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なんじゃこりゃー!

 怪鳥に襲われている美鳥は、あわやというところで狐、蝙蝠、熊によって救われた。

 傷つき倒れる美鳥を気遣う狐。

 影を操る蝙蝠美少女。

 すんごい爪を携えた熊。

 颯爽と現れた三人(匹?)の命の恩人(ヒーロー)は戦闘後、傷ついていた美鳥を湖畔に寝かせて献身的に介抱し、美鳥が目覚めるとそれぞれが喜びを露わにして忠臣のように跪いたのだった。


 ……ごめん。ぶっちゃけ俺も何を言っているのか分かってない。


「クォン?」

「主様?」

「……」


 遠い目で物思いに耽っていると、三人が心配そうに顔を上げる。


「……いや、何でもないよ。それよりも、その……三人は本当にあの三匹なんだよな?」


 念のために確認をとる。特にキキとグルー、お前らだ。

 いったい何がどう間違えばそんな超進化に至るのか。


「もちろんでございます! 我らは正真正銘、主様に救われた者。主様に忠誠を誓う下僕にございます」

「やっぱりなのか……。で、その主様ってなによ? 俺は別にお前らを救ったつもりはないし、むしろ救われた側だろ」

「いいえ。我らは確かに救われました。行き場のなかったクオンに手を差し伸ばし、〈皮剥ぎ〉にやられて両腕が使えないグルーを治療し、私には尊い御身の血をお分けくださり。――なにより! ただの動物でしかなかった我らに〝加護〟をお与えになり、進化までッ! そんな我らが主様に忠を尽くすのは至極真っ当なこと。明々白々の道理でございます」


 恍惚と。まるでアイドルにでも会ったファンみたいに俺を見つめるキキ。

 怪鳥と戦っていたときも危険そうな美少女だと思ったけど、今のキキは別の意味でヤバい。下手をすると布教して、新興宗教でも開闢しそうな勢いだ。

 それは残りの二人も同じで。

 程度の差はあれど、俺に対して等しく熱い視線を送っている。


「……すまん。その〝加護〟ってなんなわけ?」


 一先ずはその熱視線を無視して疑問に思ったことを尋ねる。


「これは可笑しなことを。主様が我らに授けてくださった祝福ではございませんか」

「俺が……?」


 はて? 俺は前世今世合わせても、神官のようなことは一度もやったことはないのだが。


「他者に〝加護〟を与えるなどと非凡な行い、(あまね)く三千世界を見渡しても主様以外に誰が成せましょう。……主様? どうなさいましたか? もしやご気分でも優れないのでしょうか?」

「…………ははは! 何の問題もない! そうだったそうだった。頭を強く打ったせいでド忘れしていたよ」

「それはいけません! 直ぐにでも栄養のある物をお持ちいたします故、どうか今少しお休みください!」

「大丈夫大丈夫。うんうん〝加護〟ね〝加護〟。いやー思い出したからもう大丈夫。ははははは――」


 ……つまりはどういうことだ?


 言葉からしてなんかこう『君に良いことがありますように!』みたいな、おまじないとかお祈りみたいのを想像していたんだが。

 そんなんでここまでの変化――もとい、進化などあり得るだろうか?

 考えられるとすれば……やっぱりこの身体だ。


 キキに与えたのは『血液』。

 グルーに与えたのは『羽根』。


 それらがこいつらの言う〝加護〟や祝福とやらになったのではなかろうか。

 そりゃあ俺の身体の一部が? え、それなんて人肉捕食主義者(カニバリズム)? という思いもあるけど、それ以外に考えられない。


 まったく、あっちの世界だったら一発で禁止ワードに定植する禁忌だぞ。

 やめろよ。俺の存在がR指定になっちゃうじゃねえか。健全な鳥を捕まえてそりゃねえよ。


 でもそうなると、クオンには特に何かを与えた記憶がない。見たところクオンだけは姿形が変わっていないようだし。聞く限りによるとクオンもなんかしらの〝加護〟を受けているようだけど、一概に〝加護〟イコール進化とはならないのかもしれない。知らんけど。


 ……ちょっと待て。今思えばグリーの怪我を治療するとき、なんで羽根が包帯みたいになったんだ?

 あの時はなんか当たり前みたいにやってたけど、そんなことができるなんて『俺』は知らないぞ。

 いや、そもそもの話、いくら転生したとはいえ、空の飛び方とか鳥になったときの違和感のなさはおかしくないか?


 ……駄目だ。分からないことが多すぎる。

 疑問が一つ浮かんだら芋づる式に次の謎が出てくる今の状況は、考えるのが苦手な俺にとっては陰鬱とした気分にさせられる。この解決策として一番手っ取り早いのは、流暢に言葉を話すキキに聞くことだが……それを素直に聞くのは戸惑われる。


 そりゃあ聞きたいことは山ほどあるよ?

 でもなんてったって、こいつ等はあの怪鳥を赤子の手をひねるようにぶっ倒したんだ。なぜか今は俺に恭順の意を示してくれているが、機嫌を損なわせる、もしくは俺が大した存在じゃないことがバレて失望でもされた日には………………え、死?


「……」


 ここは相手の出方をうかがう意味でも、相手が求める対応を心がけるべきだろう。


 結論を下し、俺はあえて尊大な態度で接することにした。

 ビクビク怯えているよりも、堂々としていたほうが話を合わせやすい。


「え、えっと! 危ないところをた、助けてくれてありがとうございました! お三人様がそんなにもお強くなられるとは思ってもいませんでしたよ。いやーまこと天晴な健闘ぶり! 皆様が一緒ならばわたくしも心強いというもの! こんなことなら最初から共に行動していれば良かったですね!」


 ……ごめん。チキンな俺に、よく知りもしない相手に偉そうに話すだなんてやっぱり無理だ。色々と考えたせいで最初以上に挙動不審になってしまった。声も上ずっていて、あからさまに不審だろう。

 現に、三人とも顔を見合わせている。もしかしたら俺の不安が不満として受け取られてしまったのかもしれない。


「――ち、違いますよ!? 別に、もっと早く来てくれればよかったのに、なんて思っているわけではなくてですね! 単純にそうしとけば良かったというわたくしの後悔であって、三人に何か不満があるとかでは決してないです! はい!」


 とってつけたような弁明。

 卑屈なまでに低姿勢になった俺を見て、三人の反応は俺以上に行き過ぎたものだった。


「くぅ~ん」

「主様……。なぜそのような他人行儀な……もう、私たちなど不要という意思表示、なのでしょうか……?」

「……」


 クオンは目を見開いて。

 キキは涙目で。

 グルーは……心なしか落ち込んでいるような気がする。


 これは失敗したか……?


「そうですか……主様に不要と判断されたのならばこの命、路傍の石も同じ」


 俺が黙りこくって逡巡していると、キキは自分の影から等身大の鎌を取り出して自らの首に宛がった。


「無価値な(しもべ)に存在価値はありません。どうかせめて、主様の前で果てる事をお許しください。愚かな者の今際(いまわ)(きわ)が主様の前なれば、至極の幸運でございます」


 ……なにしてんの?


「――なーんちゃって冗談冗談! よくぞやってくれたぞお前たち。大義であった! 余は満足である! だからちょっとその鎌を下ろそうか!」

「それでは――ッ! 主様に使える栄誉を賜えるのでしょうか!?」

「うむ許す。これからも励めよ」

「あぁ――慈悲深き御身に最上の感謝と忠誠を! これよりはより一層主様に誠心誠意仕えさせていただきます!」


 おいこの子、今ナチュラルに自害しようとしたんだけど。

 蕩けるような笑みを浮かべてるけど、脅しだったよね。今のはどう考えても恫喝に近かったよね。

 え、なに? 実は俺にスプラッタ映像見せてトラウマを植え付けるのが狙いなわけ?

 ヤダ、なにそれこわい。


「はぁ……」


 一難去ってまた一難かぁ。性格に難がある蝙蝠美少女とか誰得だよ。

 でもま、こいつ等は異常なほど俺に懐いてくれてることは分かったわけだし。一人でいるよりはずっとマシか……?

 俺なんかじゃこの世界の生き物に太刀打ちできない事は十二分に理解できたし、誰かと一緒ってのはそれだけで心強い。


 うんそうだよ! 仲間が出来たと思えばいいじゃないか!

 なんか盛大な誤解をしてるみたいだけど、接していく内にその誤解も解けるだろ。


 仲間と協力して安住の地を目指して生き残る。

 そしてゆくゆくは皆でのんびりと、のほほんとしたほのぼの生活。自給自足のスローライフを送る――いいな、いいぞ、それ。ロマンがあるじゃないか。


 麦わら帽子を被って畑を耕して、そこら辺の木を使って掘っ立て小屋を建てるんだ。

 そして時折、俺はその屋根に上って風見鶏の真似事でもして笑いを誘う。


 いいね。いいかも。いいんじゃないの。

 前向きに。ひたすら前向きに考よう。

 引きニートになるよりも、そのほうが人として上等な生き様だ。


「よっしゃわかった! クオン、キキ、グルー。忠誠云々は置いといて、とりあえずは仲良くやろうぜ!」


 え? いきなり馴れ馴れしくないかって?

 ッフ。ダチになるのに理屈なんていらないのさ。

 こいつ等、どう見ても害意があるようには見えないし、命を救って貰っておいて怖がるとか人としてどうよ。


「くぅーん」

「ありがたき幸せ!」

「……」


 そりゃあ最初は本能的に怖がってしまったが……。

 前言撤回とか至言だと思うわけよ。


 俺は恩知らずでも、厚顔無恥でもないからな。感謝はしっかりとするつもりだ。

 せっかく向うから仲間になりたそうにこちらを見ているのに、それを無下にするなんて男が廃る。

 友達を作るコツは多少強引でも距離を詰める事にあるのさ。


「さあ、おいで」


 俺は両翼を広げて慈愛の笑みを浮かべる。――鳥顔だけど。


 三人は俺の奇行にやや戸惑ったようだが、俺が頷くとクオンが首に巻き付き、キキは「恐れ多い」と言いながらも勢いよく飛び込み、グルーはゆったりとした足取りで近づいてくる。

 なんだか某青春ドラマみたいなノリだ。今なら夕日に向かって走り出してもいい。


 ()い奴らめ。

 ちょっと面積が足りないが、それでもしっかりと両翼で抱き締めるてやる。高級羽毛布団顔負けの触り心地は自身で立証済みだ。惜しみなく味合わせてやる。

 そう両翼で。


 ……………………って、



片翼(みぎうで)が生えてるぅうううーーーー!」


 え? ちょっと待てよ。俺の右腕って吹き飛んだよね? なんで何事もなかったように治ってるの?

 トカゲの尻尾じゃないんだから、さすがにこの回復力は異常だろ。もうこれって回復じゃなくて再生じゃねえか!

 おいおい、いい加減にしてくれねえかな。毎回毎回、起きるたびに驚愕してる俺の身にもなってくれよ。

 このままだとその内『リアクション鳥』とか言われて、ひな壇で騒ぐ芸人みたいになるぞ、俺。


 ……高視聴率が期待できるかもな。


 じゃなくて!

 人間離れもいい加減にしろ!








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