに手をかける。右手が上下への進行方向と左右の翼の傾きを調整する操縦桿、足の間から出ている。左手がスロットルだ。奥に押し込むと出力が上がる。足元の機体の左右方向の行先を調整するフットバーにも足を入れた。
ほかには機銃の発射装置もある。増槽落下のレバーもあるけど、アクロバット飛行の時しか使わない。
滑走路上で旅客機の合間を縫って練習する。左手でスピードを上げながら、右手のレバーを奥に倒した後、手前に引く。
車輪から伝わってくる地面の感触が消えた。下を見ると、どんどん地面が遠くなっていく。
レバーを操作すると、足が内側に折りたたまれ、翼に格納される。
一時間の飛行を終えて、コックピットから降りると、ハルが代わりに零戦に乗り込んだ。
「じゃ、いってきまーす。」
あっという間に離陸する。空の高みに到達すると、増槽が落下するのが見えた。
アクロバット飛行に入るつもりだ。
ハルは僕よりも上達が早い。乾いたスポンジが水を吸い込むように知識を吸収していった。そして、アクロバット飛行ができるまでになった。
この前「ハルはいいよな、何でもできて。僕はまだうまく飛べないんだ」とぼやいてしまったほどの腕前だ。
零戦が、銀色の機体を輝かせて舞う。左右に旋回し、ぐるりと宙返り。
やっぱり、きれいだ。それに比べて、僕は一向に上達しない。左右旋回がやっとというところだ。
練習すればできるようになる。だからがんばらないと。
僕らの零戦は、舵部分の調整が終わって、エンジン搭載の段階まで来ている。エンジンを積んだら、試験飛行をして完成だ。
中島飛行機の後身である自動車会社スバル自動車には、エンジン「栄」の図面を提供していただいた。
僕は、もう一機の零戦に乗り込む。
航空時計を計器盤の所定の位置にセット。気圧計を調整、燃料ポンプを使い、エンジンシリンダーに燃料を注入。などの操作をして、風防から顔と手を出す。
「前離れ、スイッチオフ!エナーシャ回せ!」
隼人さんと信さんが二人がかりで始動クランクを回し始めた。
キュンキュンキュンキュン・・・・・・・・・・
エナーシャの音がだんだん高くなっていく。
「コンタクト!」
叫んで右手を振り回す。隼人さんが退いたのが見えた。
右足で操縦桿を操作。手前に巻き込んで、上昇体制にしておく。
エナーシャスターターレバーを引いて、エンジンを始動。同時に安全ベルトもチェックする。
「油圧計、電圧計、排気温度、よし!磁気コンパス、同調。」
椅子を最高位にあげる。飛行眼鏡をかけた。ブレーキをめいいっぱい踏みながら、スロットルをいっぱいに開く。
すべての計器を確認・・・・すべて良好。
「こちら自家用機EIー123。離陸許可をお願いします。」
無線で管制塔に離陸願いを送る。
「こちら管制塔。EI-123、離陸を許可する!」
「諒解!離陸します!」
左手、スロットル全開!右手の操縦桿を前に押し倒す。
機体が水平であることを確認して、操縦桿をもとに戻した。
速度計を見て、九十ノットを超えたのを確認。
操縦桿を手前に引いた。
ふわっ
零戦が宙に浮かぶ。
さらにスロットルを開けて、操縦桿を引くと、零戦はその栄エンジンをうならせて上昇する。
座席を下げ、風防を閉じると、コックピット内の無線機を手に取った。
「こちら神崎保信。山ノ井春音さん応答願います。」
[はい、こちら山ノ井春音です。どうぞ。]
無線機越しに、ハルの声が聞こえてくる。
「本部より、編隊を組んで桑折飛行場まで飛行せよとの指示が出ました。」
[了解しました。]
ハルが近づいてくる。
僕の二メートルくらいうしろについた。
須賀川市街地のほうに機首を向ける。
須賀川の商店街の上を通る。ところどころに置かれているウルトラマンのキャラクター像が目についた。
須賀川駅上空で、機首を北に向ける。
陸上を飛ぶときには、「地分航法」という技を使う。
まずは、目標物を決める・・・・・・今回の場合、遠くに見える吾妻山だ。
膝の上に置いてある航空地図をチラッと見る。
途中での目立つ建物や景色、そこまでの距離が書き込まれているこの地図は、飛行機乗りの必需品だ。
遠くに、一棟のビルが見える。最上階がガラス張りの展望ロビーになっていて、その中に球形の構造物が収まっていた。
「ビッグアイ通過・・・・・・・少し西にずれてるな・・・・・・」
あらかじめチャートに書き込んでおいた最短経路との誤差を計算して、その誤差の二倍、フットバーで舵を切った。この操作を「倍角修正」という。
郡山市の上空、郡山駅の広い構内に、列車が入ってくるのが見えた。でも、この高さからは小さな線にしか見えない。
下に見える高架線を走る東北新幹線を追い越した。新幹線は時速三百二十キロ、零戦は、五百八十キロだ。
福島市の上空を過ぎると、桑折飛行場まではあと少しだ。
[ねぇ、ヤス]
無線機越しにハルの声が聞こえた。
[この前、うまく飛べないっていってたけど、自信がないのが原因だと思うよ。ヤスは飛行中、ずっと何かを気にしてる。なんか、マニュアル通りに飛ぼうとしてる。一機一機癖があるからさ、のびのびと、自分なりの飛び方で飛んでみたほうがいいと思うよ。]
なんか、胸に刺さった。
桑折飛行場の上空についた。着陸許可の合図は、まだ出てない。
「桑折飛行場着陸許可出ず。しばらく上空を旋回し待機せよ。」
無線電話でハルに伝える。
[了解]
しばらく上空を旋回して待機した。着陸合図が出ると、僕、ハルの順に着陸する。
機体から降りると、隼人さんが出迎えてくれた。
「よくやったない。あっちに飯用意してあっからくえ。」
あとは、太平洋での緊急着水訓練、エンジンを止めた状態での不時着訓練を行う。 これで、飛行訓練は一通り終了。
あとは、復活の当日を待つのみだ。
保信「保信とぉ!」
みやび「みやびとぉ!」
春音「春音のぉ~!」
三人『次回予告~!』
―♪守るも攻むるも黒鉄の 浮かべる城ぞ頼みなる―
保信「さて、今回も始まりました」
春音「わたしたちの飛行技術をしっかりと見てくれたらうれしいな。」
保信「一か月でアクロバット飛行をマスターするのは本当にすごいと思う・・・・・・よ」
みやび「ハルさんの能力には脱帽です。」
春音「いやいや、みやびちゃんたちが整備してくれてるおかげだし、射撃ではヤスのほうが上だよ。」
みやび「本当のこと言わないでくださいよ~。照れちゃうじゃないですか。」
保信「この二人、なんか本当の姉妹みたいだな・・・・・・・」
春音とみやび、いつのまにやら二人だけの世界に・・・・・・・・
保信「二人がガールズトークで盛り上がってるので、僕が次回予告します!次回は、あの空母が登場!?お楽しみに!」