一族編 55、縹組
〜本家〜AM7:00
カリアの一族が住んでいる、極道一家の本家に着いたエスターテは、あまりの感動に言葉を失っていた。
年代を感じる重みのある日本家屋。
丁寧に整備されている、日本庭園。
いつも、遠い地で憧れながら資料を見ていたエスターテにとって、全てにおいて感動の対象にあった。
「か、かっこいい……!ルピィ!!凄いよ!見て見て!!」
まるで子供のようにはしゃぐ姿に、ルピィはなんだがエスターテの保護者のような気分になる。
「こら、エスター、あんまり騒ぐと家の人に迷惑ですよ?」
「!」
そうルピィが言うと、青ざめた顔で口を塞いだ。
どうやらあまりの感動に、ヤクザの家の前だということをすっかり忘れていたようだ。
「カリアさん〜これなんて読むんスか〜?」
リンクが表札の前で首を傾げる。
表札には、
縹組
と墨で書かれている。
「こりゃァ、はなだ ぐみ って読むんでィ。縹は、姓で組はファミリーみたいなもんでさァ」
そうこう話していると、中からタレ目で優しそうな青年が出てきた。
とてもヤクザ関係の人には見えない。
「おや、カリアにエレナさんじゃないかそれにネロディーファミリーの皆さんも!」
そう言って嬉しそうにカリア達を見渡す。
「久しぶり!元気そうね!」
カリアの祖母、エレナも嬉しそうに飛びつく。
「カリアさん、この人は?」
「えーっと、ちょいとややこしいんだけどねぇ……この人は、婆ちゃんの従兄弟の子供。縹組本家の人で、今は縹組のボスさァ」
カリアの、祖母の、従兄弟の、子供……
エスターテは軽く目眩を起こしそうだった。
というか、この優しそうな男の人がボス??
「おや?貴方は初めましてですね?私は縹組の組長をしてます、縹 正文です」
「ハ、ハジメマシテ!!エスターテ・ロンです」
「エスターテさんは日本語がお上手なのですね!さ、どうぞ皆様中へ」
正文に促されて、一同は縹組本家へ入った。
縹組本家は、屋敷と呼ぶのに相応しい広さだった。長い廊下、沢山の部屋。
一人でいたら迷ってしまいそうだ。
泊まるための部屋を一人一部屋与えてくれ、正文は会合の準備があるからと、忙しそうに去って行った。
「さ、エスター。これをプレゼントしちゃいます」
「?これは?」
ルピィから紙を手渡され、それを広げてみると地図のようだった。
「この辺りの地図です。観光スポットや、美味しい食べ物屋さんが書いてあるんですよー!」
「え!!観光?!いいの?」
キラキラと目を輝かせる。
「まさか本当にエスターを護衛につかせるワケないじゃないですか〜エスターが死んでしまいます」
ニコニコと言うルピィだが、言葉が心に相変わらず突き刺さる。
「会合は正午から始まって午後2時ごろには終わる予定です。ネロディーファミリーが人手不足とは言え、こちらの優秀な幹部四人と縹組の皆さんがいますからね!だれが襲ってこようが余裕なのですよ!」
と、隠れていない片目でウインクをする。
「おおおお!!カッコいい!!ルピィさん!」
「安全を考えて、帰ってくるのは夜のがいいですよ?」
「わかった!」
エスターテは、うきうきと鞄に地図を詰め込んで、出掛ける支度を始めた。
そんなエスターテを見てから、ルピィも会合に向けて準備を始めた。
この時、ルピィは完全に油断していた。
いや、ルピィだけでなく、本家中少し油断していた。
毎年のように会合の終わりを狙ってやってくる、榊組。
お互い全力でぶつかり合い、勝ったほうがこの辺りの土地を縄張りにできる。
そして、縹組は毎年勝ち続けていた。
今年も、こんな風に会合の日が終わると思っていた。
だが、この時すでに何時もとは確実に違うことが本家で起こっていた。