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魔法少女なんてありえない!!  作者: 二一京日
第一章 ドキドキの学院生活
13/30

12 彼女の意志

 ロニエは目を覚まして、不思議な感覚になった。

 何だか、寝たはずなのに、寝た感じがしない。


「疲れてる、とか?」


 そう自分で結論付けてロニエはベッドから足を下ろし、立ち上がる。

 その瞬間。


 ガタッ!


 ロニエは体中の力が抜け、床に倒れてしまった。


「え?」


 ロニエはそれを不可解に思って、何度も力を込めて立ち上がろうとするが、一向に立ち上がることができない。

 腕に力を入れ、次に足に力を入れようとしても、どうしても体を支えることができない。


 こんな経験は、今までなかった。

 故郷で苦しい特訓の直後に同じようなことになったことはあるが、起きてすぐにこんなことになったことはない。


「えっと、どうしようか」


 一応、冷静になって、ロニエはこの後どうすべきか考えた。

 このままでは、学院に行くどころではない。


「……しょうがない、かな」


               ♢♢♢


 ある一つの部屋の中に、数十人という人たちが集まっていた。

 彼らはすべて黒いローブを纏い、フードを目深にかぶっていた。

 部屋の明かりは、壁に取り付けてあるろうそくの火のみ。

 ゆらゆらと揺れる火が、その場の不気味さを助長させる。


 その場の人たちの向く方向に一段高い弾があり、そこに一人の男が立っていた。

 その男は、数十人の人々を見渡すと、声を高らかにして言う。


「我らが同士よ!この度の集まりに、よくぞ集まってくれた!私はこのことを嬉しく思うと同時に、誇りに思う。諸君らのその姿勢が、我らの悲願の成就を確固たるものとして進化させていくのだ。我らの歩み、我らの道を、我らの意志でもって切り開いてゆくのだ」


 気合の入った声だが、それに対して誰も答えない。

 しかし、それは別に意志が統一されていないというわけではなく、逆に全員の意志が固まっているがゆえに、改めて声を上げる必要がないのだ。


 だが、それでもその様子は異様だった。

 誰も答えず、誰も余計な身じろぎもしない。

 頷くこともしない。

 普通でない感じが、その部屋の中には満ちていた。


「同士たちよ。我々はずっと待ち続けていた。彼女が無念の中に命を落とし、そして歴史の中で悪しき者とされた。その時からおよそ五百年。我々はこれまで様々な研鑽を重ねてきたのだ。その研鑽は、決して無駄なものではなく、我々にとって価値のあるものだった。彼女が亡き者とされたこの世界で、我らがたくましく生きてきた道は、決して無駄なものではなかったのだ。そのことを、我々はわかっている。理解している」


 静かな部屋には、男の声は良く響き渡る。

 その響く声には、明るい様子が良くこもっていた。


 しかし、どこまでも明るくどこまでも明るい声に反して、やはり部屋の雰囲気は陰湿だ。

 それがとても嫌な感じに思えてしまう。

 どこまでも明るいその姿勢が、どこまでも陰湿な空気を作るという異様な光景が、今のこの部屋だった。


「彼女にとって、自らが築いてきた技術を悪しき者とされるのは無念なことだったはずだ。彼女は決して、悪しき者となるためにその技術を生み出したわけではないのだから。では、彼女が悪しき者となってしまったのはなぜか。それは簡単なこと。同志たちもよくわかっていることだろう。共有していることだろう」


 男の声のボルテージが上がっていくにつれて、響く音は反響し、さらに大きな音となる。

 この部屋が一体どこにあるのか。

 もし、この部屋がどこか町中にある一つの部屋だというのなら、それは周囲へ相当に迷惑な騒音となっているに違いない。


 中にいる人たちは、何一つ疑問には思わない。

 だが、客観的に見れば、明らかに男の言うことは異常者のそれと同じトーンに聞こえてしまう。

 そして、誰も近づこうともせずに、無視することだろう。

 それでも、この場には男の言葉を真剣に聞いている人しかない。


「彼女が悪しき者とされたのは、その時代に生きていた人間が、彼女の扱う技術に追い付いていなかったためだ。彼女の技術を使いこなせたのは、当時は彼女しかいなかった。そのため、人々は扱いきれずに、不具合を多々起こし、自ら世界に危機をもたらした。その責任は、間違いなく当時の人々にあるのであって、彼女には一切ない。それなのに、当時の愚かの人々は、すべてを彼女のせいにして、悪しき者として殺したのだ。そうすることで、世界を救うことができると信じて。まるで、滑稽で馬鹿らしく、愚かのことではないか。自分たちの未熟さのせいで世界に危機をもたらしたというのに、その責任を、すべて彼女に押し付けるなど」


 あぁ、と男は呻きながら、顔を伏せた。

 その顔はフードを被っていてよく見えないが、地面に垂れる雫から、涙しているのだと思われた。

 男は拳を強く握りしめ、今までよりもはっきりと声に力を込めた。


「これを責任転嫁と言わずして何という。確かに、生みの親である彼女に何らかの責任が生じるのは致し方ないことかもしれない。しかししかししかし!すべてを彼女のせいにするのは、きわめて自分勝手な当時の人々の都合なのだ。これを許しておけるものか!」


 ひと際強い声に、その場の人々がようやく一つ頷きを返した。

 それは確かに、一つの意思が確認されたということだ。


「あぁ、我らが同士よ。この理不尽な仕打ちを受けた彼女に、せめてもの救いを与えよう。我らで、彼女の偉大さを示すのだ。彼女の思いの崇高さ、彼女の意志の強さ、彼女の在り方の気高さ、彼女の力の強大さを。我らが彼女に代わって、彼女を排除した愚か者どもに裁きを与えるのだ。それは並大抵のことではないのは、十分にわかっている。理解している。予想している。しかし!それでもなお、我々には成し遂げる力と使命がある。何も恐れることはない。何人たりとも、我らの道を、歩みを妨げることなどできはしないのだから!」


 いつの間にか、男の顔に涙はなかった。

 希望に満ちた言葉を言ったことで、男の中で悲しみが払拭されていったのだろう。

 しかし、それが決していい方向とは限らない。


「我らが同士たちよ!今ここに、我らは宣言し、進むべき道を進むのだ」


 そして、男は一つ息を吸い込み、強く言った。


「我らの魔女の名誉を、取り返す!」

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