18 一人で寒く
ここから第二章です!
人気のないある場所で、少女は一人考える。
自らが行ったことについて。
あの時のことは間違いだったのだろうか、と。
だから今、こうして一人でいるのではないだろうか、と。
間違えていなければ、今はいつも通りの普通の日常を送れていたんじゃないか、と。
いや、間違いということは必ずしもない。
あの事を間違いと言ってしまったら、誰も助けることはできなかったかもしれないのだ。だからこそ、それを悔いる必要など全くない。
悔いてはいけないのだ。
しかし、と少女は思う。
「願わくば、もう一度だけ、やり直すことができればいいのに」
そんな思いを抱くほどに、少女は憔悴していた。
そして一人で、そばに誰もいない場所で、たった一人でこの先死んでいくのだと予期した。
誰にも来てほしくない。誰にも見つけてほしくない。誰にも会いたくない。
そんな風に少女は自分の心に言い聞かせる。
少女は、そう思うことでここまで来ることができた。誰もいない場所に来ることができた。
その行為が逃げであることは、少女自身良くわかっている。
何にも立ち向かうことをせず、ただそこに蹲るだけでは、何も解決しないことはわかっている。
そして、誰にも会いたくないなど、自分が本心から思っていないことも、わかっている。
少女は心の底では、誰かに会いたい。誰かに見つけてほしい。誰かに来てほしい。
そう思う。
いや、誰かなどではなく、少女が心を通わした友だちに、もう一度だけでも会いたかった。
それだけを思っている。
それだけを思って待っている。
だが、それが許されないのもまた事実。だからこそ、自分に嘘を言い続けて、それを信じ込もうとするのだ。
そのことに何か意味があるのかは、正直なところ少女にはわからない。
こんなことをしても、本心には何にも陰りが見えることはなく、より一層輝くだけなのだ。
そうなると、少女は未来を期待したくなる。
ある人が少女に言っていた。
自分らしく、自分のやりたいように生きていけばそれでいい、と。
それこそが、人として生きるということなのだ、と。
世の中にある様々な制約に縛られながらも、その中で懸命に自分のやりたいことをして、自分が正しいと思うことを成すのが、生きるということなのだ。
その中には、もしかしたら悪いことも入っていて、生きていくうえで悪いことをしてしまうかもしれない。
けれど、それを改善していくのが、また生きていくことなのだ。
だから、諦めてはいけない、と。生きていくことを、人として生きていくことをあきらめてはいけない、とある人が少女に言った。
だが、少女はそれを実践できない。
むしろしたくないと思っている。
そのある人から言わせば、今少女が背負っている責任など、元々は処女のものではないのだと言ってくれるのだろう。
しかし、少女自身がそれを許さない。
少女は昔から頑固な子どもだった。人一倍責任感にあふれ、困っている人がいたら助けていたとも思った。そうして助けることで、少女自身も嬉しかった。
その気持ちは今でも変わっていない。
だが、それを誰にも認められない力で成したところで、世の中は認めてくれない。
少女が精一杯、助けたい人すべてを守り、助けたところで、その助けるための力を悪だと判断されてしまえば、少女の行いは正当には評価されない。
少女はそれはとても悲しかった。
自分が認められないことが悲しかったわけではない。助けて人から、忌み嫌われたことが悲しかったわけではない。一人でいることが悲しかったわけではない。
こんな状況にしてしまった、自分自身がふがいなくて、悲しいのだ。
少女は、誰かのせいにすることはできない。
それが例え借り物の力であったとしても、自分本来の在り方でないとしても、自分自身の意志で成したことだ。それに関しては、一切の間違いがない。
なら、少女はどこに救いを求めるのか。
この世界の全てから疎まれれば、もはやこの世界に救いなどないのではないか。
その実例は、過去には存在している。
世の中から悪と判断されれば、本人が何であろうと悪になってしまう。そこには善悪という立った二つの事柄だけがあるべきなのに、第三の感情である恐怖が、人々に歪んだ選択をさせてしまう。
もしかしたら、少女を庇ってくれる人はこの世界のどこかにいるのかもしれない。
いや、世界は広いのだ。かもしれない、ではなく、確実に存在するだろう。
しかし、少女はその人たちには頼れない。
どこまでも、ここまでの事態になったのは、自分の責任なのだから、他人を巻き込むわけにはいかなかった。
それが例え友だちでも、家族でも、だ。
だからこそ、少女は本心では会いたいと望んでも、無理矢理会いたくないと思い込むのだ。
ただそれだけで、少女はそこにいる。
それはとても苦しいことだ。
一人で生きていくと決心しているのではない。一人でいるしかないと納得しているわけでもない。
一人でいるべきだ、と自分の強制するのだ。
そこに結審や納得などといったものは存在しない。
だから、少女は苦しいのだ。
もう死んでしまいたいくらいに。
だが、少女は死ぬことができない。自分の力で死ぬことができないのだ。
それは恐怖などではなく、この世界が少女の自害を認めない。それほどまでに、少女は世界に愛され、そして苦しめられている。
少女は知らなかった。生きることのつらさも、苦しむことの心苦しさも。
体寒い。
外気温は確かに低いが、そういうことではない。
体の内側、心から徐々に冷たくなっていく。感情が、薄れていく。
「もう、どうしようもない……どうしようもない……どうしようもない」
言葉を連呼する少女。
それはとても痛ましい姿だ。
そして、少女は一人になる。たった一人で、この場所で、少女は自分を諦めた。
それが一体、どんな事態になるのか、それを予想することはできない。予想することも諦めた。思考を諦めた。生きることを諦めた。友だちに会うことを諦めた。家族に会うことを諦めた。信じることを諦めた。願うことを諦めた。存在することを、諦めた。
少女は全てを諦めて、自らの意識を手放した。
次に目を覚ますことを、少女は望まない。
これは自害ではなく、ただの拒絶。封印とも言う。
もし、次に目を覚ます時があったのだとしたら、それは自分が死ぬときであってほしい。
少女は最後の願いとして、それを託した。