第1-6章 今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる
外はいつの間にか夜だった。
フレイアは静かに歩いて近くの湖の畔に着いた。
やけに大きく輝く青白い月に照らされ座り込むフレイアの隣に俺は近づいた。
「隣に座ってもいいかな?」
フレイアは声を出さず、静かにうなづいた。首にはライプーが寄り添い、フレイアを心配そうに見つめている。
月の光が水面に反射し僅かな揺らぎの光が彼女を照らす。今この空間はどことの世界も繋がっていない、そうとしか思えない神秘的な情景だった。
フレイアを見つめ、今にもいなくなってしまいそうに感じた。このままにしてしまったら俺は後悔すると思った。
だから俺は決意し、話しかけたんだ。
「フレイア大丈夫?俺こんなふうに、嫌違うな。うん!俺君を助けたいと思ってるんだ。力になりたい!貧弱だしさ頼りないかもしれないけど…。でも君を助けたい。君もおばあもミリアちゃんも笑わせたい!」
「俺あんまり頭良くないからうまく言えないけど、きっと君を助けたら、おばあもミリアちゃんも喜ぶと思うんだ。」
「みんなを笑わせたいんだ、俺と会ってちょっとだから信じれないかもしれない。でもみんないい人だと思うからそんな悲しそうな顔にさせたくないんだ」
俺は当たり前だけど台本なんて考えてなくて、でも話し始めたら言葉が溢れでた。とにかく俺の気持ちを伝えてなんとかしたいその一心だった。
フレイアは健気に泣きそうな声で俺の目を見て言った。
「ごめんなさい。私以外に見えない君に言っちゃいけないと思うんだけど」
「私消えるのが怖いの」
「フレイアは消えてないよ、それは俺だけだから大丈夫!」
「違うの…。あのね、女神に選ばれるとね、私消えなくちゃいけないの…」
「フレイア聞かせてほしい、辛いかも知れないけど、女神に選ばれるとどうして消えないといけないの?」
「君みたいな素敵な子が…納得できないよ」
「ふふっ君がなんで怒ってるの?私今大丈夫よ、ありがとう。」
「あのね、明日あいつらが迎えにくるわ。そして、ユミルの怒りを鎮めるために私は遣わされるの」
「ごめんね、私うまく話せてないわよね」
フレイアはこんな時でも俺を気遣い、一呼吸おいた。
「今世界中で、突然雨が止まなくなったり、続く日照りだったり、突風が止まなくなったり、つまり自然が怒ってるの」
「自然が怒るのはね、ユミルが悲しみを抱いて復活したということを意味するのよ」
「この世界は今ユミルが悲しみで支配しようとしてるの」
「ユミルは自然を怒らせることをユミルが従えてる7史神の1人、精霊王フィンヴァラに命じたの。」
「あのね、自然を怒らせるとね世界を悲しみで覆うことができると考えたみたいなの」
「現にね、自然が怒ったあとから食べ物がなくなったり、急に権力争いが起きて戦争がそこら中で起きたり、とにかく世界が泣いているわ」
「森で話してくれた、伝史記にでてきたユミルだよね?」
俺は、この世界に来てから今まで見た風景を思い返していた。
俺が途中で見た真徒と呼ばれる、でかいミミズムカデみたいなモンスター以外平和そのもので、フレイアから聞くような悲惨な状況は全く想像していなかった。
「そうよ、その伝史記にでてきたニートが神になったユミルよ…」
「今回が4回目だと言われてるんだけどね、前起きたのは何千年も前の話みたいなんだけど、その時から伝えられてることがあるの」
「女神に選ばれた物を遣わし時、女神が覚醒し消え、一つの哀しみは癒されるだろう」
「そう伝えられてるの」
「…。」
「フレイアそんなのおかしいよ」
俺は両手をフレイアの肩におき力強く伝えていた。フレイアを助けたい。俺の気持ちはこの理不尽な状況を壊したいと解決の糸口を必死に手繰り寄せようとしていた。
「そんなの言葉がきれいなだけで生贄じゃないか!!しかも、その言い伝えだと一つの災害しか解決しなそうじゃないか!なんでフレイアなんだ?」
俺の心にやるせない怒りが込み上げてくる。
「君優しすぎだよ、この村では他の村の人達にあまり優しくされないから…せっかく、止まってたのに」
フレイアの藍色の瞳に涙が溜まり始め、綺麗な深い藍色の瞳に見つめ返される。
「でもね、私が女神に選ばれるのは、全部理由が揃ってるのよ…」
「私、下民なのに急に成長して…急に上民みたく、身長だって伸びて…」
「そんな奇跡起こらないもの、それを見回りに来た神兵が見て私女神に選ばれたのよ」
「この村は身寄りがない下民の集まりよ、下民は産まれながらに大罪を背負ってるから成長しないって言われてるのよ。みんなはそのままで私以外こんな風に成長したのを見たことないわ」
「下民が私みたく成長するなんてこんな事他でも聞いたことないわ」
「それにこの村は何千年も前から、ツカイの村って言われてるの」
「女神に選ばれるまでわからなかったけど、ツカイの村。つまり遣いの村って意味だと思うわ!」
「この村の近くの祠がフィンヴァラの祭壇って言われてるの!」
「もうここまで揃ったら私女神に選ばれることを受けいれるしかないじゃない!」
「それに神兵は言ったわ、わたしが女神になれば、おばあ達は大罪を許され上民を名乗ることを許されるのよ!」
「そうしたらもっといろんな所にも行けるし、薬草や食べ物の種だって買うことができるし、みんなを楽させてあげられるのよ!」
「ミリアも言ってたけど、見えざるものってきっと君の事よ。だから私は女神に選ばれたのは間違いじゃないわ!」
フレイアは抑えくれなくなった感情が溢れて、溢れて。
「ごめん、俺が君に出逢ってしまったから」
俺は優しく伝え、いつの間にかフレイアの手を優しく握っていた。
「ごめんね、そんなんじゃないの、わ・わたしそんなつもりじゃないの、わたし・が・下民だから、わた・しの・・私のせいなのきっと、私が・罪を背負ってるからいけ・ないの、だか・ら・わた・てん」
俺はフレイアを抱きしめていた。
「フレイアは悪くないよ。」
「俺が君を救う、君もおばあもミリアもツカイの村のみんなも」
「君優しすぎるよ…私君に何もしてあげてないのに」
俺はフレイアの涙が止まるまで、青白い月の中フレイアを抱きしめた。強い決意と供に…。