悪役的少女と悪役令嬢。
金さんと銀さんに案内された彼らの住まいは純和風のお屋敷でした。行きたくもない校外学習で連れていかれた武家屋敷の様な佇まいです。こうもっと平安的な建物をイメージしてましたが、こういう建物も前世っぽくて良いですね。パタパタと廊下を走る足音を2つ聞きながら挨拶をしようと思ったら突如衝撃が2つかかりました。
「貴方が救世主さま!?双黒じゃない!!まぁ、嬉しいわ!!私は瑪瑙!」
「本当に本当にちゅ…きゅううせいちゅ…しゅさま!?僕はヒスイです!!」
私と同じくらいの色とりどりに光る目を持つ黒髪の少女と緑色の瞳の小学生低学年くらいの少年に抱きつかれました。金さんと銀さんは苦笑しています。
「初めましてサラです。」
こうして、私は今後お世話になる家の方々と無事、遭遇することが出来ました。彼らは私の為に歓迎会を開いてくれました。宵も終わりに近づいた頃私は用意された部屋に帰りました。
暫くするととんとんと床を叩く音がします。お化けかと思いましたが襖から顔を覗かせたのは瑪瑙さんでした。
「サラ…王太子にはお会いした?」
「王太子様ですか?お会いしましたよ。」
あれですよね、あのもるんのチャームに当てられて私に訳わかんないことしてくれちゃった人ですよね?
「どう思いましたの?」
「危ない人だなと。」
「素敵だなとか、結婚したいなとか、王太子様の子供が産みたいなとか、王太子様と…「無いから。有り得ない。」まぁ!そうですのね!なら、安心ですわ。」
ふーん、瑪瑙さんは王太子様が好きなのか…趣味があまり宜しくないなぁ…確かに正統派イケメンなのは認めるよ?yesイケメンNoタッチだよ。
「好きなので…「有り得ませんわ。アイツには不幸になって欲しいのですわ。誰かと結ばれて幸せに暮らすだなんて…風の噂で彼はサラを口説こうとしたと聞きましたの。そんなことは今まで1度も無かったので、もし、サラが王太子を思っていたらハッピーエンドですわっ!!そんな事許せませんのっ!」いや、ちょいまち…なんで、そんなに王太子様が嫌いなの?」
「まさか!あれは、前世の事。なんど彼にバットエンドに導かれた事か!!更には私の愛しい蛍石の君をさんざん馬鹿にして翡翠ちゃんをイジメたんですわ…あぁ、許し難いですわ。」
前世云々はただの逆恨みじゃない!?うん?瑪瑙さんは前世の記憶が有るの?もしかして、ここが瑪瑙さんの行ってるゲームの世界だという事は王太子云々で推測出来るとして…上手く聞き出せばこの先役に立つんじゃないの!?
「ここってゲームの世界なの?」
「えぇ。貴女は多分悪役ね。もう1人の救世主がたぶんヒロイン。攻略対象は、王太子、翡翠ちゃん、近衛騎士団団長様、今後貴女の世話係に付く魔導師団団長に隠しキャラで銀お兄様と蛍石の君よ。」
「貴女の役目は全てのキャラをチャームで操る悪女って所ね。それにしても貴女…いくつ?」
うっわぁ…死亡フラグって奴じゃない?もう既に誤って王太子様をチャームしちゃったよ?大丈夫?本気で。
「私…高一ですよ。つい最近入学したばっかりの。」
そう言うと瑪瑙さんは私の服をまくり上げた。ぺたぺたと私の体を触っていく。時折暴力とイジメの痕に触れるのがたまらなく痛い。それと、触る手つきがイヤらしくなってきて危機感を感じた。
「貴女…向こうで何されてたの?こんなに傷跡つく?滅多刺しにされて死んできたわけ?」
「いえ…鈍臭いのでコケました。気にしないでください。」
なおも食い下がろうとする瑪瑙さんを柔らかくて曖昧な笑顔を浮かべて否定する。逃げ出したくなって瑪瑙さんを部屋に置き去りにして走り去った…
までは良かったのだ。ただ今絶賛迷子中だ。何やら、怪しい森の中で如何にも悪そうな2人組に服をまくり上げられている。
「お嬢ちゃん、こんなに傷つけられて可愛そうに。お兄さん達が慰めて上げよう。」
ニヤニヤとイヤらしい笑を浮かべながらスッと傷跡を撫でられた。苦痛に顔が歪む。そんな時だった。
「そこで何をしている。この時間この森は立ち入り禁止のはずだ。」
凛と芯の通った低く太い声が聞こえた。決して甘やかな声では無い。だが、全ての人を魅了して止まない様なカリスマ性溢れる声だ。その声を聞くと2人組は一目散に逃げ出した。私も逃げ出したかったがどうやら腰が抜けた様でその場に座り込んでしまった。
「大丈夫だったか?さぁ、この森は立ち入り禁止だ。君も早く出なさい。」
思いも寄らない言葉は優しい声色だった。怒られるかと思ったが、そんなことはなかった。
「もしかして…立てないのか?」
突如抱き上げられた。驚きで声が出ない。ドクドクと異常な迄に早い心臓の音が聞こえた。
「ふふ…可愛い奴だな。もう、大丈夫だ。この私に任せなさい。」
……!?また、勝手にチャームしちゃったの!?ほんとにもう!もるんは勝手なのよ……勝手なのは、もるんじゃなくてチャームだけど。じっと私を抱き上げる彼を見つめる。黒い髪を無造作にかき揚げたオールバックからこぼれ落ちた毛先が時折彼の異常な迄に赤い瞳の前で揺れる様は非常に色っぽい。
「あぁ、名前を名乗って無いな。私はエルリック、これでも一応近衛騎士団の団長をしている。君はこの度招かれた救世主の1人だろう?」
不思議そうに彼を見つめる私に気がついたのかじっと私の顔を見つめる。今は、お姫様抱っこをされている状態だから顔が近い。しかも、イケメンだ。
「言葉…分かります…銀さん達の言葉しか分からなかったのに…」
「あぁ、母方の祖母が銀の出身国から嫁いで来たんだ。私も、珍しい黒髪だろう?」
彼は笑って答えてくれた。笑顔が眩しい…ハゲの校長の照り返しを直視してしまった気分…というのは冗談でみょうに気恥ずかしくなった。
お久しぶりですね。
だいぶおやすみしてました。