一族編 57、なにかが
〜本家〜
縹組本家には、次々と幹部が集まっていた。
全国六箇所に縹組は存在し、各地域のトップがこの縹組本家に集結するのだ。
「じゃ、そろそろ始まりそうだし、俺らは各位置の警備にあたるぜィ!」
カリアは庭付近、双子は大広間前、ルピィは裏口に待機することとなった。
時間が近づくにつれ、周りの雰囲気は張り詰めたものとなりつつあった。そんな雰囲気を察したルピィは、やはりエスターテは観光に行かせておいて正解だと思った。
恐らくこの場にエスターテがいたのなら、恐ろしさに泣き出していたかもしれなない。
「道に迷ったりしてませんよね?」
なかなかあり得そうな光景に、ふふっと場違いな微笑みを零す。
そろそろ、会合が始まる。
午後二時三十分
〜本家・庭〜
会合は、不気味なほどに何事もなく終わりを迎えようとしていた。
いつものように各地域の報告を聞き、これからの方針などを話し合い、〜の次期総長はどうするかなどの、組の重要な話し合いが済んだ。
毎年、会合が終わるまでには必ず来ていた榊組はまだ来ていないのだ。
何十年も続いて来た事が起こらないという、奇妙な感覚を覚えながら、会合は終わりとなった。
その時、本家のいたるところで煙幕が上がった。
少し気が緩みかけた所の攻撃。組中大騒ぎになる。
「やはりきたか!!」
「卑怯な!周りがみえねぇぞ!」
「今年は何かおかしくねぇか?!」
パァン!!!
どこかで銃声が聞こえた。
それに続き、悲鳴。
「なんだなんだィ?!今年は相手さん気合い入ってんじゃないかィ」
いつもの調子で話しているカリアだが、顔には焦りが滲んでいる。
こちらからはなにも見えない状況での攻撃。ただナイフを構え、向かってくる敵を待つしか出来ない。
もし煙幕から出て、この屋敷の外へ出ようものなら敵の的になるだろう。
カン、
足元を見ると手榴弾。
まずい、と咄嗟にその場を離れるが、手榴弾からは煙が噴き出していた。
「ほほーなるほど。煙幕でこちらの身動きを取れなくして、外から攻撃してるんだねィ…
…んでこっちの戦力をある程度減らして突撃!と」
確かに、毎年この屋敷の庭が戦いの主となっていたので組員もある程度庭に集まっていたのだ。
「おかしい……なーんかおかしいでさァ」
縹組と、榊組の毎年の争い。これはある種の祭りと化していたのだ。
お互いの組の縄張りを賭けて戦うので、死者や怪我人は出る。だが、この地域を背負う極道として、誇りを持って正々堂々戦っていた
。
お互いそうしよう、と決めたわけでは無いが、長年続く争いの中で暗黙の了解となっていた。
だが、今年はいつもと違う時間帯に、こちらからは迂闊に手を出せないような手段で攻撃をしかけてきた。
なにかがおかしい。