第1-4章 ふたりごと
フレイアはゆっくりと俺の目を見て話し始めた。
その目の綺麗さに吸い込まれるように、俺も耳を傾けた。
こんなに真面目に物語を聞くのは、いつぶりだろう?もしかしたら、幼稚園の時以来かもしれないと思いながら。
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「むかーしほんとーにすっごく昔。
月が空の上になくて、地のどこかにあってあたりまえだけど國もなかったころのお話。
この世界にはほとんど何にもなかったの。私達、人も動物も、木も。
あるのはずぅーっと続く終わりがない地面と大きな大きな石一個だけ。
地面と大きな大きな石一個とニート一人だけだったの。
ニートはいつも1人ぼっち、来る日も来る日もいつも1人っきり。
ニートは気持ちがなかったから寂しいとか、悲しいとか思わなかったの。
でもある時急に悲しくなったの、気持ちが生まれたのかしらね?
きっかけはわからないけど、ニートは悲しくてすごくすごく寂しくて、初めて泣いたの。
来る日も来る日も泣いたわ。
この世界中が、涙で溢れて埋まってしまうくらいに、何十年も何百年も泣いたの。
ようやく涙が枯れ果てて止まっても、壊れかけた心の寂しさは消えなくて、
その心を表すかのように世界中が氷に包まれたの。
そこからまたずぅーっと何年も何年もたった頃には、悲しみをいっぱい抱えた体は大きくとっても大きく、今隣にある木よりも、何倍も何倍も大きく膨れあがって、やがて哀しみを司るユミルと呼ばれる神様になりました。
ユミルは寂しくて氷を使ってオーヴィとオーフという神様を創造しました。オーヴィとオーフはユミルよりすごく小さくて私達くらい。
1人ぼっちじゃなくなくなったユミルは喜び幸せという気持ちを覚えました。
オーヴィ、オーフ、ユミルは楽しく暮らしてたんだけど、ある日オーヴィとオーフは自分達よりもとても大きいユミルが笑ったのをみて恐怖を学びました。
自分の何倍も大きな口が目の前に、生々しく。
いろんなことを知らない2人にはそれがとても怖かったの。
そして、二人はそれを表現することもできなくて…隠したのかもしれないけど。
オーフとオーヴィはお互い足りないものを補うように惹かれて、子供が生まれたの。
その子供と子供にも子供が生まれてたくさんの子孫達に恵まれたある日…。
ついにオーヴィとオーフの二人は、長年忘れられないあの恐怖を忘れるために行動を起こしたの。
子供達に同じ思いをさせないためかもしれないわね。
大きな大きな穴をほり、ユミルを大きな穴に落として殺してしまいました。
何年も何十年も暮らすうちにいつのまにかユミルの中身は、暖いきもちが包まれていたの。
ユミルが砕けた穴の底から春が来て、草木はどんどん芽吹き、暖かい自然に溢れた世界になったの。
殺されたのになんか悲しいわよね。
その時、ずっとずっと昔泣いてた時から地面の上でユミルを見ていた大きな大きな石は、いつの間にか涙の海氷かなくなったあとは空に残されたままになっていました。
大きな大きな石は悲しくて悲しくて、悲しみが溢れ輝くようになっていました。
それが今も光ってる月なの。
月は今でもずっとずっとユミルを思い出し悲しみ続けているの。
流れ星は、月がユミルを思い出して悲しいときに泣いてる涙なのです。」
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「おしまい、上手く話せたかしら?
この世界の人はオーヴィとオーフの子孫と言われてるのよ。
ほんとはまだ少し続きがあるんだけど、また今度話すわ」
フレイアの肩の上でライプ–が首に頭をなすりつけながら気持ち良さそうに寝ている。
よく歩きながら寝れるなあ、可愛い寝顔だ。
「ニート悲しすぎるな、きっと暖かくなるために、ユミルになって神になったはずなのに」
「あたしも初めて聞いたとき、すっごく悲しくなったわ。
きっと、今思うと、悲しみを忘れないようにするために今でも伝史記として残ってると思うの」
「俺はこの話あんまり好きじゃないなあ、だってユミルもきっと・」
「ミィッ!!」
ライプーが急につぶらな目を見開き、立ち上がり鳴く。
「しっ!! 早くそこの木に隠れて、早くっ!!」
木の後ろから息を潜めて見た。
そいつは禍々しいオーラを放っていた。
直径3メートルはありそうなミミズのような胴体に、10メートルくらいの長さがある。
直線4本のラインで頭?の先から後ろ側まで続いている。
よく見るとラインは手のひらほどの毛虫のような足?が、何千いや、何万?と無数に不規則に動いている。
我ながら冷静に観察しないと、生理てきに気持ち悪すぎて、吐き気が…其れ程気持ち悪い。
「また覚えてないと思うから言うけどあれが真徒よ。
ふつうのモンスターとは違うんだから、意志があるのかないのかわからないけど、目の前のものわ食べ尽くすの。
モンスターでも人でも、精霊術も剣術も何も効かない、手の尽くしようがないわ」
「それは無敵すぎるな…」
説明してもらってるのに何にも頭に入ってこない!!
俺コメント短っ!
俺もっと粋なコメントしろよっ!
俺の後ろにさらに隠れたフレイアがね…だってしょうがないよね。
俺DTだもん…。
俺の右肩後ろに全神経が集中してるよね。
あたってるんだよね、柔らかいものが、胸が!!
最高だね…と思った瞬間、隠しきれない視線に気づかれたよね…
「君って、サイテー」
「えっなんの事かなあ」
おもむろに目を離しつつ、俺は見てた。
フレイアの恥ずかそうに両腕を交差して胸を隠す仕草が、反則級に可愛かったことは言わないでおこう。
そしてそのあと「ムミ〝ィッ」という声とともにライプーに噛まれたから、あいこだよね。
「ほんっとに気づかれなくて良かったわ。
気づかれたら私達でどうしようもないもの」
あっなんか1人と1匹の視線が痛い。
そんなわけで真徒に見つからず、モンスターにも見つからず、フレイアの村が目視できるところまで来た。
これがただのラッキーではなかったことにあとで気づくのだったのだ。