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魔法少女なんてありえない!!  作者: 二一京日
第一章 ドキドキの学院生活
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11 少女の記憶力

 少女にとって、日々が過ぎるのは、とても楽しいことだったのだ。

 貧しい家ながらも、家族はちゃんといて、大好きな本も読めて、生きていくことができる。

 世界をよくは知らない少女は、ただそれだけのことで幸せだと思えた。

 それだけで、少女は生きているという実感を得ることができ、日々の生活を楽しんでいた。

 しかし、そんな少女に転機が訪れた。

 ある日のこと、いつものように少女が家の手伝いをし、弟たちは学校から帰ってきて、夕ご飯の用意に入る。

 台所で少女とその母親が料理をしている時、父親が少女に声をかけた。


「ねぇ、もう一度、本を買ってあげようか。今度は売らなくてもいい本を」


「本当!?」


 その提案は少女にとっては、とてもうれしいことで、輝く目を父親に向けた。

 その目をしている少女を、嬉しそうに見た父親は、しっかりと頷いた。


「あぁ、もちろん。いつも頑張っているからね」


 どんな本にしようかと期待に胸を膨らませる少女だったが、すぐに我に返った。


「……でも、お金はだいじょうぶ?」


 心配そうにする少女に、父親は同じようにしっかりと頷く。


「あぁ、今年は随分と良いからね。好きな本をずっと家においておけるぞ」


 父親はそう言って、少女を喜ばせようとした。

 しかし、少女の表情はなかなか晴れない。

 たとえ、今は売る必要がなくとも、後々厳しくなったら、どうせ父親は少女に本を売ることを懇願するということは予想できた。


 少女は別にそのことをみっともないとは思っていない。

 生きていくうえで、絶対に必要なものはあるからだ。

 その絶対に必要なものが、たかだか本を売るだけで手に入るのなら、迷う所ではない。


 だが、みっともないと思っていなくとも、父親は自分のことをそう思ってしまうだろう。

 そうすると、とてもつらい顔をするのは、容易に予想できた。

 そんな顔を、少女は見たくなかった。


 少女は自分の中で答えを出して、笑顔を浮かべた。


「だいじょうぶだよ、お父さん。本はいつもどおり、読みおわったら、売っていいよ」


「だが、何度も読みたいだろう?たった一度ではなく、何度も。売りさえしなければ、いつでも読めるんだよ」


 父親は少女のためを思って、説得した。

 しかし、説得が成功するしない以前に、少女には父親の言葉に疑問があった。

 納得できないところがあった。

 理解できないところがあった。


「ねぇ、お父さん」


「ん?何だ?」


 次に少女が発した言葉に、父親だけでなく、その話を聞いていた母親も驚いた。


「私、一度本を読めば、ぜんぶ覚えられるから、本はなくてもいいよ。覚えてるから、いつでも読めるよ」


 両親には、その言葉が信じられなかった。

 そして、この時初めて、少女は自分が特殊であることを知った。


              ♢♢♢


 次の日には、少女が超絶的な記憶力を持っていることは、村中に広まっていた。

 その日の朝、弟たちが学校に行き、少女が家の手伝いを始めた時、家に複数の大人が尋ねてきた。

 そして、その内の一人には、少女でも見覚えがあった。


 その一人とは、この村の村長だった。


 大人たちは少女のことを認めると、こそこそ話をしながら、少女の方をちらちらと見ていた。

 少女はそれが一体なぜなのかがわからず、困惑するばかりで、その間に両親は、村長を家の中へと上げ、他の大人たちも入ってきた。

 さすがに家の広さの関係で全員は入らず、数人は外に残された。


 普段ならこういう大人同士の話し合いでは、少女は弟たちと同じように外に追い出されるので、今回もそういうことで外に出ようとしたら、それを止められた。

 少女は自分のことなのだということは一切わからないまま、困惑したままその場で緊張していた。


「さて、昨日話したことは本当のことかな?」


 村長が確認を取るように尋ねると、父親がかしこまって答えた。


「はい、その通りでございます」


「そうか。では、その子が言っていた子か?記憶力が良いという」


「その通りでございます」


「ふむ……」


 村長は少女の方へと向くと、少女は慄いて、体を引いて俯いた。

 少女は人前に出ることを得意としておらず、しかも村長という本来なら会うこともない人に見られれば、平静でいること自体が難しいのだ。

 ただ目を逸らすだけで済んでいるのは、ひとえにここが自分の家で、両親が近くにいるがゆえに他ならなかった。


「お主、記憶力が良いのだな。両親がそう言っているが」


「い、いえ。そんな、記憶力が良いと言えるほどのことでは。普通です普通」


「普通、とは?」


「えっと……普通は普通としか……」


 そもそも、少女は記憶力の良し悪しなどまったくわからない。

 今まで記憶力に関することを話すことなど、全くと言っていいほどなかったのだから。


「ふむ。それでは、一度読んだ本の内容を忘れないというのは本当かね?」


 村長の質問は、今回は恐る恐るという感じだった。

 さっきまでの質問の仕方とは、雰囲気が違っていた。


 とはいっても、少女にとってはそんなことはどちらでも変わらず、相変わらず緊張した様子で答えた。


「は、はい。その通りですが……」


 少女はその次に、それがどうした、と続けたかった。

 実際にそのことを、すごいこととは思えていないので、そう思うのだ。

 だが、村長や他の大人たちにとっては、ものすごく価値のあることだった。


「本当だったのか。嘘を言っているということは?」


 この質問は、両親に対して。

 当の本人である子どもを前にして言うのは、少し心を傷つけるかもしれない言い方だったが、それも仕方のないことかもしれない。


「この子は決して、嘘を言うような子ではありません。真面目でしっかりとした子です。嘘などは決して……」


「だが、照明のしようがのう……そこで、じゃ。一つ試しをさせてもらえないか?」


「試し、でございますか……それは構いませんが、一体どのような」


「それは簡単じゃ。一度見てもらって覚えてもらって、その後に何か手を加える。変更箇所を当てるというものだ。」


「はぁ……。それで、一体何を覚えてもらうのでしょうか」


「そうだな…………外の石の並びなんかはどうだ?」


「それは、いくら何でも……」


 少女は会話の全てを理解できているわけではないが、何となく自分が試されるのだろうと感じた。

 そして、その内容で両親が困ったようにしているのもわかった。

 それだけで、少女は手を挙げていた。


 突然の少女の手に、その場にいた全員が驚くような顔をしていた。

 弟たちに言っていた、手を挙げることで注目してもらうというのは、少女の思惑通り成功した。


「それ、やります」


「……本当にいいのかい?」


 父親が不安そうに尋ねると、少女は自信を込めて頷いた。


「だいじょうぶ。なんとかなる」


 少女の自信に、村長は笑みを浮かべた。


「そうか。やってくれるか。ありがとう」


「いえ。それで、石、ですよね?」


「あぁ、それでは一度外に出ようか」


 そうして村長と少女に続いて、大人たちは外に出た。


 村長は家の前にある石の集まりを指差し、少女に説明した。


「これらの石を覚えておいてくれ。その後、わしがどれか一つを動かすから、どれが動いたか当ててくれ」


「わかりました…………もういいですよ。覚えました」


 その覚える速さに、周囲の大人たち、少女の両親も含めて驚きを露わにしていた。


「それでは、移動させるから、目を閉じていてくれ」


 そう言われて少女は目を閉じ、しばらくの間、大人たちは緊張してか声を発しないため、少女の耳には静けさしか聞こえなかった。


「うむ。もうよいぞ」


 村長の言葉で、少女は目を開け、石の集まりを下ろした。

 その違いはすぐに気づいた。

 別にあからさまな変化ではない。

 むしろ、子ども相手にするには大人気ないと言われても、仕方のないほどだった。

 しかし、少女には一目瞭然だった。


「これです」


 少女が当然だとでも言うようにあっさりとその場所を指差すと、少女が思った通り、そこが当たりだった。


「すばらしいな」


 村長のこぼれた言葉に、少女は当然と思っていることながらも嬉しくなって、笑顔を浮かべていた。

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[気になる点] 誤変換:証明 「だが、照明のしようがのう……そこで、じゃ。一つ試しをさせてもらえないか?」
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