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その所以~プロローグ~

波崎夕(はさきゆう)は鬱屈とした気分でパソコンを眺めていた。


異世界転生、異世界転生、悪役令嬢、異世界転生…


「転生モノの多いこと、最強主人公の多いこと、使い古されたテンプレに脚色加えただけの作品の多いこと…」


ぽつりと一人言葉を零し、不愉快そうに眉根を寄せた。自然と漏れ出た唸るような声は、まるで野犬が威嚇するときのよう。更に眉間の溝は深くなる。


アイツは、これを、俺に、書けと、言う。


澱んだ川底のような気分のせいか、思考して浮かぶ言葉も重圧を伴って脳内を占める。振り払うように首を左右に振るが、頭痛のような重みは消えない。アイツ、と呼称する彼女にノーと言えないのは他ならぬ自分のせいだ。


薄暗い室内に鎮座する波崎夕は、一介の売れない小説家であった。


彼にはヒットと呼べるような作品はなく、純文学作家を目指した際の遺産というべき多少の語彙力をもって練り上げた、ライトノベルにしては少し重いテーマを扱った作品が細々と売られているだけ。毛色の違う新人として売り出された頃には多少のファンもいたようだったが、次第に筆が進まなくなり、新刊のペースが落ちれば自ずと人々から忘れ去られていくもの。勿論波崎にも焦りはあった。


だが、純文学作家になりたかった、その気持ちが執筆する気力を削ぐ。


そんな折、彼女にこう言われたのだ。


「小説投稿サイト、ってご存知です?ほら、コレです。最近お話作りに煮詰まっていらっしゃるみたいですし、試し書きと思ってどうでしょうか?あ、勿論良い作品が書けたらウチがバックアップして出版するってことで、上とも話をしてきてます!だからえっと…あ、そうそう。好きなように好きなときに好きな作品を書ける、となれば手が進むかもしれませんよ。気に入らなかったら削除してもいいかもですし。あー…あと、できれば、流行に乗った作品を一作書いてもらえると、いいんですが…ほら、その、腕試しと言いますか」


いつものマシンガントークにいつもと違う愛想笑い、そんな彼女の語り調子を見ていると、最後のチャンスをくれてやるという出版社側の思惑を垣間見たような気がした。

恐らく、波崎の甘えた考えが出版社側に見抜かれているのだろう。


それに、彼は是と応える他なかった。

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