乙女ゲームのヒロインに転生してましたがヒロイン失格になりそうです
悪役令嬢に転生してしまって・・・というのが流行っていました。
結構楽しんで読んでいましたが、不運な事故で私は死んでしまったのです。
そして、私も乙女ゲームの世界に生まれ変わっていました。
流行りの悪役令嬢じゃなくて、ヒロインでした。
でも、そんな事よりも問題が。
***
「やばい、地が出る・・・」
リリアは呟いてから、ハッとして口元を抑えた。
慌ててキョロリと周囲を見回す。
うっかり、キラキラしたイケメンと目が合った。イケメンはニコリと笑った。
「きみ、ひょっとして迷子かな?」
キラキラした輝きを振りまいて、イケメンはリリアへと歩み寄ってきた。
「え、あ、す、すぃませんー!!」
リリアは猛ダッシュして、イケメンを振り切った。
***
「やば、え、やばい。ここ、『キラエン』やん。乙女ゲームやん」
リリアは倉庫に逃げ込み、学生鞄を抱えて小さく呻いた。
ちなみに授業はこれから始まるはず。リリアはここに居てはいけないはず。
だけどそんな場合ではない、だろう。
「ちょぃ待ち。待ちぃや。ちょっと」
言葉を零し続けながら、ふとリリアは倉庫の中についていた鏡を見る。
ピンク色の髪。平凡と良いながらも可愛らしい顔。平民だけど。スタイル超抜群では無いが普通に良いスタイル。
ありがちな設定なので、特待生で貴族も通う学校にめでたく入学、昨日から。
リリアは鏡を見つめて、自分の顔をベタベタと触った。
「超可愛い~。人生勝ったわ。違う。そんな場合やない」
生まれ変わる前の記憶が戻ったのは、つい先ほど・・・何もないとこで躓いて、壁に額をゴツンとぶつけた時だ。
さすがヒロイン、ドジっ子属性。とかはどうでも良い。
「え、どうしよ、めっちゃ良い子の悪役令嬢に、悪女とか呼ばれて反逆されて、ズタボロ? そんな一生? ちゃうねん、そこちゃうねん!」
リリアは頭の出来は良かったので、前世を思い出してしまった自分の問題点を的確に把握していた。
「わたし、あかん、関西弁がでるぅー! どうしよ、ふつーに突っ込みしてしまう! やばー、あかん、笑い事ちゃうで、ここ身分制度あるんやで、不敬罪ちゃうんこれ、一家没落!」
ガーン。
リリアは自分の姿になんだか半笑いになりつつ、青ざめてもいた。
「ていうか、髪ピンクて。なんでやねん。芸人か。ちゃうねん、ここ、異世界やから良いねん」
リリアは己を落ち着かせるように、二度頷いた。
「あかん。ほんまに、普通のしゃべりかた、忘れたわ」
***
「ローザンヌ様、お聞きになられました? 何でも今年はとても優秀な平民が入学したとか」
「まぁ。存じておりますよ。後輩にあたるのですから、皆様、暖かく迎え入れて差し上げなくては」
「さすが、ローザンヌ様はお優しい。でも聞くところによりますと、昨日、ステファン様がその子にお声をかけられたとか。ご注意された方が宜しいのでは?」
「ただ廊下でぶつかってしまったと聞いておりますわ。それだけの事ですのよ」
「くすくす。まぁ、寛容でいらっしゃいますのね」
「それよりも、ぶつかるなんて、なんてはしたない子でしょう。驚きましたわ」
「そうですわ、なんてみっともない事でしょう」
「・・・予鈴がもう鳴りますわねぇ」
「・・・」
「またどこかで転んでいるのではないでしょうか」
「まぁ。きっとそうですわ。ほほほ」
「そうですわね。ふふふ」
さりげなく探しているのに、学校内に、ピンク色の髪の子は見当たらなかった。
***
「あれーリリア、学校はどうしたの?」
「あー、ちょっと、あははー」
「どうしたの、お姉ちゃん! 荷造りなんてしちゃって!」
「うーん、迷惑かけたらあかんからさぁ、旅に出るわ」
「・・・お姉ちゃん、話し方、どうしたの?」
「リリア! 旅に出るって、どうしてそんなことを!」
「いやー、まぁ、ほら、どっちかっていうと、勇者と会って~、世界旅して~の方が、向いてるかなぁって、あは、あは、あははは」
「お姉ちゃんが変だよ! 病気なの!? パパッ!?」
「何か変なものを食べたのか!? ・・・まさかっ! 学校で嫌な事があったのか!! 言ってみなさい、リリア!!」
ちゃうねん、わたしめっちゃみんなのことだいすきやねん、ほんますっきゃねん、でも関西弁やん、こんなしゃべりかたしてる女の子いる!? いーひんやろ、これ無理やろ、つーか不敬罪やろ、ほんま、愛はあるんやけどな、みんなの髪型とかいちいち突っ込みたくて仕方ないねん、でも無理やん、ごめん、関西弁の国探すわ、で、たこ焼きとお好み焼き食べて来るわ、そしたら帰ってくるから、待っててっ
家族を想っての言い訳をリリアは一生懸命涙しながら口にしたが、皆怪訝な顔をして、聞き取ってくれなかった。
そればかりか医者を大慌てで呼ぶために駆けだしていったので、リリアは迅速に家出をすることにした。
世の中の理不尽に涙しながら、とりあえずリリアは標準語習得を決意するのだった。
さよなら、関西弁。さよなら、前世のしゃべり。さよなら、ボケとツッコミ。たこ焼きとお好み焼き。
こんにちは、異世界。
END